ウィズコロナ 生き抜くヒント

ウィズコロナ 生き抜くヒント
緊急事態宣言がすべて解除され、新型コロナウイルスと共に生きる“ウィズコロナ時代”が始まる。私たちの働き方、ビジネス、経済は「新しい日常」に対応して、どんな姿になっていくのか。そして企業が生き残るには何が必要なのか。手探りが続く。世界中の企業活動を詳細に分析し、巨額のマネーを投じている投資のプロたちが、今、何を考えているか。そこにウィズコロナを生き抜くヒントがあるかもしれない。そう思い取材に向かった。(経済部記者 峯田知幸)

700兆円を動かす集団

訪ねたのは、世界最大の資産運用会社ブラックロックの日本の運用責任者・福島毅氏。

ブラックロックは世界中の年金資金などの運用を任せられ、700兆円もの巨額資金を動かしている。個々の企業と意見を交わし、改善がみられなければ株主総会で取締役の選任などにノーを突きつけることもある。彼らの投資方針は、企業経営に大きな影響を及ぼしている。

福島氏は30年以上、金融市場に関わってきた。山一証券や北海道拓殖銀行など大手金融機関の破綻が相次いだ日本の金融危機、ITバブルの崩壊、そしてリーマンショック。何度も危機を経験してきた。そんな福島氏は、今回のコロナショックは、過去のどんな危機とも違うという。
ブラックロック・ジャパン 福島毅CIO
「9・11(アメリカ同時多発テロ)、リーマンショック、3・11(東日本大震災)などいろいろ経験してきたが、人為的に経済を止めたことはなかった。非常に異常な事態。株だけで無く、本来なら安全な資産として買われる国債、それから金まで売られた。ヘッジファンドの解約も相次いで何から何まで売られた。まさにクライシス回避だった」

大恐慌以来の混乱

経済のグローバル化で、コロナ拡散のスピードは市場の予想をはるかに超え、世界は人の移動や企業活動を世界規模で制限する事態に追い込まれた。経験したことのない事態にことし3月の金融市場はパニックに陥った。
ニューヨーク株式市場はダウ平均株価が1日で1000ドルを超えるような暴落に何度も見舞われ、3月16日は実に2997ドル下落。東京株式市場も3月中旬の1週間はブラックマンデーを超える記録的な株価急落となった。

百戦錬磨の福島氏でさえ、目を背けたくなるような状況だったという。
福島毅CIO
「私のパソコンに示される運用成績が、相当なスピードで悪化していった。画面を消したくなるような、何か気持ち悪くなるような、そんな状況だった」

市場は一転、回復へ

リーマンショックを超えたといわれた市場の動揺に、各国政府と中央銀行は対応し、かつてない規模の財政出動や資金供給策を打ち出した。

世界で最も多数の感染者が出ているアメリカがGDPの1割近い2兆ドル(200兆円規模)の経済対策をまとめたことをきっかけに、金融市場はとりあえずは落ち着きを取り戻した。

それどころか世界の中央銀行から大量に供給されたマネーが株式や債券、金などの商品市場に流れ込み、ニューヨークではナスダック市場の株価指数が史上最高値の水準まで戻ろうか、という状況になっている。「金融市場は緩和バブルだ」という指摘も多い。

かけ離れる金融と経済実態

福島氏も、金融市場の動きと経済の実態には大きな隔たりがあると指摘する。
福島毅CIO
「これまで総悲観でパニック的に売られすぎていたこともあり、金融市場は経済活動の『再開』というニュースにポジティブに反応している面がある。しかし世界経済の先行きに対する慎重な見方は徐々に強まり、金融市場と実体経済のかい離は埋まってくると考えている」
その経済の実態。厳しい指標が出てくるのは実はこれからだ。当面は記録的な落ち込みになるという予想が多い。

L字回復を覚悟すべき

6月以降は『抑えられていた生産、消費が一気に戻ってV字回復』といった予想も聞かれるが、福島氏は落ち込んだあとにしばらく横ばいが続く『L字』だと見る。
福島毅CIO
「個人消費は感染拡大の前と後ではやっぱり違う。しばらくソーシャルディスタンスが大事になる。例えばコンサートや旅行は以前のようにはできなくなる。生産は回復しても人の行動は慎重になるため個人消費が伸び悩み、V字回復は難しい。L字型のような非常に緩やかな回復になってくるだろう」
さらに『L字』ではおさまらず経済が落ち込んでいくリスクも指摘する。新型コロナウイルスの発生源や感染防止の初期対応をめぐって対立が深まっているアメリカと中国だ。
福島毅CIO
「“米中の対立”がきな臭くなってきた。今後、再び関税を掛け合うようなことになるとますます世界経済の回復が難しくなり成長力を抑えてしまうことになる。世界各国の潜在成長率が非常に落ちるというリスクに注意が必要だ」

ウィズコロナを生き抜くヒントは

ウイルスの第2波、第3波を警戒しながら世界は経済活動の再開に踏み出した。しかし「新しい日常」の世界経済は、これまでの延長線上には当面、戻ることができないと見る福島氏。

では、コロナ後の時代、どんな企業に投資するつもりなのか? その質問に「変化への対応力」というキーワードをあげた。企業の決算発表時の対応を例に説明してくれた。
福島毅CIO
「コロナの収束時期が見通せないため、今期の業績予想を出さない企業が相次いだが、一定の前提条件なり仮説なりを立ててでも業績予想や経営ビジョンを示さなくてはいけないと思う。これができる企業とできない企業では大きな差が出てくる」
今のような激変期に、成り行きを待つのか、それとも、方向感をもってすぐさま動くリーダーシップがあるかどうかを見極めて投資するということだ。

生活様式やビジネス環境が大きく変わろうとしている今、長年課題となってきた「選択と集中」や「マネジメント体制の再構築」を一気に進められる企業が、魅力的な投資先だと言う。

アメーバのように変われるか

福島毅CIO
「消費マインドが変わる。国と国の行き来も少なくなる。密集地を嫌がる。となればビジネスモデルを変える必要がある。続ける事業は続ける。やめる事業はやめる。変える事業は変える。常にアメーバのように変わっていく事が大事。企業価値を高めるためには、選択と集中やM&A(企業買収)など、強い分野でまとまって戦っていかなければ、生き残りは難しくなってくる」
「日本企業はモノやサービスを改善する力を持っている。“経営の在り方=マネジメント”も改善すべきだ。新卒一括採用にこだわらず、よい人材がいれば通年で採用する仕組みをもっと導入したほうがいい。スピード感を持って実行に移せる企業が非常に強い企業だ」
ウイルスで世界経済にこれほど急ブレーキがかかるとはほとんどの人が予想していなかった。ブラックロックも、市場の混乱で、今回100兆円を失い、みずからもいま「変化への対応」を模索している。

ウィズコロナ、ポストコロナがどういう世界になるのか、正確に予想するのは難しいが、変化にうまく対応した強い企業が生まれる千載一遇のチャンスでもあると福島氏は指摘する。この先の戦略を模索する企業の動きを、きめ細かく取材していこうと思う。
経済部記者
峯田知幸

平成21年入局
富山局、名古屋局を経て
現在 金融業界を担当