“近隣国”どうしで往来認める動き 検査体制の強化がカギ

“近隣国”どうしで往来認める動き 検査体制の強化がカギ
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新型コロナウイルスの感染拡大に落ち着きが見られる地域では、経済的なつながりが深い、近い国どうしで枠組みを作り、感染を防止しながら互いの往来を認めようという模索が始まっています。この枠組みは「トラベルバブル」とも呼ばれ、実現には旅行者が新型コロナウイルスに感染していないことを証明することなどが重要で、検査体制の強化がカギとなりそうです。
トラベルバブルとは、経済的・社会的につながりが深く、地理的にも近い国々のうち、新型コロナウイルスの感染拡大に一定の落ち着きが見られる国どうしが1つの大きな泡「バブル」に例えた枠組みを作り、その中で互いに入国制限を緩和して往来を認めようという取り組みです。

世界では、バルト3国のエストニア、ラトビア、リトアニアが先月15日から導入しているほか、オーストラリアとニュージーランドの間でも導入に向けた検討が進められています。

アジアでも、中国と韓国の間でビジネスに限定した制度を設けるなど、感染状況や地域の事情に応じて互いに入国制限を緩和する動きが出ています。

日本政府も、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4か国との間で、ビジネス関係者などの入国制限の緩和に向けて協議を行っています。

トラベルバブルを形成した国どうしでは、原則として厳しい隔離措置を取らずに入国を認めることになるため、旅行者が新型コロナウイルスに感染していないことを証明することなどが重要で、検査体制の強化がカギとなりそうです。

オーストラリアとニュージーランド

オーストラリアとニュージーランドは先月はじめ、両国の間で互いの往来を可能にする「トラベルバブル」の構想を正式に打ち出しました。

両国の経済的、社会的結びつきはもともと強く、オーストラリアの最大都市シドニーとニュージーランドのオークランドは飛行機で3時間余りの距離で、ニュージーランドを訪れる外国人の実に4割がオーストラリア人です。

また、パスポートがあれば、原則、ビザがなくても互いの国での就労や居住が認められ、観光面でも行き来が盛んです。新型コロナウイルスの感染拡大をうけて、両国はそれぞれ3月下旬から原則、外国人の入国を禁止してきましたが、ニュージーランドでは先月23日以降は新たな感染者は確認されておらず、今月8日には、国内の外出制限などの措置をすべて撤廃しました。

またオーストラリアも感染拡大が抑えられているとして、各州で先月から外出や経済活動の制限が順次、緩和されています。

「トラベルバブル」の開始時期について、冬の観光シーズンにあたる7月をめどとする期待もあがっていましたが、オーストラリア国内では州をまたいでの移動がいまだに一部の州で制限されていることなどもあり、いつ、どのような条件で開始できるかは検討が続けられています。

一方、南太平洋の島国にも入国制限の緩和の対象を広げる案が出ています。

中国と韓国

中国と韓国の間では経済活動を後押ししようと、先月1日からPCR検査で陰性と確認された企業の関係者に対して入国制限を緩和し、互いの往来を認める制度を設けています。

この制度は、韓国の企業関係者が上海や広東省など、韓国企業が多く進出している中国の19の地域を出張で訪れる際に利用できます。

利用にあたっては、出国前の72時間以内に、韓国政府が指定した医療機関でPCR検査を受けて陰性だったことなどを示す「健康状態確認書」を用意することが必要です。

また、中国の地元当局に現地での訪問先や宿泊先などの詳細な行動を記した計画書を提出し、当局から「招へい状」の発給を受けます。

そして、入国時に「健康状態確認書」と「招へい状」を当局に提出し、改めてPCR検査を受けて陰性が確認されれば、通常は14日間の隔離措置が1日から2日に大幅に短縮されます。

また、中国の企業関係者も同様の手続きで韓国に入国できるということです。

韓国貿易協会によりますと、中国の当局からは滞在先でどのトイレを使用するかも計画書に記入するよう求められるケースもあり、厳格に運用されているということです。

先月中旬には、サムスン電子の事実上のトップ、イ・ジェヨン(李在鎔)副会長がこの制度を利用し、中国に出張した様子が韓国メディアで報道され、話題になりました。

ただ、イ副会長は2泊3日の出張で3回もPCR検査を受けたとして、韓国メディアは負担の大きさも指摘しています。

ハワイ 日本との往来再開に強い期待

日本にトラベルバブルの形成を強く持ちかけているのが、アメリカ有数の観光地ハワイです。

アメリカ本土では一日に確認される感染者の数が増え続けている州も多く、ハワイとしては国内の旅行者の受け入れには慎重にならざるをえない状況です。

一方で、地理的には遠いものの、日本からの旅行者は、州の観光局のまとめで、年間(2018年)およそ150万人、現地での消費額もおよそ20億ドル(2100億円余)に上り、ハワイの観光の活性化に欠かせない存在になっています。

地元紙などによりますと、ハワイの企業の経営者などで作る団体や地元議員が、日本との往来の再開を優先的に進めてほしいという意向を示しています。

危機管理の専門家「陰性証明できる体制必要」

観光の危機管理に詳しい観光レジリエンス研究所の高松正人代表は「日本の場合、空港と港を押さえておけばコントロールしやすい。感染が少なく、しかも管理しやすい島国の日本はトラベルバブルを形成する相手としては非常に魅力的だと思う」と述べ、感染防止の水際対策を万全にしたうえで、他国との往来を再開することが日本の観光業の回復につながるという見方を示しました。

そのうえで、日本の課題については「世界の国々の中にはすでにウイルスに感染していないことを示す陰性証明を出しているところもあるが、日本では無症状の人が『これから海外に行くから検査をしてください』というわけにはいかない状況だ。海外に行く日本人が陰性を証明できる体制を作らないと先に進まない」などとして、まずは検査体制の強化が欠かせないと指摘しました。