函館“100万ドルの夜景”が変わった??

函館“100万ドルの夜景”が変わった??
北海道函館市が誇る「100万ドルの夜景」。
世界三大夜景とも称されるその眺めに今、異変が起きているのではないかという声を耳にした。中には新型コロナウイルスが影響しているといった指摘も。真相を探るうちに見えてきたものとは。
(函館局 記者 川口朋晃/カメラマン 太田悠樹)

夜景が変わった?

観光名所「函館山」の眼下には両側を海に挟まれた扇形の市街地が広がり、街に明かりがともり始めると海岸線に伸びる道路には車のヘッドライトがあふれる。
漆黒の海とのコントラストが際立つその姿は「100万ドルの夜景」、香港やナポリと並ぶ世界三大夜景とも称され、国内外から多くの人がその美しさを目当てに函館を訪れる。
新型コロナウイルスの影響で苦境に陥った飲食店を取材する中、私たちはこんなことばを耳にした。
「函館の飲食店やホテルがどんどん閉まり、夜景が変わってしまっているのではないか。確かめてほしい」
手がかりを求め、まず向かったのは函館市内で写真店を営む松井明子さんのもとだ。この写真店ではほぼ毎年、夜景を撮影、保存している。
この写真は、2006年(平成18年)に函館山から撮影した夜景だ。
まさに無数の宝石がきらめくようなロマンチックな夜景だ。
松井さんは、2006年からことし4月にかけて撮影した写真を見せてくれた。時期や天候などに多少の違いはあるが、撮影はほぼ同じ場所だという。
写真を見ながら松井さんはこう口にした。
写真店 松井明子さん
「改めて見比べてみると夜景は暗くなったと思う。山のふもとやJR函館駅前が寂しくなったように感じる」
街の人たちはどう思っているのか聞いてみた。
多かったのは…
「夜景が最近暗くなった」
「昔に比べて少し寂しくなった」
やはり何らかの変化が生じているのか。

函館市「見え方が変化した可能性はある」

市の見解を知りたいと思い資料をあさってみると、2016年(平成28年)の市議会で「夜景が暗くなったのではないか」という質問が出され、市は「長い年月の中で光が変化している可能性はある」と答弁していたことが分かった。
市の担当者に改めて問い合わせると次のような回答があった。
市の担当者
「市議会での指摘を受けて、デザイン会社に夜景の評価を依頼したところ、『全体の光量(光の数)は増えている様子だが、相対的に明暗の差が生じている』ということだった。これ以上の詳しい分析はしていないので分からないが、市としては夜景が暗くなったとは考えていない」
結局、詳しいことはよく分からない。

夜景は変わったのか

別の角度からあたるしかない。
私たちは夜景に詳しい専門家探しを始め、過去に函館の景観について論文を発表した人物にたどりついた。
筑波大学で社会工学を教える大澤義明教授だ。
「函館山からの夜景について研究を行ったことがある」という大澤教授。今回改めて大学院生とチームを組んで夜景の詳しい分析を行ってもらえることになり、取材で入手した過去14年分の夜景写真を送った。
そして1週間後、分析結果をまとめた資料が届いた。
胸の高まりを抑えつつ目を通す-

「函館の夜景は、相対的に見て以前より暗くなった」

と結ばれていた。

「暗くなった」その理由は…

大澤教授らの研究チームが指摘したのは「人口減少」だ。
2006年(平成18年)とおととし(平成30年)の写真を比べると、函館の夜景に特徴的な「街」と「海」を分ける海岸線や函館山のふもと「十字街」と呼ばれる地域の住宅街、いずれの明かりも減少しているように見える。
写真だけでは判断できないとして、総務省の国勢調査に基づいた人口密度を表した分布図による裏付けも行っている。
この分布図は赤い色が濃いほど人口密度が高いことを表している。
「十字街」周辺の地域は、10年間で赤色からオレンジ色に変化し、人口減少が進んでいることが分かる。
実際この地区は10年間で人口が13%減少。
空き家が増えて、明かりが減っているとみられる。そのうえで大澤教授は「人口減少は交通量の減少にもつながり、結果として函館の夜景の特徴でもある『車のヘッドライトの明かり』も減少した」と指摘する。

さらに「LED照明の普及」もあるとしている。
市内には約3万7000の街路灯が設置されているが、半数以上、LED化された。これまで一般的だった白熱電球は赤みがかった光で温かい印象になるが、青白い光のLEDは冷たい印象を受ける特徴があるという。
主に「人口減少」と「街路灯のLED化」。
この2つの要因が、夜景の質を変えてしまったというのだ。
筑波大 大澤義明教授
「函館の夜景は人工的に作り込んだものではなく、生活そのものが反映される夜景だ。ライフスタイルの変化などが質を変えてしまう。さらに空き家率が増え、経済活動が減っているというのが夜景の印象に大きく影響を与えている」

新型コロナウイルスの影響も

6月1日。政府の緊急事態宣言の解除を受けて1か月半ぶりに函館山のロープウエーが再開し、山頂に向かった。
夜景を楽しむ人たちの傍らで、これまで幾たびも取材で山を訪れた私たちは夜景に違和感を覚えた。
JR函館駅近くにはホテルが林立しているが、客室の窓の明かりは数えるほどしかつかず、繁華街のネオンの暗さも気になる。
ヘッドライトをつけて走る車の数も多くない。
緊急事態宣言の前に撮影された夜景と見比べると、ひときわ明るいはずの駅前の繁華街が軒並み暗くなっている。温泉地の営業自粛などで海岸線の交通量も減って、特有の「くびれ」の形が前よりはっきりしなくなっている。
函館山ロープウェイの担当者は「新型コロナウイルスの影響で店の営業時間が短縮されるなどして街の明かりが少なくなってきている。1日も早い収束を願うとともに地域一丸となって頑張っていくしかない」と話す。
実は新型コロナウイルスも夜景に影響を及ぼしていたのだ。

大事な観光資源「夜景を守る」取り組みも

取材を続けると、夜景を守ろうと取り組む人たちがいることも知った。
函館市で不動産業を営む蒲生寛之さん。空き家や古民家をリノベーションして販売する中、3年前に手がけたのは函館山のふもとに建つ築約100年の「第三坂ビルヂング」だ。改装してシェアオフィスや店舗として使われている。
LED照明はあえて、柔らかく温かい印象を与える赤みのあるものを取り入れているほか、窓にカーテンを張らず、漏れ出る明かりも意識しているという。
蒲生寛之さん
「建物から明かりが漏れているというのは、人が生活している息吹を感じられると思っている。建物を再生して夜景の明かりが増えていくといい」
ほかにも市内のホテルでは函館山を向いた部屋に優先して宿泊客を入れるなど、さまざまな場所で夜景を守る取り組みが進められている。
多くの人を魅了してやまない「100万ドルの夜景」の美しさ、その根源は人の営みが織り成す輝きなのだろう。
緊急事態宣言は解除されたが観光客の回復はいまだに見込めず、函館は経済活動の停滞から抜け出せずにいる。
でも、夜景に励まされる人がいる、守ろうとする人がいる、大切に思う人がいる。夜景も人も明るさをきっと取り戻す、そう信じてこれからも函館のありようを見つめ、伝え続けていきたい。
函館局 記者
川口朋晃
2013年入局。北海道出身。市政・経済を主に担当。趣味は温泉巡りとドライブ。1日で700キロ以上の距離を運転して遠出することも。
函館局 カメラマン
太田悠樹
2014年入局。潜水カメラマンとして各地の海も取材。趣味は水泳・バスケ等スポーツ全般。函館市内の大学出身で函館生活は通算8年目。