ふなずしと化粧筆 コロナの時代の伝統産業は

ふなずしと化粧筆 コロナの時代の伝統産業は
シリーズ「コロナに負けるな!中小企業」。今回は地域の特産品の作り手を紹介します。滋賀県特産のふなずし、そして広島県に伝わる熊野筆、職人によって代々引き継がれたこれらの特産品も感染拡大の打撃を受けています。コロナの時代、消費者とのつながりをどのように保ち、そして製品の魅力をどう伝えていけばいいのか。前を向いて新しいビジネスに挑戦しようとする経営者たちを取材しました。(大津放送局記者 門脇誉幸/広島放送局記者 諸田絢香)

変化にあわせて変わらねば

1000年以上の歴史があると言われる保存食、ふなずし。琵琶湖でとれたニゴロブナを塩漬けにしたあと、ごはんを重ねて自然発酵させた滋賀県の特産品です。

高島市にある1784年創業の老舗店で、このふなずしを手がける7代目の左嵜謙祐(さざき けんすけ)さん(43)。感染拡大で店頭販売の一時休止を余儀なくされ、4月の売り上げは去年の同じ時期と比べて半分に落ち込んだといいます。左嵜さんは、こうした変化への対応力が伝統産業にも求められると考えています。
ふなずし店「魚治」 7代目の左嵜謙祐さん
「新型コロナウイルスによって起こる変化にあわせて自分も変わらなければならない」

陽はまた昇る

左嵜さんは、今、SNSの活用など、新しい販売方法、顧客との新しいつながり方を模索しています。注文してくれた遠方の顧客には、商品とともに左嵜さんが撮影した写真を同封しました。琵琶湖をバックにした地元、海津大崎の桜。そして対岸の山から昇る太陽が湖面を照らし出す写真です。

「陽はまた昇る。コロナの影響を乗り越えましょう」というメッセージを込めたといいます。商品とともに写真を受け取った顧客からは「外に出歩けないなかで、うれしかった」などという声が寄せられたそうです。

父親の味を引き継ぐ

左嵜さんは、小学生のころから家業のふなずし作りを手伝うなど、生活の中に常にふなずしがありました。ひそかに考古学者になりたいという夢をもっていましたが、高校2年生のとき、ふなずしを作りながら父親と交わした会話が人生を変えました。

父親は、「自分にも夢はあったが、ふなずしを作る役割が自分にあると考えて跡を継ぐことを決めた」と左嵜さんに語ったといいます。

左嵜さんは大学を卒業したあと京都の店で修行し、25歳から実家で本格的にふなずし作りを始めました。父親が亡くなってから、自分1人でふなずしを作るようになりましたが、その味が父親の味と同じだと感じたときは、本当にうれしかったと話します。
左嵜さんは、伝統的な製法でふなずしを作ろうと、7年前、ふなを漬け込む容器をプラスチック製のものから、伝統的な木おけに変えました。もちろん味に対するこだわりもありましたが、木おけの作り手が少なくなるなかで、ふなずしの伝統をともに守ってきた産業を支援したいという思いもあったといいます。
左嵜謙祐さん
「伝統は一度なくなると、またそれを作ることはできなくなってしまいます。後世によいものを伝えるために、そして文化を下支えしてくれたことへのお礼として応援させていただきました」

家庭の団らんにふなずしを

ふなずしの原料となるニゴロブナの数が減り、今や、ふなずしはハレの日や宴会向けの高級品と言われるようになっています。しかし、左嵜さんは、新しい生活様式が求められる今、この伝統食を家庭の団らんの中で食べてほしいと考えています。
左嵜謙祐さん
「ふなずしはもともと、それぞれの家庭で作られ楽しむものでした。伝統食だからとあぐらをかいていると、ハレの日にしか食べられないようになってしまいます。これからの時代、家庭での食事が増えるならば、1食分だけ楽しむというような形で食べやすいように提供することになるかもしれません。家庭の食卓に戻すために挑戦したいです」

筆の町にもコロナの影響が

日本一の筆の町として知られる広島県熊野町。地元に伝わる熊野筆の生産は江戸時代の後期に始まり、今では毛筆、画筆、化粧筆ともに生産量は全国トップとなっています。筆を作る工程は70以上あります。
材料となる動物の毛を選別し、必要な長さに整えて軸に取り付ける。そして軸の部分に彫刻を施す。これらのほとんどが手作業で、熟練の技が必要になります。手作りの化粧筆は、肌触りのよさと適度な弾力性が特徴で、海外でも人気が高まっています。
丸山長宏社長(51)の会社も、この化粧筆を主力製品としています。従業員はおよそ30人。化粧品会社から生産を請け負う「OEM」が全体の75%、残る25%は自社のブランドで展開しています。

しかし感染拡大の影響で、製品を卸している化粧品会社での販売が落ち込み、4月の売り上げは前の年の同じ月と比べ、2割の落ち込みとなりました。店頭で製品を体感してもらう機会が減れば、熊野筆のよさが消費者に伝わらない。丸山さんはコロナの影響が長引くのではないかと心配しています。
熊野筆製造会社「瑞穂」 丸山長宏社長
「商品のよさを体感してもらうリアルの場面が限られ、正直厳しい状況です。コロナの影響は1年以上続くかもしれません」

消費者との接点をつくる仕掛けを

丸山さんは、前職の大手建設会社で海外事業などを担当し、中国・上海やシンガポールに駐在した経験もあります。2007年に妻の父親が経営していた熊野筆を製造する会社に取締役として入社。翌年の2008年には化粧筆の自社ブランドを立ち上げました。

これまでの海外ビジネスの経験を生かして、中国やロシアなどでの海外での販売を強化しています。丸山さんは、コロナの時代には消費者との接点をみつけ、いかに商品の魅力が伝わるようにするか、その仕掛けを考えねばならないと考えています。
丸山長宏社長
「ダイレクトに消費者に販売する仕掛けが必要となっています。私たちの製品が好きだという人にレビューをSNSで書いてもらいます。その人がすてきな写真を掲載していたらそれが最終的にブランドイメージとマッチすることになります。SNSのフォロワーの数だけでなく、その人がどのような発信をしているのか。それが自分たちの製品と親和性があるのか。そして、何よりもその人が本当に私たちの製品のことを好きかどうかを見ていきたいと考えています」

コロナの時代の販売戦略は

丸山社長は、コロナの時代の消費者行動の変化に注目しています。例えば、新型コロナウイルスの影響で、メイクをしない人が増える一方でスキンケアに気を配る人が多くなるとみています。

そうなると、スキンケア用のフェイスブラシ、ボディーブラシの需要が高まるのではないか。今は、こうしたコロナの時代の販売戦略を練る時期でもあると考えています。
丸山長宏社長
「新型コロナウイルスの影響で悩むこともありますが、一方で本当に必要なことが何かということを考え、ターゲットを練る時間もできました。自分たちが考えるビジネスモデルを研ぎ澄ますチャンスでもあると思います。熊野筆は、常に新しいものを提案してきたという歴史があります。その文化を引き継いでいきたいと思っています」
コロナの時代に伝統を引き継ぐには、自分たちも変わらねばならない。決意を新たに経営者たちの挑戦は続きます。
大津放送局記者
門脇誉幸 

令和2年入局
広島放送局記者
諸田絢香 

令和2年入局