コロナで高まる児童虐待リスク~子どもたちをどう救う

コロナで高まる児童虐待リスク~子どもたちをどう救う
新型コロナウイルスの陰で増えているとみられるのが、子どもへの虐待。海外では、感染拡大を防ぐため厳しい外出制限が余儀なくされ、社会から隔離された自宅の中で子どもたちは声を上げられない状態が続いた。人と人とが直接会うことが難しい中、現場は苦慮している。どうすれば、子どもたちを救うことができるのか。その糸口を、取材した。
(国際部 記者 岡野杏有子/ヨーロッパ総局 古山彰子)

新型コロナで児童虐待が減少?!

新型コロナウイルスの感染者・死者ともに世界で最も多いアメリカ。
そのアメリカで、実は、児童虐待の通報件数が減っている。
減少傾向が顕著にみられるようになったのは、休校措置が始まってからだ。

感染が最も深刻な東部ニューヨーク州では、ことし3月23日から5月4日までの通報件数は3855件だった。去年の同じ時期に比べて54%も減少した。

アメリカでは、教師やスクールカウンセラーなど教育関係者からの通報がおよそ3割を占める。そのため、新型コロナウイルスの感染防止のために休校措置がとられた結果として、通報件数が減っているとみられている。

専門家は、虐待が減ったということではなく、むしろ深刻化しているおそれがあると警鐘を鳴らす。その背景に、新型コロナウイルスによる失業や給与の減少などといった経済的な影響があるという。
デューク大学 アナ・ガスマンパインズ准教授
「経済的ストレスは、児童虐待につながる大きな要因になる1つだ。過去の調査でも、失業率が高まると児童虐待の数が増える、もしくは深刻になることが分かっている。学校が再開すると、虐待件数はむしろこれまで以上に増加するのではないか」

見つけにくい虐待 オンラインが救世主?

そうした中、アメリカでは、オンラインを活用した支援を進めようとしている。西部カリフォルニア州のNPO団体「iFoster」は、そもそもインターネットに自由にアクセスできない10代の若者に対して、パソコンやスマートフォンを配付した。
子どもたちに確実に届くよう、州と連携し、社会福祉士を通じて合わせて8000台を配った。需要は高まっていて、ほかの州にも事業を拡大している。オンラインでの活動が一般的になってきている今、相談や支援につなげるためには、まずは、環境の整備が必要だと訴えている。
iFoster リード・コックス共同代表
「ふだんであれば、社会福祉士が直接、面会するが、今はそれができない。オンラインは、子どもたちとコンタクトを取れる唯一の手段になっている」

オンラインでの支援に戸惑いも

虐待の発見に大きな役割を果たしてきた学校現場はどのように感じているのだろうか。
南部オクラホマ州の公立小学校でスクールカウンセラーを務めるサラ・カークさん。休校中も、自宅から児童とオンラインでの交流を続けている。しかし、オンラインの支援だけでは、虐待の兆候を見逃してしまわないか、不安もある。
カークさんの学校では、年間100件ほどの虐待のおそれがある事案を行政機関に通報している。しかし、休校中に通報したのはわずか1件だった。

カークさんによると、子どもたちが、虐待を受けていることをみずから告白するのは、まれだ。学校生活を送る中で、子どもたちが発する「小さなサイン」から、虐待に気付くことがほとんどだという。

授業中に居眠りをしている児童は、夜眠れなかったかもしれない。学校で提供する朝ごはんを勢いよく食べる児童は、夜ごはんを食べられなかったかもしれない。怒りの感情を抑えることができない児童も要注意だという。

こうした「小さなサイン」から、家庭内で起きていることが分かるが、それができない今、もどかしさも感じている。
サラ・カークさん
「どんなに傷つくことが起きていても子どもは不思議と、オンライン上で面会している間は、笑顔でいられる。そのうえ、母親の携帯電話や父親のコンピューターを使わないといけなかったり、家の中で誰かに見られたりしていると、子どもたちはどうやって伝えることができるのか」
カークさんが心がけているのは、相談を待つのではなく、みずからアプローチすること。毎日、40人近い子どもや親に電話やメールをして、家庭内での生活の変化を見つけようとしている。
そして、先生の協力も欠かせない。
この学校では、休校中はオンラインで授業を進めているため、児童と顔を合わせる機会の多い先生のほうが、虐待の兆候を見つけやすいからだ。
このため、先生たちに「声かけ」の徹底をお願いしている。「今、安全と感じているか?」と必ず聞いてもらっている。

また、「幸せ」「楽しい」「悲しい」「怖い」といったことばから何を連想するかも聞いてもらい、その答えから、子どもたちの今の状況を知ることができるという。

さらに、発言が多かった児童が急にふさぎ込んだり、授業に長らく参加しなかったりすることも注意すべきサインだ。
サラ・カークさん
「今の対応は完璧ではない。支援の手からこぼれ、救えていない子どもは必ずいると思う。だけど、多くの子どもは、私たちの行動で救われているはずだ。支援を続けることで変化は生まれる」

虐待増加を懸念 フランスの対策

一方で、政府がいち早く対策に乗り出した国がある。3月17日から、外出制限を始めたフランスだ。
外出制限の開始と同時に、テレビである広告を流すようになった。
家の中から泣き叫ぶ子どもの声と、どなりつける母親の声が耳に残る動画。「何もしないと虐待は続く」というナレーションとともに、「子どもが危ない、虐待の疑いがあれば通報を」というメッセージが表れる。

外出制限で、家族全員がほとんど一日中自宅で過ごすようになることで、虐待が増えることを懸念した政府が、各テレビ局に放送を依頼。5月10日までの2か月足らずで、合わせて3300回近く流れた。

実際、外出制限後、虐待の通報は急増した。政府のまとめによると、外出制限が続いた期間とほぼ同じ3月18日から5月10日までの間、9万7542件の通報があった。去年の同じ時期の通報件数は6万2467件、56%余りの増加となった。
政府は、全国の商業施設などの一角に、臨時の相談ブースを設置。外出制限中も、食料品など必要最低限の買い物の外出は許されていたため、限られた外出の機会に、まずは親から悩みを打ち明けてもらい、虐待のリスクを減らそうと、NGOに設置を依頼した。

ただ、配偶者からの暴力に関する相談は多く寄せられたものの、子育てに悩む保護者からの相談は多くはなかった。フランスでは、一般的に幼い子どもが保護者の同伴なしに出かけることは少ない。特にパリなどの都心部ではまれで、家庭内の閉ざされた空間で行われる虐待を見抜くのは、外出制限によって、より困難な状況になった。

政府も注目 若者がすがるSNS

外出したくても、声を上げたくても、それが難しくなった子どもたち。助けを求める子どもたちがすがったのは、10代の若者の間で絶大な人気を誇る、短い動画を投稿できるアプリ「TikTok」だった。
多くのフォロワーを抱え、影響力があるインフルエンサーたちが、虐待を通報する番号の利用を呼びかけた。
若者に人気の腹話術師ルカプシンさんも「虐待に悩んでいたら通報窓口に電話して」と投稿した。
すると、コメント欄には、「たたかれた」「恋人が継父から被害を受けた」など、自分自身や親しい人の被害を訴える書き込みが相次いだ。匿名でも投稿できるオンラインの世界で、同じく虐待に苦しむほかの投稿に後押しされるように、若者と見られる投稿者が、次々と深刻な被害を打ち明けていった。

そこで、フランス政府は、若者が利用しやすいSNSと連携することを模索。5月上旬にアプリ会社と協定を結び、虐待を連想させるキーワードを検索したユーザーに対して、通報を呼びかけるメッセージがスマートフォンなどに自動的に表示されるようにした。
誰にも相談できずに1人で悩んでいる子どもたちに手を差し伸べたい。若い世代の目につきやすい場所にみずからアプローチし、虐待を見抜くきっかけを作り出している。

フランスの外出制限は5月11日に大幅に緩和され、学校も、低学年から順次、再開し始めている。一方で政府は、再び感染が拡大すれば、状況を慎重に見極めながら、外出制限を再び強化するとしている。外出制限下で、子どもたちをどう守っていけるのか。政府は検討を続けている。

声をあげられない子どもたちをどう救う

オンラインでの支援に試行錯誤するアメリカ。早くから児童虐待の危機感を抱き、国が率先して対応するフランス。ただ、いずれも、抜本的な解決策が見つかったとはいえず、どうすれば子どもたちのSOSに気付いていけるか模索が続いている。

日本でも、虐待の増加は懸念されている。学校再開の動きも出てきているが、第2波、第3波のおそれも指摘される中、いかに子どもたちの声を拾い、支援するか。

「子どもたちを救いたい」

難しい対応が求められるからこそ、積極的な取り組みが必要だ。
国際部 記者
岡野杏有子
ヨーロッパ総局
古山彰子