「第1志望、合格したけど諦めました」コロナ深刻 アメリカは今

「第1志望、合格したけど諦めました」コロナ深刻 アメリカは今
「9月入学」が一般的なアメリカ。6月1日、アメリカの高校生たちは、将来の道を選ぶ重要な日を迎えました。「Decision Day」=「決断の日」です。大学への進学を志望する生徒はこの日までに進学先を決めますが、新型コロナウイルスの影響で今、“異変”が起きています。多くの高校生が、経済的理由や先行きへの不安から、進路変更を余儀なくされているのです。

第1志望、諦めた理由は?

アメリカの高校生は例年、3月ごろに合格通知を受け取り、5月1日までに進学先を決めますが、ことしは感染拡大を受けて多くの大学で、「決断の日」が1か月先送りされました。
西部カリフォルニア州・サンフランシスコの高校生、ジュリアン・ジョルダンさんも、この期間中、進路を変える決断をした1人です。

ジョルダンさんは、学業の成績と環境問題のドキュメンタリー制作といった課外活動が認められ、東部ボストンの私立大学と地元の公立大学の2校に合格しました。

第1志望はボストンの私立大学。合格後、大学に足を運んで、キャンパスの雰囲気を感じ、教授や学生からも直接話を聞いて、最終的に決めようと考えていました。

ところが、ちょうどその頃、アメリカでは新型コロナウイルスの感染が拡大。自宅からおよそ4000キロも離れたボストンに飛行機で行くのはリスクが高いと考え、訪問を諦めました。

地元の大学でも、例年はある合格者向けの見学ツアーが中止となり、車でキャンパスを見に行くことくらいしかできませんでした。

判断材料が限られる中、ジョルダンさんは悩んだ末に、第1志望の大学を諦め、地元の公立大学に進学する決断をしました。

決め手となったのは、高額な学費の問題です。
ボストンの私立大学は年間7万ドル。一方、地元の公立大学は1万ドルで、その差は6万ドル。日本円でおよそ600万円にものぼります。
ジョルダンさん
「アメリカでは、もともと巨額の学生ローンの問題があります。今後がどうなるかは誰にも予測がつきませんし、大きな借金を抱えないことが何よりも重要だと考えました。多くの授業がオンラインで行われ、授業が大きく変わるかもしれません。だから、大学での経験がどんなものになるかはまるでサイコロを振るようなものです。実際に進学してどうなるか、いまは想像もつきません」

どう進路変更? 不安を感じる理由は?

ジョルダンさんのように、進路を変更せざるをえなかった高校生は多くいます。東部メリーランド州の調査会社が4月下旬、卒業を控えた全米の高校生1171人に対して、聞き取り調査を行ったところ、新型コロナウイルスの影響で進路変更したと答えた生徒が、およそ2割に上りました。

では、進路変更したと答えた生徒たちは、進路をどう変更したのか。以下が、その内訳です。
<進路をどう変更したか?>
・少ない単位の履修で学位を取得できるコースに変更…34%。
・入学のタイミングを秋ではなく、来年の春まで待つ…17%。
・1年間、休学する…16%。
・4年制大学ではなく、2年制大学に変更…16%

9月入学ではなく、1学期遅らせて、来年春の入学を選ぶ生徒も少なくないことが分かりました。

いつ、大学が本格的に再開するか分からない中、9月に入学しても、有意義なキャンパス生活を送ることができないかもしれない。ならば、事態が落ち着くまで待とうと考えているようです。

また、オンライン授業が続くのであれば、授業料が安い2年制のコミュニティー・カレッジにまず入って、その上で4年制大学への転入を目指そうという生徒も増えています。

同じ調査では、「第1志望の大学への進学に不安がある」と答えた生徒が65%に上りました。
以下が、その“不安”の内訳です。
<第1志望の大学への進学に不安を感じる理由>
・家庭の経済的な事情から進学が難しくなる可能性がある…27%
・大学を見学するための宿泊体験ができなかった…20%
・現役生や入学予定者への対応が好ましくなかった…9%
・家族もしくは自分自身が健康上の不安がある…8%

親の失業や株価の下落などに伴う家庭の資産の減少で、志望校を変更しなければならなくなると心配している生徒が多いことが分かります。また、新型コロナウイルスの流行で大学を自分の目で確かめることができないことも不安の要因となっています。こうした理由から、いま、アメリカでは、私立大学よりも、公立大学への進学を志望する生徒が増加しています。さらに健康面への考慮や安心感を得るため、実家に近い大学を選ぶ生徒も増えると見られています。

現役大学生の間でも授業料に反発広がる

一方、現役の大学生のあいだでは、授業料のあり方をめぐり、反発が広がっています。
カリフォルニア大学アーバイン校の大学1年生、ロージー・オガネシアンさん。大学から感染拡大で授業を中止するという連絡が来て、その1時間後には、授業料の一部返還を求める署名運動を始めたと言います。

彼女の専攻はバイオサイエンスです。しかし、大学の授業は3月以降すべてオンラインになっていて、実験を満足に行うことはできていません。
オガネシアンさんの両親は、旧ソビエトのアルメニアからの移民です。これまで家族に負担をかけてきたこともあり、オンライン授業のみで、これまでと同額の授業料を支払うことに納得がいきませんでした。
オガネシアンさんのサイトには、「授業をやってくれないのに、これ以上の学生ローンはごめんだ」、「全額支払う必要はない」などと多くの人から共感の声が寄せられ、署名は8000人を超えました。
こうした署名運動はオガネシアンさんの大学だけでなく各地に広がっています。高い学費への不満は、集団訴訟にまで発展しています。

南部・サウスカロライナ州にある法律事務所は、「カレッジ・リファンド2020(学費の返済2020)」と名付けた特設サイトを開設。集団訴訟に加わる学生を募っています。大手メディアのブルームバーグによりますと、訴えを起こしている学生や親は、すでに全米で数千人に及んでいて、少なくとも50の大学を相手取り集団訴訟を起こす動きが出ています。

大学側も留学生激減で経営悪化

大学側も厳しい現実に直面しています。4年制大学への入学を敬遠したり、進学自体をあきらめたりする学生が相次ぎ、入学金や授業料などの収入が大幅に減少する見通しとなっているのです。

追い打ちをかけているのが、留学生の激減です。アメリカが受け入れる留学生は、毎年およそ100万人。その多くが地元の学生よりも高い授業料を払っていることから、“大学経営の屋台骨”とも言われています。その留学生を確保できなければ、大打撃となるおそれがあります。

さらに州政府が、税収の減少を受けて教育関連予算を削減していることも響いています。

全米有数の学生数を誇るカリフォルニア州立大学で、入学の選抜基準の策定に携わっているキルティ・セリー教授は、初期段階の推計としてこの秋の入学者数が、最大で25%減ると予測していることを明らかにしました。現役の学生のあいだでも、休学したり退学したりする学生が増えると見ています。
キルティ・セリー教授
「学生だけでなく、家族が仕事を失っており、大学よりも、どうやって食べていくか、ということの方が切実な問題になっている家庭が多い」

アメリカの大学の20%が閉校の危機に

こうした結果、閉校に追い込まれた大学もあります。

中西部イリノイ州の伝統校、マクマリー・カレッジは、経営悪化のため5月、174年の歴史に幕を下ろしました。

また、医療の研究に定評があり、新型コロナウイルスの世界の感染者数についてとりまとめを行っていることでも有名なジョンズ・ホプキンス大学も、今会計年度で1億ドル、100億円以上の純損失を見込んでいます。

統計データからアメリカ国内の大学の経営状況について分析している、ペンシルベニア大学のゼムスキー教授は、アメリカ国内の20%の大学が閉校の危機にあると指摘しています。

大学はあの手この手で、学生を確保しようと必死です。奨学金の増額やオンラインによるキャンパスツアーを充実させて、生徒にアピール。留学生に対しても、入学の時期をずらすなど選択の幅を広げ、指導もオンラインで行う方式を取り入れるなど、柔軟な対応をとっています。何とか生徒をつなぎとめ、経営の改善をはかろうとしているのです。

安全対策にも腐心する大学

大学の経営立て直しに不可欠なのは、授業の本格的な再開です。そのために多くの大学は、安全対策に力を入れています。

感染者の追跡や抗体検査を徹底するなどして、学生の不安解消に努めていて、例えば、名門・ブラウン大学は、キャンパスでのマスク着用を義務づけ、大人数の授業は当面、オンラインで行うことを検討しています。

カリフォルニア州立大学は、秋以降も対面授業ではなく、オンライン授業を続けるとすでに発表しています。

大学受験情報を提供しているアメリカの大手企業「プリンストン・レビュー」で編集長を務めるロバート・フラネックさんは、新型コロナウイルスは、大学の授業のあり方そのものを大きく変えると見ています。
ロバート・フラネックさん
「今後は多くの大学が対面式の授業とオンライン授業を併用する『ハイブリッド方式(複合方式)』をとることになるだろう。もはや、大学が新型コロナウイルスが広がる前の時代に戻ることはない」
若者の教育機会が奪われかねない事態となっているアメリカ。この秋の大統領選挙でも、この問題は重要な争点になると見られ、将来の国を担う若者のために、いかに教育環境を整えていくのか、いま、社会全体が問われています。
ロサンゼルス支局長
及川順
国際部 記者
岡野杏有子
国際部 記者
藤井美沙紀
国際部 記者
濱本こずえ