休業要請解除後も再開のめど立たず 新国立劇場や美術館

休業要請解除後も再開のめど立たず 新国立劇場や美術館
休業要請などの緩和が段階的に進められている東京都では、1日に「ステップ2」に移行し、劇場への要請も解除されましたが、すぐには再開できない施設もあります。

オペラやバレエの舞台 新国立劇場

東京 渋谷区の新国立劇場は、オペラやバレエの舞台として国内有数の劇場ですが、新型コロナウイルスの影響で2月末から閉館を余儀なくされ、16演目、98公演が中止になりました。

劇場内には海外から輸入した衣装や舞台装置も残されたままになっています。

損害は、チケット代だけで1演目当たり数千万円から1億円に上るということです。

現在、チケットおよそ5万枚分の払い戻し作業が進められ、劇場の運営だけでなく、出演者や関係する業者の生活にも大きな影響を及ぼしていますが、再開のめどは立っていないといいます。

海外から出演者呼べず

休業要請が解除されても、なぜ、すぐには再開できないのか。

世界的に活躍する指揮者で、新国立劇場のオペラ部門で芸術監督を務めている大野和士さんは、各国が外国人の入国を制限し、第2波も懸念される中、海外から出演者やスタッフを呼べる状況にはないと話します。

大野さんは「これまでは国際的な歌手や演出家を、航空運賃を払って招へいしていた。すぐにコロナ前の状況に戻せる状況ではないので、出演者を国内にシフトさせるなど工夫が必要だ」と話していました。

演奏者が「密集」に

また、劇場の構造上の問題もあります。

客席前の「オーケストラピット」と呼ばれるスペースは、本番では床が下がり、最大で120人の演奏者が密集した状態になってしまいます。

このため大野さんは、演奏者の人数を減らしたり、換気をよくするため床をふだんより高い位置にしたりするなどの対応を考えていると話します。

演出変える必要性も

再開のめどが立たない中、大野さんは、出演者が抱き合うシーンを別の見せ方に変えるなど、演出自体を見直す必要性を感じているといいます。

大野さんは「オペラには困難な状況の中で、愛を貫いたり、復しゅうに燃えたりするシーンがあるが、感情がほとばしれば、飛まつもある。絶対に譲れない演出もあるが、実際に抱き合わないような演出の工夫もできると思う。再開した劇場で新しいオペラに出会ってほしい」と話していました。

森美術館 企画展が中断 次の展覧会の準備も整わず

国内外の現代アートを中心に展示を行っている東京 港区の「森美術館」は、新型コロナウイルスの影響で中断された企画展の作品を撤去できず、次の展覧会の準備も整っていないことから、再開は7月下旬以降になる見通しです。

森美術館では、現在、美術展をインターネット上で実体験できるサービスを無料で提供しています。

実際の会場を歩いているように自由に作品を見ることができるほか、ガイドも聞けます。

森美術館の館長を務める片岡真実さんは「多くのすばらしい作品に出会ってきた身としては、美術館でのリアルな体験にオンラインが取って代わるとは考えにくいが、オンラインだからこそ、できることも多くあると考えている。当面は海外から観客を期待できないので、リアルの体験とオンラインの体験をうまく併用していきたい」と話しています。

「入場者数を制限しながら いかに芸術に触れてもらうか」

一方、「ソーシャルディスタンス」の考え方が芸術の現場に及ぼす影響について「多くの人に作品を見ていただくことを目指してきたので、ソーシャルディスタンスを守りながら、経営も成り立たせるのは難しい。今後は何十万人も訪れるような大規模な展覧会の開催は難しくなると予想され、入場者数を制限しながら、いかに質の高い芸術に触れてもらうかを考えることが、美術館の業界全体の新しい課題になると思う」と話していました。