「解雇は絶対にしない」 福岡 自動車部品会社の“多能工”

「解雇は絶対にしない」 福岡 自動車部品会社の“多能工”
厳しい経営環境が続くなか、中小企業はコロナ時代の新しいビジネスの形を模索しながら前に進もうとしています。ビジネス特集では「コロナに負けるな!中小企業」と題して、危機に立ち向かう中小企業の姿をシリーズで紹介します。第4回目は福岡県にある自動車部品会社の取り組みです。さまざまな作業をこなす“多能工”を育てることで雇用を守ります。(福岡放送局記者 平田未有優)

深刻な受注減 3次下請けの自動車部品会社

宮西社長
「従業員の解雇は絶対にしない。解雇するなら私を最初に解雇するべきです」
そう語るのは福岡県行橋市に本社がある自動車部品会社「宮西コスモス」の宮西健司社長です。福岡県内に生産拠点を置く日産自動車やトヨタ自動車の3次下請けのメーカーで昭和63年から車の座席や内装品の部品などの製造・加工を手がけています。福岡県内で500社を超える下請け企業の1つで、5月と6月は受注が6割まで落ち込み苦しい状況が続いています。

従業員6割女性 4割60歳以上!

200人の従業員のうち6割が女性で、4割が60歳以上。子育て中の女性や高齢者の雇用が地域の活性化につながるとしてパートやアルバイトの採用、従業員の再雇用を積極的に行うのが宮西社長の基本方針だといいます。
宮西社長
「工場で働く人というと、重労働で若い男性が働くイメージがありますが、うちは車部品の中でも縫製作業や小さな部品を扱っているので、手先が器用な女性は非常に貴重です。高齢者はまず頼りになる。経験豊富で技術力が高く、礼儀がしっかりしていて若い人の手本になります。解雇は絶対にしないことが前提条件です。今いる人たちは大事な人ばかりですので、解雇するならまず私を最初に解雇するべきです。従業員は会社にとって宝。従業員がいてこそ会社が運営できるので、みんなのためにも会社が残っていく必要があります」

“多能工化”で乗り切る

深刻な受注減を受けて会社ではいま、ある訓練に力を入れています。「多能工化」の強化です。「多能工化」とはひとことで言うと従業員にさまざまな生産ラインの作業を習得してもらうことです。今回のコロナ禍のような危機によって、ある作業の受注がなくなった場合、これまではその生産ライン担当の従業員は休ませるしかありませんでした。多能工になってもらえば、まだ動いている生産ラインの作業を担ってもらうことができます。さらに複数の生産ラインの受注が減った場合は、従業員を効率的に振り分け、休みも平均化し、工場全体で痛みを分け合う形で乗り切ろうというやり方です。
コロナ禍以前から多能工化を進めようとしてきましたが、忙しさを理由に訓練は十分に行えませんでした。いまは受注の減少で空いた時間ができ、その時間を訓練に充てることができます。多能工となった従業員は毎月1人程度のペースでしたが、4月は11人が新たに多能工となりました。
宮西社長
「コロナ禍のいまは基本を見直せる貴重な時間です。多能工になったばかりの時期は、まだ慣れない作業でどうしても不良品が出るなどデメリットが多くなります。コロナが収束したころにフル生産できるように今のうちに体制を強化するつもりです」
実際に多能工化を目指して縫製作業の訓練を始めた入社2年目の女性は「1つの作業をするよりも楽しく、やりがいがあります」と満足そうに話していました。その訓練の指導を担当するベテランの従業員の女性は「私たちのような年寄りはもうすぐ引退するので、若い人に覚えてもらってこの技術を継承してほしい」と話し、コロナ禍による受注減少で暗くなりがちな工場は活気とやる気にあふれていました。

決して動じず 基本を見つめ直す

コロナ禍のいま、大切なのは「基本を見つめ直すこと」だと宮西社長はいいます。
宮西社長
「やはり1番大切なことは身の回りのことをきちんとすること。会社がどんなに貧しくてもトイレや食事の場はきれいにしておくように常日頃から従業員にも伝えています。コロナ禍のような苦境でもそれに変わりはありません。基本ができていないと平常に戻っても復活できないのです。今はとにかく基本を見直して次のステップに備えたい」
大幅な受注減という未曽有の危機に直面しているにもかかわらず、動じることなくどこか落ち着いた様子で語る宮西社長。そこには地域の雇用を担う責任感と自負を強く感じました。
福岡放送局 記者
平田 未有優
令和元年入局
警察取材を担当
現在、コロナ取材班として幅広く取材