公共施設や飲食店で感染者 QRコードで濃厚接触の可能性通知

公共施設や飲食店で感染者 QRコードで濃厚接触の可能性通知
新型コロナウイルス対策として、スマートフォンとQRコードを活用して、公共施設や飲食店で感染者が出た場合に、同じ時間帯に訪れた人などに通知する取り組みが全国の自治体で広がっています。
先月末に取り組みを始めた神奈川県では、12日までに1万余りの店舗や施設が参加しています。

店舗や施設にはQRコードが掲示され、訪れた人がスマホで読み込むと、場所や日時が県のシステムに記録されます。そして、感染者が出た場合、同じ時間帯に店にいて、濃厚接触の可能性があると保健所が判断した人に対して、保健所に連絡するよう促す通知が、LINEのアプリで送られる仕組みです。

取り組みに参加している横浜市南区のカフェのオーナー、長谷川史浩さんは「感染防止対策は徹底していますが、万が一、感染者が出てもすぐに追跡できるので、来店者の安心にもつながりありがたい。多くの店や人に利用してもらいたいです」と話していました。

QRコードを活用した同じような取り組みは、東京都や大阪府など全国の自治体で導入が相次いでいて、公共施設や商業施設の営業再開が進む中、今後の感染拡大の防止につなげるねらいです。

一方、神奈川県では参加している店舗が12日の時点で、飲食店では全体の9%程度にとどまるなど、効果を高めるには協力する店や施設をどう増やすかが課題になっています。

こうした対策は、国もブルートゥースと呼ばれるスマホの通信技術を使って、濃厚接触した可能性がある人に通知するアプリの提供を近く始める予定です。

各地の取り組みは

QRコードを活用して店舗や施設を訪れた人のデータを記録する取り組みは、神奈川県のほかにも、東京都や大阪府、北海道、宮城県、岐阜県、滋賀県などが導入しています。

このうち12日から取り組みを始めた東京都の場合、再開した美術館や博物館、図書館などの都立施設で複数の感染者が出た場合、同じ時期に施設を訪れた人にメールやLINEで通知します。

また、先月下旬から取り組みを始めた大阪府では、飲食店やレジャー施設、イベント会場などで一定規模の感染が起きた場合にメールで通知し、体調管理の注意や相談センターへの連絡を呼びかけます。

こうした自治体の取り組みは、民間の店舗などにQRコードの掲示を義務づけるものではなく、訪れた人がコードを読み取って情報を登録するかどうかも任意です。

また、登録する情報を名前や電話番号ではなく、メールアドレスにかぎったり、感染者が出た場合の通知について店名を伏せて行ったりするなど、自治体ごとにプライバシーにも配慮しています。
一方、国が近く始める予定にしているのは、ブルートゥースと呼ばれるスマホの通信技術を使ったアプリです。アプリは利用者どうしが1メートル以内の距離で15分以上いた場合に、そのデータを匿名化して端末に記録します。
そして、仮に利用者が感染した場合、感染したことを利用者がアプリに登録すると、濃厚接触した可能性がある人に自動的に通知が届く仕組みです。

国のアプリや自治体のQRコードの取り組みは、通知を受けた人が保健所に連絡することや自分から感染を広めないための対策を早めに取ることを促すのがねらいで、ほかの国でも始まっています。

韓国でもQRコード活用

韓国では先月初め、ソウル市内のナイトクラブで集団感染が起きた際、店が作成していた客の名簿に虚偽の記載が相次ぎ、訪れていた人たちの特定が難航しました。

これを受けて、今月10日からナイトクラブやカラオケなどに導入されたのがQRコードを使った仕組みです。

QRコードは個人を識別するために使われ、インターネットのサービスを使って携帯電話の番号を入力し、事前に生成します。それを店舗などの入り口で提示します。

これを使って客の情報を管理すれば、感染者が出た際に、接触した可能性がある人を速やかに見つけ出すことができるとしています。

施設が対応を怠った場合には、最大で300万ウォン(およそ27万円)の罰金が科せられるほか、営業停止となる可能性もあります。また、集められた個人情報は4週間後には削除されるということです。

一方で、韓国メディアは、QRコードを提示する取り組みについての事前の周知が十分ではなく、現場では混乱も生じていると伝えています。

シンガポールでは立ち寄り場所公開

シンガポールではQRコードを活用した「セーフ・エントリー」というシステムが、4月下旬から導入されています。

今はスーパーマーケットや医療機関、学校などがこのシステムの設置を義務づけられていて、その場所に出入りする際、QRコードかIDカードを使って、名前と時刻、ID番号などを記録します。

シンガポールの場合、新型コロナウイルスへの感染が確認されると、データの中からその人物が立ち寄った場所と時間を抽出し、こうした情報は保健省のホームページで公開されます。

シンガポールではスマートフォンを使って、感染者に濃厚接触した可能性のある人に通知を行う接触確認アプリも導入していて、これらの対策を併用することで、感染した人の早期発見につなげようとしています。

専門家「透明性高めることなど欠かせない」

QRコードを活用するシステムは感染リスクがある人に幅広く呼びかけるのではなく、登録した人に直接、通知することで、対策につなげやすくするのがねらいです。

また、国が提供を始めるアプリが効果を発揮するには、国民の6割が利用することが必要だと指摘されていますが、普及には時間もかかると見られていて、自治体の取り組みも合わせて利用が広がれば効果が高まると期待されています。

一方、海外では個人情報を活用して設置を義務づける国もある一方、日本の自治体の取り組みはプライバシーへの配慮を重視して、任意で利用する仕組みになっていることから、参加する店舗や登録する人をどう増やすかが課題になります。

データの利活用やプライバシー保護の在り方に詳しい、慶應義塾大学の山本龍彦教授は「コロナウイルスとともに生きていくうえで、データの活用は重要な手段で、新しい習慣になっていくのではないか。できるだけ多くの人に取り組みに参加してもらい有効な対策にするには、自治体がプライバシーの保護などについて透明性を高めることや、通知を受けた人が取るべき行動をわかりやすく伝えることが欠かせない」と話しています。