訪日外国人旅行者 前年比で99.9%減 2か月連続で過去最少更新

訪日外国人旅行者 前年比で99.9%減 2か月連続で過去最少更新
先月、日本を訪れた外国人旅行者は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で推計で1700人にとどまり、1か月間の旅行者数としては、4月をさらに下回って過去最少を更新しました。去年と比べた減少率は、2か月連続で99.9%と、記録的な落ち込みとなりました。
日本政府観光局によりますと先月、日本を訪れた外国人旅行者は、推計で1700人にとどまり、277万人だった去年の同じ月と比べて99.9%減りました。

1か月間の旅行者数としては、1964年の統計開始以来、初めて1万人を下回った4月よりもさらに減って過去最少を更新しました。旅行者の減少は8か月連続で減少幅は、ことし3月は93%、4月と5月は99.9%と記録的な落ち込みが続いています。

国や地域別では、アメリカが50人、中国とインドが30人、韓国とフランスが20人にとどまりました。

台湾やタイ、ドイツ、カナダやオーストラリアなど幅広い国と地域で10人を下回りました。

外国人旅行者数の統計には、観光客以外にも留学生や技能実習生も含まれていて、今回の場合は、もともと日本に住んでいた外国人が再入国したケースがほとんどとみられます。

減少の背景には、日本政府が感染拡大を防ぐために現在、世界111の国と地域を対象に、外国人の入国を拒否するなど、引き続き、厳しい水際対策をとっていることがあります。

政府は感染状況などを考慮して、タイ、ベトナムなどの4か国と制限の緩和に向けた協議を行っていますが、旅行者数の回復には、時間がかかる見込みです。

旅行会社 バスツアー再開に向け準備

外国人旅行者の回復が当面見込めないなか、旅行会社では19日から、都道府県をまたぐ移動の自粛が全国で緩和されることを受けて、まずは、日本人の国内旅行の再開に向けた準備を進めています。

バスツアーなどを取り扱う旅行会社のクラブツーリズムは、感染拡大を受けて、4月出発分からツアーの販売を中止していましたが、都道府県をまたぐ移動の自粛が全国で緩和されるのに合わせて、18日から日帰りのバスツアーを中心に、販売を再開する計画です。販売再開にあたり、会社では、バスツアーで客に協力を求める感染防止対策について説明する動画を制作しています。

動画では、社員が添乗員と参加者にふんして、密集を避けるために使用する座席を窓際に限定することや、添乗員と客の接触を減らすためこれまで添乗員が行っていた荷物の積み込みを客自身が行うことなどを説明しています。

また、会社ではツアーで立ち寄る土産物店や観光施設などの感染防止対策を確認する作業を進めています。

千葉県の南房総市をめぐるツアーを企画している担当者は、昼食で利用する飲食店を訪れ、参加者が1メートル以上の距離を取って着席できるかメジャーで測ったり、食事を大皿ではなく1人ずつ別々の皿で提供できるかを確認したりしていました。

クラブツーリズムの西堀翼さんは「観光業界にとっては厳しい状況だったので、ツアーの販売が再開できることは、大きな一歩だと思う。感染防止対策も取っているので、多くの人に観光を楽しんでほしい」と話していました。

都心のホテル 日本人のビジネス利用取り込みへ

これまで外国人の観光需要に頼っていた東京都心のホテルでは、日本人のビジネス利用を取り込むことで苦境を乗り越えようとしています。

去年8月にオープンした東京 新宿区のホテルは、壁一面に葛飾北斎の浮世絵などを描いた客室が人気を集め、宿泊客の8割を外国人が占めていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で外国人旅行者が激減し、4月と先月の客室稼働率は、15%にまで落ち込みました。

このため、出張などで東京を訪れる日本人の利用を増やそうと、ヘアブラシや体を洗うタオルを無くし備品を最小限にするなどして価格を通常の4分の1に抑えた格安プランの販売を始めました。また、企業の間で広がるテレワークの需要を取り込もうと2月下旬から客室を時間貸しするプランを始めました。

4時間の利用だと4000円、8時間から11時間で6000円で、先月までの2か月間で100件を超える利用があったということです。

それでも1か月の売り上げは去年のピーク時の10分の1程度だということで、ホテルでは3つのフロアの電源を常に落としたり、清掃作業を外部に委託するのをやめて自分たちで行うなどして苦境を乗り越えようとしています。

「ラ・ジェント・ホテル新宿歌舞伎町」の小嶺憲司支配人は「これまで外国の方に頼っているところがあったと思う。ことしいっぱいは、外国人旅行者が戻ってくるのは厳しいと思うので、できることに注力したい」と話していました。

背景に水際対策の強化と国際線の減便

外国人旅行者のかつてない落ち込みが続く背景には、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府が段階的に水際対策を強化したことがあります。

日本政府はことし2月、中国 湖北省に滞在歴などがある外国人の入国を拒否して以降、順次、水際対策を強化してきました。

入国拒否の対象には、4月3日からアメリカやヨーロッパのほぼ全域など49の国と地域が加わり、先月は16日にメキシコやコロンビアなど13か国が、5月27日にはインドやアルゼンチンなど11か国が加わりました。

現在は世界111の国と地域からの入国を拒否しています。また、入国拒否の対象になっていないほかの国や地域からの入国者に対しては指定場所での2週間の待機を要請しています。

こうした措置を受けて、航空各社は大幅な運休や減便を続けています。

国土交通省によりますと、海外と日本を結ぶ国際線は、今月14日からの1週間では170往復で、去年の夏ダイヤの1週間当たり5500往復余りと比べると30分の1以下にまで激減しています。

入国制限をめぐっては、政府は感染状況などを考慮して、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4か国と制限の緩和に向けた協議を行っています。

その第一弾として、感染状況が落ち着いていて経済界からの要望も強いベトナムと、ビジネス関係者や技能実習生らに限り今月下旬にも相互に入国を認める方向で最終的な調整に入っています。

Go Toキャンペーン 自治体独自の動きも

新型コロナウイルスの感染の拡大で深刻な打撃を受ける観光業の回復を図るため、政府は感染状況を見ながら消費の喚起策を実施することにしています。

政府は感染拡大が収束したあと、観光や飲食などの消費を喚起する「Go Toキャンペーン」を実施する方針です。

このうち観光分野では、早ければことし8月にも事業を開始することにしています。
旅行会社や予約サイトを通じて旅行商品を購入した人を対象に、代金の半額相当、1泊1人当たり最大2万円分が補助される仕組みで、宿泊料金を割り引きする形や、観光施設や土産物店、飲食店、交通機関などで使えるクーポンを発行する形で補助されます。

一方、観光庁によりますと、全国各地では自治体が独自に県民などを対象にしたキャンペーンを行う動きも出ています。秋田県、山形県、新潟県などでは県内の宿泊施設で料金が割り引かれるキャンペーンを展開し、滋賀県では県民向けにレンタサイクルの利用料を最大5000円割り引く補助制度を設けています。

国内では19日から都道府県をまたぐ移動の自粛が全国で緩和される見通しで、各地ではいわゆる「3密」を避けるなど感染症対策を強化した新しい観光の在り方を模索しながら徐々に再開に向かうことになります。

どぶ板営業で地元客開拓 札幌の温泉街のホテル

外国人観光客の利用が見込めなくなった札幌市の温泉街のホテルでは、市内の住宅を一軒一軒回る「どぶ板営業」を展開し、地元客の開拓を図っています。

札幌市南区の定山渓温泉にある老舗ホテルは、ことし2月の半ば以降、新型コロナウイルスの影響で売り上げの3割を占めていた外国人旅行客が途絶えました。その後、外出自粛で国内客も激減し、厳しい状況に見舞われています。

このためこのホテルは、地元 札幌市民に利用してもらおうと、住宅を一軒一軒回る「どぶ板営業」を展開しています。住民には4人1室で一人1泊5000円と、通常の価格より3割安く抑えたプランを示し、感染防止対策を徹底していることを丁寧に説明し利用を訴えています。

こうした営業の結果、一時はほとんどいなくなった利用客が、休日には200室中4割ほどが埋まるまでに回復したということです。

「定山渓ホテル」営業販売部の佐藤元昭次長は「今後は近場の観光施設とも提携して、お客様が定山渓を回れるようなプランを用意し、さらに利用につなげたい」と話しています。

観光庁長官「各国の入国制限緩和踏まえ人の交流進める」

観光庁の田端浩長官は記者会見で「数字としては悪くて、底となっている。世界各国が対策を取って感染症の封じ込めを進めた結果だと思う。国際的な人的交流については各国がどのように入国の制限を緩和していくかという流れも踏まえたうえで外務省などと連携を取りながら進めていきたい」と述べました。

そのうえで、国内観光については「これまでの自分の都道府県には来ないでくださいという場面から、今月19日からは都道府県をまたぐ移動の自粛が緩和されるので呼び込みをしていく場面に移っていくと思う。おそらく近隣の観光から始まって、大きく国内観光が進められる場面が来るのではないかと思っている。Go Toキャンペーンの準備をしたうえで、夏から秋と、国内全体の需要を喚起していきたい」と述べました。