コロナに負けるな!中小企業 町工場社長が語る仕事の原点とは

コロナに負けるな!中小企業 町工場社長が語る仕事の原点とは
厳しい経営環境が続く中、中小企業はコロナ時代の新しいビジネスの形を模索しながら前に進もうとしています。

ビジネス特集では、「コロナに負けるな!中小企業」と題して、危機に立ち向かう中小企業の姿をシリーズで紹介します。

第1回目は、東京 墨田区の金属加工会社の社長、浜野慶一さん(57)です。浜野さんは、経済産業省の専門家会議の委員などを歴任し、国の中小企業政策やものづくりの在り方について発言してきました。数々の会社の危機を乗り越えてきた経験もあります。厳しい環境を生き残るため中小企業には何が必要か聞きました。

浜野さんは「諦めないでほしい」と強調します。(経済部記者 寺田麻美)

製造業に重くのしかかる圧迫感

浜野さんが社長を務める金属加工会社は、従業員がおよそ60人。半導体製造装置から医療機器まで幅広い分野の部品を手がけ、国内の取引先は5000社にのぼっています。

浜野さんは、新型コロナウイルスの影響はこれから製造業に及ぶのではないかと見ています。
浜野製作所 浜野慶一社長
「6月の売り上げは当初の見込みを5%から10%下回る可能性がありますが、取引先が多いこともあり去年の水準並みでとどまっているのが現状です。ただ、今後どうなるのか全然わからず、不透明感は否めません。サプライチェーンの中では、部品が組み立てられて、ほかの地域に納められるまでタイムラグがあるので、これからじわりじわりと影響が出てくると思います。製造業に携わる中小企業は、重くのしかかる圧迫感みたいなものを、みんな感じています」

コロナ時代の製造業は

浜野さんは、コロナの時代を乗り切るには日本のものづくりの在り方を見直すべきだと考えています。ポイントは2つ。1つは中小企業の、下請け体質からの脱却です。
浜野社長
「下請けの仕事はとても誇り高い仕事で胸をはってやるべきですが、下請け体質からは脱却すべきです。8次下請けの企業が、どれだけ工夫して生産効率を上げても、そのうえの7社の事情しだいで経営環境が一変してしまいます。取引先の業界や業種を分散化する。そして、ほかの中小企業と組んで、縦ではなく並列のサプライチェーンを作っていく。そうすることで小さな企業でも取引先に対してものが言えるようになります。中小企業の経営者仲間とはこのような話をしています」
もう1つは、本当に必要な製品は国内で作り、ものづくり自給率を高めることです。
浜野社長
「感染拡大によって、海外との間で、ものの出入りができなくなったりしましたが、国民が使う重要なものを日本の中で自給自足できるのかという問題が出てきたと思います。この時期だからこそ、日本のものづくりの自給率を高めるよう、ものづくりの在り方を見直すべきです。それは大企業や政府、そして僕たちのような町工場が、立場や業界、肩書や事業規模に関係なく、議論する時期にきていると感じています」

どん底からはい上がった経験

浜野さんは、墨田区の中小企業の間では、どん底からはい上がった経営者として知られています。

1993年に家業を継ぎ、2代目の社長となった浜野さん。

新しく事業を広げていこうとしたやさきの2000年、隣の建物の工事中に出た火が燃え移り、工場は全焼。仕事道具だけでなく大切な家族の形見も失いました。

そして、この工事を請け負った住宅メーカーから賠償金を受け取るはずだったのが、受け取りの前日にこのメーカーが経営破たん。何とか東京都や墨田区から資金を借り入れ、当面の資金繰りはついたものの、取引先は4社しかなく、返済のめどが立たない。仕事をもらおうと中堅の会社を回りましたが断られ続け、中には居留守を使われたり、目の前でバッテンされたりしたこともあったそうです。
浜野社長
「それでも通い続けていると、バッテンをした人が手招きをして、1回こっきりの短納期の仕事を持ちかけられました。2週間という納期でしたが、せっかくのチャンスだと思い、半分の1週間で仕上げました。その後も、単発の短納期の仕事が来るようになり、全部、言われた納期の半分の日数で持って行ったんです。すると、ある日、バッテンをした人が、初めて会議室にあげてくれ、会社の事情を打ち明けてくれました。『実は下請けを増やすなという会社の方針が出ているのだが、取引先は大量生産の継続した仕事ばかりをやりたがって、短い納期の1回こっきりの仕事は体よく断られている』。こう言うのです。そして頭を下げて言われたのが、『便利屋みたいにあなたの会社を使うのは申し訳ない。これからぜひ取り引きさせてほしい』と」
浜野さんは、この経験から「誠意をもって仕事をすれば必ずチャンスが巡ってくる。徹底的に相手にコミットすることで、自分の会社でも入り込める隙間がある」と実感しました。

これ以降、取り引きが増え、経営の安定につながったといいます。

「仕事の原点」とは

そして、その数年後、浜野さんが「仕事の原点」だとしている出来事がありました。ホームページの問い合わせフォームに記入があった男性の名前。連絡をとると5歳の娘がいる父親だといいます。

そして、こんな依頼がーー。
「1週間後の娘の誕生日までにある部品を作ってほしいのです。介護用のベッドを改造し、立ち上がるときに補助をするリハビリ用の機具です。ベッドメーカーからは作るのは難しいと断られました。娘は1年前、私が目を離したときに公園から飛び出して車にはねられ、車いす生活となっています。本人はもう公園には行きたくないと言っています。しかし、医師からはリハビリによって歩けるようになるかもしれないと言われました。これからリハビリができるような環境をつくり、もう一度娘と手をつないで公園を散歩したいのです」
依頼を受け、浜野さんら社員5人が協力して補助機具の部品づくりに取りかかりました。徹夜をすることもあったといいます。その結果、製品は誕生日までに完成。無事、父親に届けることができました。
浜野社長
「次の日、父親からメールが来ていました。娘はプレゼントに大きなおままごとセットがほしいと言っていたので、嫌われるのではないかと直前まで渡すべきか悩んでいたそうですが、浜野製作所の皆さんが一生懸命作ってくれたという思いから、勇気を出してプレゼントを渡したそうです。すると、娘さんが『パパありがとう、本当にありがとう』と言って、車いすから抱きついてきてくれた、という内容でした。そしてメールの最後には、『浜野製作所の皆さん、ありがとうございました』と書いてありました。小さな会社でも、人に感謝してもらえることができる。このことが今の仕事の原点となっています」

どこかに必ずチャンスはある

どんなに小さな会社でも諦めずに誠意をもって臨めば、人に感謝してもらえるような仕事をすることができる。浜野さんはコロナの時代の今こそ、中小企業は社会に貢献できると考えています。
浜野社長
「企業は規模だけで評価される時代ではないし、社会を支え、役に立っているのが中小企業です。私は大学生のときに、父親から飲みに誘われ、『町工場の仕事はものすごく楽しい。誇りをもって仕事をしている』と言われたことがあります。そのときの父親の目がきらきらしていたことを今でも覚えていますが、家業を引き継いだのはこの父親とのやり取りがあったからです。私は2代目なので両親が頑張って築いてくれた仕事を諦めてはいけないと思っています」
そしてどん底からはい上がった自分自身の経験を踏まえ、中小企業の経営に携わる人に対し、厳しい時代をともに乗り切ろうと呼びかけます。
浜野社長
「厳しい状況でもできることはいっぱいあります。せっぱ詰まると、そこに気付かなかったり、目線が行かなかったりしますが、1つでも2つでも自分ができることを進めていくと、必ず見えなかった景色が見えてくると思います。私がやってきたのは、新しい市場や仕組みを作るのではなくて、人々が困っていることはなんだろうかと考え、そこを徹底して取り組むということです。どんな時代や、どんな産業、業種でも、それがあると思うんです。諦めるのは一瞬でできますが、諦めなくてよかったと思える日は必ず来ます。経営者は仲間を信じ、今の仕事に誇りをもって仕事をしてほしい。どこかにチャンスはあるはずです」
経済部記者
寺田麻美
平成21年入局
高知放送局をへて
経済部で消費の現場から相続問題まで幅広い分野を取材