避難所で感染防止対策 収容可能は人口の約2割 多摩川流域

避難所で感染防止対策 収容可能は人口の約2割 多摩川流域
新型コロナウイルスへの感染が懸念される中、東京と神奈川を流れる多摩川で氾濫のおそれが出た場合、どれくらいの住民が避難所に入ることができるのか。避難所で感染防止の対策をとると浸水区域内の人口の2割程度しか収容できなくなることがNHKの調査でわかりました。
去年10月の台風19号では、多摩川沿いの自治体などで避難所が満員になるケースが相次いだことから、NHKは、多摩川が氾濫した場合に浸水が想定されている、東京と神奈川の合わせて23の自治体にある759の避難所について調査しました。

25%の避難所は浸水想定区域に

まず、759の避難所のうち、およそ25%にあたる189の避難所は、浸水想定区域の中にありました。

特に広い範囲が浸水する東京 大田区や川崎市では浸水の深さが3メートル以上に達する避難所もあり、「2階以上を使用する」などの条件をつけて避難所に指定しています。

そもそも避難所に入れるのは半分余

浸水想定区域の住民は、各自治体の避難所にどれくらい入ることができるのか。

NHKは5月の時点で避難所の収容人数や面積を公表している21の自治体のデータをもとに調査しました。(※未公表の狛江市と稲城市除く)

その結果、浸水想定区域に暮らすおよそ165万人のうち、避難所に入ることができるのはおよそ88万人と、「収容可能率」はおよそ53%にとどまることがわかりました。

感染防止対策をすると…収容可能率は24%

さらに新型コロナウイルスへの感染防止対策のため、避難者どうしが2メートル以上の距離を取った場合どうなるのか計算しました。

避難者1人あたりの面積を4平方メートルで計算すると、受け入れできる人数はおよそ40万人にまで減少し、「収容可能率」はおよそ24%になりました。

中でも、広範囲が浸水する東京 大田区や川崎市では圧倒的にスペースが不足し、収容可能率は10%台と厳しい現状が浮き彫りになりました。

東京 府中市は7% マンション内で避難も

東京 府中市では浸水想定区域内の人口に対する避難所の収容可能率が18%で、感染対策を考えると7%と、多摩川沿いの自治体で最も低く、浸水想定区域の住民の避難が課題となっています。

府中市の多摩川沿いにあり553世帯が入る大規模なマンションでは、最悪の場合3メートル近くの深さまで浸水するおそれがあり、住民がより高い階に住む知人の家や、マンション内の施設に避難する取り組みを進めています。

実際に去年10月の台風19号では、多摩川の水位が上昇し避難勧告が発表されたため、マンションの1階に住む40世帯余りが避難することになりました。すでに雨が強まっていたことから、避難した人の中にはマンションの上層階に住む知人を頼って避難したケースがあったということです。また、マンション2階の「ゲストルーム」と呼ばれる部屋を開放し、10人以上が避難したということです。

自治会長の林田健一さんによりますと、このマンションでは年1回の防災訓練に加えて、日頃からお祭りを開くなどして住民同士の交流を深める取り組みを進めているということです。

林田さんは「都会のマンションは『隣に誰が住んでいるかわからない』と表現されることがあるが、それではいざという時に対応できない。イベントなどを通じて、顔が見える関係を作ることが皆で協力して災害に対応する秘訣だと思う」と話していました。

東京 大田区 感染対策時は収容可能は10%

東京 大田区では70万人余りの人口のうちおよそ60%にあたる44万人余りが、多摩川が氾濫して最大規模の浸水が起きた場合の浸水想定区域に住んでいます。

水害に備え大田区は小中学校など89か所を避難所に指定していますが、このうち60%余りの59か所は浸水区域にあり、活用できるのは建物の2階以上とスペースが限られています。このため浸水想定区域に住む44万人余りに対し、収容できるのは11万人分ほどしかありません。

さらに、新型コロナウイルスの感染防止対策をとって1人あたりのスペースを十分に確保した場合は、およそ4万6000人と、収容できるのは全体のわずか10%にとどまります。

加えて大田区では、避難所内でのフロアや行動範囲を、▽発熱やせきなどの症状がある人と、▽症状がない人で分けることにしているため、使用できるスペースがより限られる可能性があるということです。

大田区では予備の避難所として使用できるよう区内の都立学校などと協定を結び避難所を増やす取り組みも行っていますが限界があるといいます。

こうしたことから大田区は、避難所に密集しないよう地区の住民に、▽安全な親戚などの住宅への避難や、▽自宅の高い階にとどまる「在宅避難」も呼びかけています。

大田区の甲斐康誠防災計画担当課長は「住民には、避難所以外の安全な避難先を自らで確保してもらう必要があり協力をお願いしたい」と話していました。

専門家「避難所以外の避難先検討を」

水害時の避難に詳しい静岡大学の牛山素行教授は、避難所での新型コロナウイルスの感染が懸念される中、避難のあり方を見直すことの重要性が高まってきていると指摘しています。

今回の調査結果について牛山教授は、首都圏など大都市部では避難所に十分な収容力がないのが現状だとしたうえで、「避難所に行くのはあくまで手段の1つであり、必ずしも全員が避難所に行く必要はない」と話しています。

そのうえで避難所以外の避難先について、「予想される浸水の深さが低いのであれば、自宅の2階やそれ以上の高い所にとどまるのも避難の1つの方法だ。親戚や知人の家など、自宅以外のところで安全が確保できるような場所へ移動する、あるいは宿泊施設に泊まることも考えられる」と話しています。

そして避難先を考える際には、ハザードマップなどを使って自分の身のまわりではどういう種類の災害が起こりうるのかを確認しておくことが重要だとしています。

牛山教授は「避難所に行く以外の手段がなければ避難所に行くというのが選択肢の1つになる。いざという時になると冷静な判断はできないので、気持ちが穏やかな今のうちに避難先について十分考えておくことが必要だ」と話しています。

自治体別 浸水想定区域の避難所数

多摩川の浸水想定区域内には全体のおよそ25%にあたる189か所の避難所がありました。

▽東京 大田区   59か所
▽川崎市川崎区 33か所
▽川崎市中原区 29か所
▽川崎市幸区  19か所
▽川崎市高津区 14か所
▽横浜市鶴見区 12か所
▽川崎市多摩区 10か所
▽東京 狛江市   8か所
▽東京 調布市   3か所
▽東京 日野市   1か所
▽東京 昭島市   1か所

最も深い場所では3メートル以上浸水するところもありますが、避難所として使える施設に限りがあることから、「2階以上」「3階以上」など条件を決めた上で使うことにしています。

自治体別 収容可能率

避難所の収容人数や面積をもとに浸水想定区域内の人口に対して避難所が受け入れられる人数を計算したところ、その割合を示す「収容可能率」は全体でおよそ53%でした。

▽東京 府中市   18%
▽川崎市中原区 23%
▽東京 大田区   25%
▽川崎市幸区  25%
▽川崎市川崎区 25%
▽川崎市多摩区 29%
▽川崎市高津区 35%
▽東京 調布市   38%
▽東京 福生市   40%
▽東京 国立市 47%
▽東京 昭島市 77%
▽東京 日野市 81%
▽横浜市鶴見区 90%

一方、いずれも東京の世田谷区、品川区、立川市、八王子市、多摩市、羽村市、青梅市、あきる野市は100%を超えました。

自治体別 感染対策時の収容可能率

新型コロナウイルスの感染対策を考え、避難所における1人あたりのスペースを一部の自治体の指針などで示されている4平方メートルで計算すると「収容可能率」はさらに下がり、全体ではおよそ24%でした。

家族が1つの区画に集まって過ごすことも考えられますが、状況によって変わるため、それを条件に入れず計算しました。

▽東京 府中市  7%
▽東京 大田区 10%
▽川崎市中原区 12%
▽川崎市川崎区 13%
▽川崎市幸区 13%
▽川崎市多摩区 15%
▽東京 調布市 16%
▽東京 福生市 17%
▽川崎市高津区 18%
▽東京 国立市 19%

また、
▽東京 昭島市 32%
▽東京 日野市 34%
▽横浜市鶴見区 45%
▽東京 多摩市 45%
▽東京 立川市 89%
▽東京 羽村市 94%

※今回の分析では収容人数や避難所の面積が非公表の「稲城市」と、避難所の3分の2で収容人数や面積が非公表の「狛江市」を除いています。