合言葉は「コロナ前に戻さない」みずほトップの覚悟とは

合言葉は「コロナ前に戻さない」みずほトップの覚悟とは
新型コロナウイルスで日本中の企業や個人事業主が経験したことがない売り上げの急減に見舞われています。厳しい資金繰りをつなぐために、いま、その役割が問われているのが金融機関です。100年に1度の経済危機とも言われるコロナショックに、日本を代表するメガバンクのトップはどう向き合うつもりなのか。みずほフィナンシャルグループの坂井辰史社長に聞きました。(経済部記者 野上大輔)

押し寄せる相談、17兆円に

大企業から町の商店まで、コロナショックはさまざまな企業の経営を直撃しました。
Q 銀行の融資の現場はどうなっているのでしょうか?
坂井社長
「国内、海外、大企業や中小企業で多少差はありますが、国内は4月に入って申し込みが急増しています。相談は融資枠を含め合わせて17兆円。すでに10兆円の融資を実行しています。大企業は手元の資金を厚くして備えができたので、新規の融資申し込みの動きは徐々にスローになってきています。ただ中堅・中小企業の申し込みは同じくらいのペースで続いています。ここにかなりのエネルギーをそそいでいます」
みずほフィナンシャルグループは、メガバンクのみずほ銀行を抱える3大金融グループの1つ。貸出残高(2020年3月末)は83兆円です。

新型コロナウイルスの感染拡大後、関連した融資の要請は17兆円。貸出残高の実に2割にあたる規模の融資の相談がこの数か月で一気に押し寄せたことになります。

先々のことを考えてお金を持っていたいという企業もありますが、収入が急激に減りやりくりが厳しくなった企業がいかに多かったか。この数字から見えてきます。

融資の次に、必要なのは

金融の世界に入って35年の坂井社長。旧・日本興業銀行を振り出しに、営業、企画、ニューヨークにも赴任しました。バブル崩壊、アジア通貨危機、ITバブル崩壊、そしてリーマンショック。金融マンとして数々の経済ショックを経験しました。
Q いくつもの危機を見てきた経験から、コロナショックへの対応で、銀行に次に求められるのは何だと思っていますか?
坂井社長
「足元は、急激な需要の消失が問題の中心ですから、(貸し出しをして)流動性を支える対応が必要です。ただ、残念ながら時間とともに企業の『財務健全性』が問題になってきます。資本的な力をどう蓄えていくかということに焦点が移っていきます。資本の増強にどういったサポートができるかを考えていきます」
融資によって当面の支払いに必要な運転資金は賄えますが、いずれ返済をしなければなりません。中には返済が苦しくなって事業が立ちゆかなくなる場合もあります。

融資でひとまず運転資金をつなぎ、そのあとは、当分の間は利子の支払いだけで済む「劣後ローン」で資金を出したり、「優先株」という特別な株式で出資をしたりして、企業の財務基盤を強くする。

坂井社長は、踏み込んだ支援を積極的に行う考えです。

変化を支える アフターコロナ

国内は緊急事態宣言が解除され、経済活動の再開に踏み出しました。“アフターコロナ”の局面です。
Q 日々の暮らしや企業活動に必要なお金を出してサポートすることが銀行の本業ですが、アフターコロナに銀行がやるべき仕事とは何でしょうか?
坂井社長
「我慢してじっとしていればコロナの前にいずれ戻るという考えではもう不十分です。デジタル化がもっと進み、老後不安も改めて際立ってきました。産業構造ではグローバルなサプライチェーン(部品の供給網)の偏りを再構築する必要性が出てきました。いろいろな産業が動いていくので議論をしながらサポートしていきます。お金を供与するだけではなくて、壁打ちの相手になれるように一緒にやっていきたいです」
お金をいくら出しても企業のビジネスがうまくいかなければ貸したお金は返ってこない。企業も銀行も共倒れです。

アフターコロナでは、いろいろな産業で大きな変化が起こる。お金の相談に乗るだけではなく、変化にあったビジネス、変化を生き抜くプランを取引先とともに考え、ともに知恵を出していける銀行こそが勝ち残っていく。坂井社長はそう見ています。

コロナで銀行も変わる

ところで銀行業界といえばどういったイメージを持っていますか?支店の営業担当なら、朝早く出勤し、取引先のところを何件も訪問、途中、携帯電話で顧客からの相談に応じ、支店に帰ってからは会議に、書類づくりに…。

しかし新型コロナウイルスが、こうした銀行員の働き方も大きく変えています。感染拡大を防ぐため社内の定例会議は原則オンライン。取引先との面談もオンラインが増えたといいます。
さらにみずほが一気に進めようとしているのが契約の電子化です。企業が融資の契約を結ぶ場合は、契約書を作成し、そこに収入印紙を貼り付けてはんこを押し、できあがった書類を銀行に持ち込む必要がありました。

坂井社長はこうした紙・はんこ文化から電子化にかじを切りたいといいます。契約の電子化で、はんこの代わりとなるのが電子署名。パソコンでOKです。
企業は銀行を行き来する手間を省けます。銀行の担当者にとっても、テレワークで融資の契約手続きができるため働き方を変え、効率化を進めることも可能になります。

坂井社長は2020年度中に全体の取り引きの50%を電子化する方針です。
坂井社長
「われわれは『コロナ前に戻さない』を合言葉にしています。いままでなかなかキッカケがありませんでしたが、電子化がこんなに利便性が高くて、効果的だということを実感しています。書類の受け渡しの手間は省けますし、保管の問題もありません。はんこを押すためにわざわざ会社に来ることもなくなります。チャンスとして大きく広げていきたいです」

100年に1度の変革

金融業界には「○○Pay」など異業種のライバルが相次いで参入。しかも低金利が常態化し、融資だけでは利益をあげるのが難しくなり、銀行の経営環境は順風ではありません。

「アフターコロナの新しい銀行像とは?」
今、坂井社長は、銀行を変えるため、社内から広く意見を募集して日々議論をしているということです。

100年に1度の経済危機と言われるコロナショックで、みずほの多くの取引先が厳しい日々を送っています。

ショックをきっかけに、坂井社長がいうように銀行は大きな変革を起こせるのでしょうか。そして、それは企業や預金者のためになる変革なのでしょうか。取り組みを見つめていきます。
経済部記者
野上 大輔
平成22年入局
金沢局をへて
現在、経済部で金融業界を担当