米株高 “ひとり旅”のなぜ

米株高 “ひとり旅”のなぜ
アメリカの株高が止まらない。
新型コロナウイルスの感染拡大で2月末に暴落したはずのダウ平均株価は、その後、空前の悪化指標が相次ぐ中でも値上がりを続け、気がつけば27000ドルを回復。ナスダック株価指数は、なんと6月に入って史上最高値を更新する勢いだ。なぜ、こんなに上がるのか。「実体経済とのかい離」の声もどこ吹く風。その“ひとり旅”の理由を、この暴落劇に振り回されたニューヨークの担当記者が考えてみた。(アメリカ総局記者 野口修司)

2月末~ それを「サーキットブレーカー」と呼ぶ

2月24日
ニューヨーク株式市場は、文字どおり「暴落」を始めた。新型ウイルスの感染拡大が経済に深刻な影響を及ぼすのではないかとの見方から、「史上初の30000ドル」を目前にしていたダウ平均株価は、一転、急降下した。

(携帯電話で予定を管理できないので)手帳をめくってみると、その日は商社マンとランチをしていた。途中でオフィスに戻ったのを覚えている。

その週だけで3583ドルの下げ。

翌週も下げは止まらず、3月9日の月曜日(くしくも筆者の誕生日なのだが)には、2000ドルを超える値下がりを記録し、あまりの急落に売買が自動的に停止される「サーキットブレーカー(CB)」が初発動されることになる。手帳を見返しながら、「目の回る」思いをしたのを思い出した。
その後、サーキットブレーカーは3月18日までに合わせて4度発動され、中継の途中で、「いま、発動されました!」と、どんな速報より早く伝える機会にも恵まれた。

3月23日
急落から1か月の終値は、18591.93ドル(急落前比10400ドルの下落)。

結果的には、今回の急落の底値となっているが、トランプ大統領の当選前まで戻るという事態になっていた。

3月末~ 「ひとりV字回復」が始まった

3月24日
「どこまで株価は落ちるのか」と身構えたが、ダウ平均株価は、1日としては最高の2112ドル上昇を記録する。

ここから、「ひとりV字回復」が始まる。
感染拡大で悲鳴をあげるニューヨーク州は、3月22日に「ロックダウン」に突入するのだが、振り返ると、その時点ですでに株価は「反転攻勢」に入っていたことになる。

「株価は景気の動きを先取りする」にも、ほどがある。

理由その1 財政&金融の大盤ぶるまい

なぜ、株価は反転攻勢を続けられるのか。最初で最大の理由が、この「財政・金融」だ。
アメリカ政府による300兆円を超える緊急経済対策、そしてゼロ金利に加え、「何でも買い取ります」的にも見える超金融緩和。この「下支え」が、「お上が手厚く面倒見てくれるから大丈夫」という市場の安心感につながった。

そこに見えるのは、2008年のリーマンショックの時との「明確な差」と、「苦い経験」だ。あの時は、金融市場が壊れたことが世界経済に大打撃を与えた。「それだけは絶対に防ぐ」というFRBの強い意思が、今回の特徴だった。

もう1つの「明確な差」というのは、今回の新型コロナウイルスによる景気後退は、「天変地異、災害であり、悪者はいない」という共通認識だ。リーマンショックの時は金融機関が悪者だった。与野党の対立がないので、速攻で景気対策が決まる。それも、びっくりするような巨額で。

理由その2 ITはコロナの影響を受けない!?

冒頭でも書いたが、IT関連銘柄の多いナスダック株価指数は、ダウを上回るペースで回復を続け、今月2日には暴落前の水準に、8日には史上最高値をつけるのである。もう正直、「訳わかんない」アゲっぷりである。

動画配信大手のネットフリックスは、「巣ごもり消費」で会員が増加。アマゾンもポチッとオーダーする頻度が増した(アメリカではかつて巨額買収した高級食品スーパーの『ホールフーズ』にも多くの利用者が訪れた)。フェイスブック、アップルも、なんと上場来高値をつけている。

このように、「IT関連企業は新型コロナウイルスの影響を受けにくい」という見方から、ナスダックは「超V字回復」を遂げるのだが、金融緩和でジャブジャブにあふれた資金が、「行き場を探してIT株に大量流入」という側面も強い。

興味深かったのが、「IT企業の業績がいいのはもちろんだが、競争による成長というより、独占(寡占)による果実の極大化が起きている」という指摘だ。
こうした状況で、テックジャイアントと言われるIT企業は、いわば「スーパーサイヤ人(古いか)」のように異次元の成長をしているというのだ。GAFAに、M(マイクロソフト)を加えた「ガーファム」の時価総額は、世界の富を集めたかのようだ。

理由その3 「乗り遅れまいと…」が値上がりを加速

この間、「いや、2番底が来る」と見ていた投資家も多かったはずである。特に4月あたり。アメリカの感染拡大はピークを迎えようとしていた。それなのに、なかなか下がらない。

あわてた投資家は、走る列車に飛び乗る。次々と。それによって、株価上昇がさらに加速した、という声を、この頃聞いた。

理由その4 「1~2年後の業績を見ている」

戦後最悪の失業率や、企業の生産活動のフリーズ…。いくつもの悪材料がある中で、株価上昇を読み解く人たちはこう言う。
「今が底。1~2年後には、間違いなく企業業績は今よりいい。そこから顧みると、今の株価は割安だ」

理由そのほか

「個人の投資家が増えた」という話も聞く。経験不足は否めないが、中には「コロナでとんでもない目に遭った。将来に備えて投資しなくては」という人も。

また、アルゴリズムとも呼ばれる「(全)自動株取引」。上げる時も、下げる時も、これが絡むと値幅が一気に広がる。

お金を使いたい人が実は多い

手帳を、また見返してみる。
4月30日
経営悪化にあえぐ航空機大手ボーイングが、社債を発行して2.7兆円の資金調達を発表している。このタイミングで社債(借金)である。

もちろん、超金融緩和のおかげではあるが、それでも「買いたい」という人が市場にあふれていたことを示している。

「差別」「分断」そして「格差」

白人警察官による黒人男性ジョージ・フロイドさん死亡事件をきっかけに、いま、抗議のデモが全米で巻き起こっている。人種「差別」と社会の「分断」が、改めて浮き彫りになる。

株式市場は、このデモの影響さえ受けていないように見えるが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした不況が、資産を持たない経済的な弱者に、より深刻な影響を与えているのはリーマンショックの時と同じだ。

持つ者と持たざる者の「格差」を、さらに広げている。それも、「株高ひとり旅」に一役買っているように見える。持つ者は、目立たないように、それでも、着々と資産を増やしている。

リスクは何だ

4つほどある、と筆者は考える。
1 感染拡大の第2波
2 雇用環境
3 財政&金融(特に財政)の大盤ぶるまいが終わる時
4 大統領選挙(と米中対立)
3と4は密接に関係する。「悪者はいない」と与野党が協調してきた3~4月の風景は、今はもう見られない。選挙が近づけば、さらに対立は激しくなる。

株価上昇を誰よりも喜んでいるはずのトランプ大統領の言動そのものがリスクになる可能性もある。

「株価の実力」とは?

筆者が住むニューヨーク市は、今月8日にようやく経済活動再開の第一歩を踏み出した。本格復活には「まだまだまだまだ」というのが、正直な気持ちだ。

アメリカの新型ウイルスは、どこの国より強力だとも感じている。上昇を続ける株価だが、ジェットコースターの最初の「カタカタカタカタ」のような気がしてならない。
そう書いているうちに11日、ダウは1860ドル超の「急落」を記録した。「それ、みたことか」なのか。果たして、「株価の実力」とは、どの程度のものなのか。
アメリカ総局記者
野口修司
平成4年入局
写真は、6月8日にタイムズスクエアで中継を終えた直後に撮影