在宅医療 全国施設16%余でスタッフがコロナ感染や濃厚接触に

在宅医療 全国施設16%余でスタッフがコロナ感染や濃厚接触に
自宅などにいる患者のもとを医師らが訪問して診療する在宅医療について、新型コロナウイルスでどのような影響を受けたか、専門の学会が調べたところ、在宅診療を行っている全国の施設の16%余りでスタッフが感染したり、感染者の濃厚接触者となったりして、一部では診療を停止せざるをえなくなっていたことが分かりました。
在宅医療は患者自身が住み慣れた自宅などで治療を進めるため、生活の質が高くなるなどとして国などが推進していて、全国に患者は70万人いるとされています。

日本在宅医療連合学会は、在宅医療を行っている全国の診療所などを対象に先月下旬、調査を行い、316の施設から回答を得ました。

それによりますと、医師や看護師、事務職員が新型コロナウイルスに感染したか、疑いがあったり、感染者の濃厚接触者となったりしたと回答したのは、16%余りにあたる51か所で、このうちの12か所では、少なくとも一部の診療を停止せざるをえなくなったということです。

また、風評被害や社会生活上の不利益があったかどうか聞いた設問に対しては、回答した284の施設のうち、19%にあたる54か所が「あった」と答え、医療関係者というだけで保育園や施設の利用を断られるなどして、スタッフが出勤できなくなったり受診を控える患者が増えたりして、45か所では経営上の損害が出たとしています。

さらに、全体の82.5%はマスクやガウンなどの感染を防ぐための資材が不足していたと回答し、感染が拡大する中で、診療を維持する難しさが明らかになりました。

学会の石垣泰則代表理事は「訪問しないと、患者さんは医療にアクセスできない。感染の次なる波に向け、物資の支援体制だけでなく、感染者や感染が疑われる患者をどのように在宅で診療するか、マニュアルを改訂するなどして備えたい」と話しています。

感染リスク抱える在宅医療の現場

在宅医療の現場では、重症化するリスクの高い高齢や持病のある患者に対し、気付かないうちに感染させてしまうリスクを、抱えながら診療が続けられています。

神戸市で7年前からがん患者の緩和ケアなどを在宅医療で行っている新城拓也医師は、およそ30人の患者の自宅や施設などを回って診療を行ってきました。

神戸市内でも3月以降、新型コロナウイルスの感染が拡大し、マスクやガウンなど感染を防ぐための資材が手に入らなくなり、新城医師は、ほとんどの場合、マスクだけの装備で診療を続けざるを得なかったということです。

このため、診療所の職員を在宅勤務にして接触する機会をなるべく減らしたり、発熱している患者を診療する際には、家に入らず玄関先から声をかけて状態を確認したりするなど、工夫しながら診療を続けたということです。

担当している患者はがんが進行した人が多く、亡くなった人も数人いたということですが、感染が確認された人はいなかったということです。

新城医師は「亡くなるまでの経過で少しでも不自然なことがあると、コロナウイルスに関連しているんじゃないか、自分がウイルスに感染させているのではないかと、恐怖を感じながら診療を続けていた」と話しています。

また、新城医師は訪問診療のスタイルの見直しも迫られています。

患者は高齢者で耳の遠い人が多いため、これまでは、近い距離で腕をさするなどスキンシップをはかりながら顔を近づけて会話し、コミュニケーションを確実に行うことを重視していましたが、感染が拡大して以降は、マスクをつけて患者の正面に座らずに聴診したり、話す際には顔を近づける時間を短くしたりしています。

しかし、患者に伝わりにくい場合もあり、大事なことは紙に書いて残すようにしているということです。

新城医師は「自分が診療で大切にしてきたことが、ほとんどやってはいけないことになってしまった。距離が離れていても心を寄り添わせることが診療現場でできるのか、工夫し続けなければいけないと思っています」と話しています。