新型コロナ 退院後も7%に“生活に支障” 呼吸機能低下など

新型コロナ 退院後も7%に“生活に支障” 呼吸機能低下など
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新型コロナウイルスに感染し、陰性となって退院したあとも呼吸機能や運動能力が低下するなど、日常生活に支障を抱えている人たちがいることがわかりました。治療に当たる病院からは「退院後にも、さまざまな影を落とすことを知ってもらい、サポートの輪を広げてもらいたい」といった声があがっています。
NHKは新型コロナウイルスに感染した人の治療後の状態について把握しようと、東京都内の感染症指定医療機関と大学病院を対象にアンケートを行い「感染者の受け入れがない」という病院を除く46か所のうち、18か所から回答を得ました。

それによりますと、先月末までに18の病院で合わせておよそ1370人が陰性となって退院したり、症状が改善して転院したりしていますが、その時点で日常生活に何らかの支障がある状態だった人が少なくとも98人いることが分かりました。

退院するなどした人のおよそ7%に当たります。

具体的には、ウイルスによる肺炎の後遺症などで呼吸機能が低下した人が47人いて、このうち6人は自宅で酸素を吸入する装置を使わざるをえなくなったということです。

また、長期間、入院したことによる筋力や運動能力の低下が46人、高齢などで認知機能が低下した人も27人いました。

ほかに、嗅覚異常や高次脳機能障害とみられるケースもあるということです。

こうした支障が残った人の多くは、重症化したため人工呼吸器や「ECMO」と呼ばれる人工心肺装置による治療などを受けていました。

アンケートでは、新型コロナウイルスの治療や、退院後のフォローなどについても自由記述で尋ねたところ「リハビリのため転院させようとしても、新型コロナウイルスを理由に受け入れ先がなかなか見つからない」という課題をあげた病院が複数ありました。

また「陰性となっても介護度が上がっており“社会的入院”となって、病床を圧迫する場合がある。高齢者問題を見据えた出口戦略が必要だ」という指摘や「退院後にも、さまざまな影を落とすことを知ってもらい、サポートの輪を広げてもらいたい」という声もありました。

「自宅でも酸素吸入」

東京 世田谷区の自衛隊中央病院では先月末までに、およそ250人が退院したり転院したりしましたが、このうち4人が呼吸機能が低下し、自宅でも酸素を吸入する装置を使うようになったということです。

治療に当たった呼吸器内科の河野修一医師によりますと、ウイルスが肺に入ると肺胞の内側の壁などが損傷し、次第に壁が厚くなってかたくなる「線維化」という状態を引き起こす場合があります。

新型コロナウイルス特有の症状ではありませんが、肺が線維化すると、体内に取り入れられる酸素の量が少なくなり息苦しくなります。

この線維化が起きた4人の患者は、陰性となって退院後も、自宅などで酸素を吸入する装置を使わざるをえなくなったということです。

河野医師は「新型コロナウイルスに感染し、呼吸機能が低下した人の肺は、今後どういう経過をたどってくのか、データが無いので今は全くわからない。それが、この病気の恐ろしさであり、これからも感染予防を徹底してほしい」と話しています。

一時重症化した医師「以前のように働けない」

新型コロナウイルスに感染した40代の医師は、陰性になって2か月以上たった今も、肺の「線維化」によって呼吸機能が低下し、以前のように働けない状態が続いています。

男性は、勤務先の病院で感染者の治療に当たっていました。

自身の感染が確認されたのは、ことし3月。

発熱やけん怠感が続き、PCR検査を受けた結果、陽性と分かり緊急入院しました。

そのときの状態について男性は「レントゲンを撮ったら、肺が真っ白のすりガラス状になっていて、本当にこれが自分の肺なのかと思った。死ぬかもしれないと覚悟し、妻に『子どもたちを頼む』と電話で伝えた」と話します。

その後、急速に症状が悪化し、肺の機能を一時的に代行する人工心肺装置「ECMO」が装着されました。

血栓症やカテーテルによる感染症も引き起こしましたが、およそ3週間後に意識が戻り、4月に陰性が確認されました。

直後は全身の筋力が弱っていて、歩くことや食べること、文字を書くこともできない状態でしたが、リハビリの結果、運動機能は徐々に回復。

一方で、呼吸機能は2か月以上たった今も、元に戻っていません。

肺が「線維化」の状態にあると診断されました。

男性は、6月から仕事に復帰しましたが、階段を上ったり長時間歩いたりすることがままならず、急患の対応で走ることや心臓マッサージを行えないなど、以前のように働けない状態が続いていると言います。

男性は呼吸機能の回復に効果的だと言われている腹式呼吸を意識したり、朝晩30分ほどのウォーキングやラジオ体操をしたりして、自分なりのリハビリを行っています。

男性は「この息苦しい状態が半年なのか、1年なのか、それとも一生続くのか分からないのでとても不安だ。この病気は陰性になっておしまいではない。その後も、こうして後遺症に苦しめられている人もいることを知ってほしい」と話しています。

高齢者 1か月間の入院で「自分の名前が答えられず」

関東地方に住む89歳の男性はことし4月、新型コロナウイルスに感染し、およそ1か月間入院しました。

感染する前の男性は、往復10キロの散歩を毎日欠かさないほど元気でしたが、担当した医師によりますと入院中は連日、高熱が出て投薬や点滴での治療を受けていたということです。

ベッドから全く動けない状態が1か月続いた結果、認知機能や運動機能が低下。

5月2日に陰性が確認されましたが、自分の名前すら答えられなくなり、歩くことも、一人で食事をすることもできなくなったといいます。

その後、男性は転院してリハビリを続け、低下した機能は回復してきましたが、今も歩行器や食事やトイレの際の介助が必要です。

リハビリを行っている病院の医師は「ほかの病気と圧倒的に違うのは、新型コロナウイルスに感染していることで普通の入院で行えるようなリハビリを、最初から行うのが難しいということだ。介入できないことで、高齢者は運動能力や認知機能の低下が一気に進む」と話しています。

男性はリハビリが進み退院を促されましたが、家族はいずれも仕事があるため、自宅で男性を介護するのは難しいと考えています。

受け入れてくれる施設を探しましたが、新型コロナウイルスに感染していたことを伝えると断られ、5か所目でようやく見つかったということです。

男性の娘は「新型コロナウイルスに感染して、一時は死を覚悟した。回復してうれしかったが、陰性が確認されてやっと会えたと思ったら寝たきり状態になっていた。父にとっても、家族にとっても、元の生活に戻るのは難しく悩んでいる」と話しています。

50代の男性 退院後に「高次脳機能障害」と診断

東京 中央区の聖路加国際病院では、先月末までに退院した67人のうち、7人が日常生活に支障のある状態だったということです。

7人とも筋力や運動能力が低下、合わせて認知機能が低下したり、呼吸機能が低下したりした人も、それぞれ5人いました。

さらに、退院後に「高次脳機能障害」と診断されたケースもあると言います。

治療に当たった呼吸器内科の仁多寅彦医師によりますと、高次脳機能障害と診断されたのは50代の男性です。

人工心肺装置ECMOを装着し、一時、心肺停止となるなど非常に危険な状態でしたが、なんとか回復し、4月上旬に陰性となりました。

しかし退院後、人の名前や、よく行く地名を間違えるようになったほか、家族や医療スタッフとの会話が、かみ合わない傾向がみられました。

このため頭部のMRI検査を行ったところ、大脳皮質に複数の出血が見つかりました。

仁多医師によりますと、新型コロナウイルスに感染し重症化すると、血栓ができやすいと指摘されているほか、ECMOの装着など治療の過程でも血栓ができやすいため、血液が固まるのを防ぐ治療が合わせて行われます。

一方で、血が固まるのを防ぐ薬などによって、体内で出血しやすい状態になるということで、大脳皮質の出血はこうした経緯で起きた可能性が考えられるということです。

男性は仕事への復帰を諦め、リハビリを続けているということです。
仁多医師は「新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころは救命だけに専念していたが、後遺症にも気をつけなければいけないと感じている。肺だけでなく全身に症状が出ることが分かってきているので、陰性になって終わりではなく、元の生活に戻れるまでが新型コロナウイルスの治療だととらえなければならない」と話しています。