伝統を守り、新たな挑戦へ

伝統を守り、新たな挑戦へ
シリーズ「コロナに負けるな!中小企業」。今回は伝統産業の担い手です。
感染拡大によって多くの企業が苦境に立たされ、これまで守り続けてきたものが新しい日常・生活様式に対応できるのか、不安を感じている人も少なくありません。こうした中、伝統を守るための挑戦も始まっています。前に進もうとする経営者を支えるものは何なのか取材しました。(福島放送局記者 相原理央・釧路放送局記者 生田真尋)

だるまのように立ち上がりチャレンジを

福島県白河市におよそ300年前の江戸時代から伝わる「白河だるま」。

寛政の改革を主導したことで知られる松平定信が白河藩主だったときに、城下の繁栄を願って絵師にだるまを描かせたのが始まりとされています。眉やひげに松竹梅と鶴亀をあしらった縁起物として親しまれ、地元を代表する観光物産品の1つです。

しかし感染拡大の影響はこうした伝統のだるまを製造する業者にも及んでいます。
「東日本大震災による経済的な被害と比べると、今回は先行きが全く見えないという意味でより恐怖感は大きいです」
こう語るのは、地元のだるま工房で14代目の代表を務める渡邊高章さん(27)。

4月の売り上げは、去年の同じ月と比べて8割の大幅減少。旅行客の急減で、観光施設などに向けた卸売りが落ち込んだためだといいます。
活路を見いだそうと4月下旬から急きょ始めたのがインターネットでの販売。こん包など慣れないことも多く、想定外の事態も。終息祈願として注文を受けたのに、感染拡大がおさまってきたのでキャンセルしたいという連絡が入ることもあったそうです。

一方で消費者との距離が近くなったことで、この仕事の魅力を改めて感じることもありました。

渡邊さんは、だるまに、「こんな世の中ですので、人と人とのつながりや誰かを思いやる気持ちがあったほうが素敵な日々につながることと信じております」というメッセージを添えて届けるようにしたといいます。
渡邊高章さん
「お客さんから、お礼や励ましのメールも届くようになりました。うれしかったです。お客さんとの距離が近くなり、喜んでもらえていることにだるま作りへの誇りを感じています」
白河だるまは、結婚式など多くの人が集まるお祝いの席で、雰囲気を華やかにするものとして親しまれてきました。渡邊さんは、密集を避ける新しい生活様式のもとでも、だるまを通して心のぬくもりを届けたいと考えています。
人魚のような姿をして疫病から人々を守ると言い伝えられている妖怪「アマビエ」を描いた小さなだるま。家族や友人との会話の中に、少しでも明るい話題を提供したいと、製作しました。

自宅での時間を楽しく過ごしてもらおうと、無地のだるまにクレヨンをセットにした商品の販売も始めています。

渡邊さんは、今回の事態をきっかけに、伝統産業に携わる全国の経営者たちとWEB会議システムを通じて連絡をとるようになったといいます。
渡邊高章さん
「こんな世の中だからこそ未来に希望をもちながら、新しい伝統や、新しい物作りの形が生まれてくると思います。だるま作りという伝統産業を成長産業に、そして夢のある産業にしていきたいと考えています。だるまにちなんで七転び八起きの気持ちでチャレンジし続ければ夢は達成できると信じています」

水産物のオンライン販売で新たな交流を

水産の街、釧路を代表する観光地として知られる釧路和商市場。1954年に誕生してから市民の台所として親しまれ、今では鮮魚などを扱う45の店舗が軒を連ねています。
「いらっしゃい、ほら見て、こんなに脂がのってるよ」「おいしそう、それちょうだい」

気に入った魚介類を選んで丼飯に盛りつける「勝手丼」が名物で、感染拡大の前は多くの観光客でにぎわっていました。
しかし次第に客足は遠のき、感染防止のため勝手丼の販売も一時中止を余儀なくされました。中には売り上げが9割減少した店もあったといいます。

一貫した対面販売と人と人との触れ合いを大切にしてきた和商市場にとって、66年の歴史で経験したことのない事態でした。
「このままではいけない」
最初に声を上げたのは、鮮魚店の専務を務める柿田太樹さん(49)でした。柿田さんの店でも4月以降の売り上げが去年より3割程度減りましたが、市場が一体となって新しいことに取り組む必要があると考えました。

市場全体の販売方針をまとめる「広告促販委員会」の委員長も務める柿田さん。真っ先に取り組んだのがオンラインショップの強化でした。
およそ300点の商品を5%から15%値引きするという大型のセールです。すぐにスタートすることを優先し、サイトのデザインを変えたり、広告を出すための予算を組んだりする余裕もなかったといいます。

セールは5月の大型連休中に話題となり、道内外から注文が相次ぐようになりました。オンラインショップでの販売は、これまでお歳暮の時期に利用があるぐらいでしたが、5月になってからのオンラインでの売り上げは、去年の同じ月の10倍にのぼりました。

予想を上回る反響でしたが、商品の購入者が書き添えた言葉に励まされたことも多かったといいます。
柿田太樹さん
「お客様の住所を見ると、札幌や東京など、ここ釧路よりも状況が悪いところから注文されている方がたくさんいたのですが、こちらのことを気遣っていただき、『頑張ってください』とコメントしてくれる方がすごく多かったですね。うれしかった。ありがたかったです」
柿田さんは、高校を卒業したあと、東京にあるコンピューターの専門学校に通い、そのまま都内の会社でプログラマーとして働きました。しかし仕事が自分に合わないと考え、28歳になって釧路に戻ってきました。それからおよそ20年、和商市場で働き続けています。
インターネットでの販売では、ふだんの市場の雰囲気は伝わらず、魚の身を切って見せて、お客さんが寄ってくる、そういう売り方もできません。和商市場の伝統である対面での販売とは対極の販売方法にためらいをみせる店もあります。
しかし、柿田さんは、新しい生活様式が求められるこれからの時代、オンラインショップでの販売を対面販売と同じように育てていきたいと考えています。オンラインの販売でも和商市場が大切にしている人と人との温かい交流が生まれるということがわかったからです。
柿田太樹さん
「大型の通販サイトを利用するときとは違った感覚で、和商市場のオンラインショップに来てくれたのかなという気がしています。例えばなじみの店に行く感覚と近いのかなという感じがします。和商市場も昔に戻るというよりは、オンライン販売のような道具をもっと活用して、それがプラスアルファとなれば、以前よりいい形でいろいろなことができるのではないかと思います」
人と人とのつながりを大切にしながら厳しい環境を乗り切ろうとする中小企業の経営者たち。コロナの時代の新しい伝統の形を模索する挑戦は続いています。
福島放送局記者
相原理央
令和2年入局
釧路放送局記者
生田真尋
令和2年入局