南アフリカ コロナ制限大幅緩和も冬到来でこれからピーク予測

南アフリカ コロナ制限大幅緩和も冬到来でこれからピーク予測
南アフリカでは、新型コロナウイルス対策として続けている外出などの制限が1日から大幅に緩和され、経済活動が本格的に再開されました。ただ、現地は冬になり、これから感染拡大のピークが来ると予測されていて、政府は国民に感染防止策を徹底するよう呼びかけています。
南アフリカでは新型コロナウイルスの感染拡大を抑えようと、3月下旬から国境を閉鎖し、外出制限を続けていますが、こうした措置によって失業者が急増し、国民の半数近くを占める貧困層の生活は困窮して、一部で治安も悪化しています。

感染者は3万2000人を超え、増え続けていますが、政府は1日から外出などの制限を大幅に緩和し、ほぼすべての製造業や鉱業、それに商店などが営業を再開しました。

1日朝には、多くの人が仕事場に向かい、乗り合いバスが混雑するなど以前のような出勤風景が戻っていました。

また、犯罪を抑止するためなどとして禁止されていた酒の販売も認められ、ヨハネスブルク近郊の販売店では開店と同時に歓声があがり、人々はお目当てのビールやワインを買い込んでいました。

早速、購入した男性は「2か月以上ぶりに、ようやく酒が飲める」と喜んでいました。

一方で、市民の間からは「酒を飲んだ人が暴れたり、交通事故を起こしたりすることが心配だ」という声も出ていました。

南半球にある南アフリカではいま冬を迎えていて、来月から9月に感染拡大のピークが来ると予測されています。

政府は引き続き、仕事や葬儀以外の理由で人が集まることや飲食店内での食事を禁止したうえで、国民に感染防止策の徹底を呼びかけています。

警戒強まるも貧富の格差が大きく厳しい冬に

南半球にある南アフリカでは先週、寒波が訪れ、最大都市ヨハネスブルクでも朝の最低気温が1度まで下がったほか、西部では雪が降るなど、冬が到来しています。

ヨハネスブルクにある家電の販売店では電気ヒーターを買い求める人がひっきりなしに訪れています。

南アフリカは、1年で6月と7月ごろが最も寒く、販売員は「これからもっと売れる」と意気込んでいました。

南アフリカでは、これまでに3万2000人余りが新型コロナウイルスに感染し、683人が亡くなりました。

気温が下がることがウイルスにどのような影響を与えるかは明らかになっていませんが、冬の到来によって感染の拡大や医療体制のひっ迫を招きやすい環境が生まれると指摘されています。

このうち、市内の薬局ではインフルエンザにかかり解熱剤やせき止めなどの薬を買いに来る人が増えているほか、診療所でインフルエンザの予防接種を受ける人が例年に比べて急増し、すでに在庫が切れたということです。

WHO=世界保健機関では、インフルエンザの流行によって、検査や治療を受ける人が増え、医療機関の負担が増えると懸念しています。

また、寒さが厳しくなる中で、密集、密接、密閉のいわゆる「3密」の環境で過ごす時間が増えています。

南アフリカは、世界で最も貧富の格差が大きく、国民の半数近くが貧困層で経済的に貧しい黒人の多くが「タウンシップ」と呼ばれる住宅が密集した地区で暮らしています。

ヨハネスブルク近郊のタウンシップで暮らすエステー・ヒラチュワヨさん(47)は7人の子どもを育てるシングルマザーです。

10年前にエイズウイルスに感染し、末の3歳の娘にも感染して親子で治療を続ける中、失業から抜け出せず、収入は児童手当だけが頼りです。気温が下がる朝と晩は、8人家族が狭い家の中に身を寄せています。

ヒラチュワヨさんは「家の中にいても特に明け方は寒い。子どもの誰かがウイルスに感染したら、すぐにほかの人にも感染するのではと不安だ」と話していました。

貧しい人々の間では食料不足も広がっています。外出制限によって、日雇いの仕事を失うなどして収入を断たれる人が続出し、政府によりますと、失業率は今後50%になるおそれもあります。

政府は食材を買い求めることができなくなるなどして、食料不足に直面する人は900万人にまで増えるおそれがあるとしています。

各地のタウンシップでは、NGOや自治体による食料の配給が行われていますが、栄養不足によって免疫力が低下する人も増えると懸念されていて、貧困層にとって、特に厳しい冬になっています。

医療体制への負担増を懸念 WHO南アフリカ事務所

WHO=世界保健機関の南アフリカ事務所のオーウェン・カルワ所長はNHKのインタビューで、南アフリカに冬が到来したことが新型コロナウイルス対策に与える影響について「インフルエンザの流行にも対応するため、医療機関への負担が増す。また似たような症状のため、検査の対象になる人も増えることになる」と述べ、医療体制への負担が増すことに懸念を示しました。

また、気温が下がり、貧困層が暮らす地区では、窓を閉めきった狭い部屋に大勢が密集する時間が増えていることについて「感染が広がりやすくなる」と指摘しました。

そのうえで「感染が広がるのは、これからだということを理解するのが重要だ。数か月後の拡大に備え、対策を強化しなければならない」と述べました。

一方、南アフリカでは、感染者数が増え続ける中で、今月1日から外出制限などの措置が大幅に緩和され、経済活動の再開が一層進むことになっています。

これについてカルワ所長は「外出制限は経済に打撃を与えるため、ある段階でウイルスから命を守ることと、人々の暮らしを守ることの間に、バランスをみつけなければならない」と述べ、失業の深刻化や食料不足が広がっている状況を踏まえ、緩和の判断に理解を示しました。

アフリカの現状は

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐって、アフリカでは感染者が14万人を超えました。

世界のほかの地域よりも遅れて感染拡大の波が広がっていて、衛生環境が悪いスラムで密集して暮らしていたり、医療体制が不十分だったりする地域も多く、感染者の増加が続いています。

AU=アフリカ連合の疾病対策センターのまとめによりますと、アフリカの国々の新型コロナウイルスの感染者は1日の時点で合わせて14万7099人で、死者は4200人を超えています。

感染者が最も多いのが、南アフリカで3万2683人、続いて、エジプトで2万4985人などとなっていて、すべての国で感染者が確認されています。

アフリカでは2月中旬にエジプトで初めての感染者が確認されると、3月には感染拡大を抑えるため、多くの国で、厳しい外出制限や航空便の停止などの対策が講じられました。

当初、感染者は急増せず、アフリカ連合のまとめでは、感染者が1万人を超えたのは、初めての感染が確認されてから1か月以上たったあとの4月7日でした。

しかし、その後、先月7日には5万人と1か月で5倍に増え、さらに2週間後の22日には10万人を超えました。

感染が確認された人のうち死亡した人は2.9%と、世界全体の割合と比べると半分以下になっていて、東部のウガンダなど、死者が出ていない国もあります。

アフリカの国々では、15歳未満の子どもが人口の40%を占めるなど、世界のほかの地域に比べ人口構成が若いことが死者の少なさの要因となっているという見方もあります。

ただ、南アフリカやガーナなど感染者が増えているにもかかわらず、貧困層の経済的な困窮から外出制限の緩和や経済活動の再開に踏み切る国も出ています。

最近では、貧しい人たちが劣悪な衛生環境で密集して暮らす地域や、医師や看護師などが少ない農村部でも感染が広がり始めていて、感染者の急増や医療崩壊の危機が懸念されています。

感染把握は困難

感染の広がりの実態を把握できているのかという疑問の声は、アフリカでも上がっています。

東アフリカのケニアでは、首都ナイロビやその近郊に、貧しい人たちが密集して暮らすスラムが点在していて、合わせておよそ180万人が住んでいると推計されています。

先月から、スラムに住む人たちにマスクなどの衛生用品を配り、感染予防を指導する活動を始めた日本のNGO「ケニアの未来」で事業を統括する橋場美奈さんは、こうした地域では、たとえ症状があっても検査を受けていない人が多いのではないかと懸念を強めています。

ケニアでは感染の疑いがある場合は国が設けた専用の電話番号に連絡し、指定の医療機関への照会を受けて検査を受けることになっています。

しかし、橋場さんたちがナイロビ郊外のスラムで住民に聴き取りをしたところ、住民たちは検査を受けられる病院が遠く、時間や交通費がかかるため、たとえ症状があったとしても検査を受けることが難しい人が多いと話していたということです。

地元メディアによりますと、こうした状況を懸念したナイロビの保健当局が、政府と協力し、先月下旬から一部のスラムの近くに新たに検査場を設け、無料の検査を進めたところ、数十人規模での感染者が相次いで見つかったということです。

橋場さんによりますと、こうした検査場が設けられているのは一部のスラムだけで、事前に予約をする必要があるなど、いまなおスラムに住む人たちが検査を受けやすい環境にはなっていないということです。

この地域で長年ボランティアとして活動しているマロンザさんは「このスラムでは検査が行われていないので実態はわかりませんが、検査が行われれば、感染している人はきっといるでしょう」と話していました。

橋場さんは「スラムに住む人たちの間にこの感染症に対する警戒が十分に行き渡っていないと感じる。政府が一人一人に危機感を持ってもらいつつ、もっと検査体制を広げていくしかない」と話しています。

一方で、感染者数などの情報すら出さなくなった国もあります。東アフリカのタンザニアでは、政府が4月29日に、感染者の累計が480人となったと発表したのを最後に、1か月以上、新たな感染者と死亡者の数を発表していません。

タンザニアのマグフリ大統領は「新型コロナウイルスは神に祈っていれば克服できる」と主張し、経済活動を停止すれば国民が飢えてしまうとして、外出や商業活動の制限などの措置はとっていないということです。

また、国際的な人権団体は、政府の対策を批判したジャーナリストが拘束されるなどの言論弾圧が起きていると非難しています。

アメリカ政府はタンザニアに滞在するアメリカ人に「政府からの情報は少ないが、感染が拡大している可能性がある」と注意を呼びかけています。

また、イギリスBBCの報道では、隣国のケニアやザンビアでは、タンザニアから陸路で入る人の検査を強化したところ、相次いで感染者が見つかり警戒を強めていると伝えています。

WHO 長期化を懸念

WHO=世界保健機関のアフリカ地域事務局は先月7日、新型コロナウイルスの感染の動向について予測を発表し、サハラ砂漠以南の国々を中心に1年間で最大で4400万人が感染し、19万人が死亡する可能性があると警告しています。

アフリカでは、エイズや結核それにエボラ出血熱などの感染症対策の経験を踏まえ、比較的迅速に対策を進めた国が多く、65歳以上の人口が3%余りと若い人が人口の大半を占めているのが特徴です。

WHOの予測では、こうしたことが要因となってアフリカでは、世界のほかの地域に比べて感染拡大のスピードは遅くなっているとしています。

そのうえで、アフリカでは、欧米のように急激に感染が拡大する可能性は低いものの、感染の広がりが数年にわたって長期間じわじわと続くことになると警戒しています。

WHOアフリカ地域事務局のモエティ事務局長は記者会見で「アフリカでは、感染者が集中するホットスポットが生まれ、感染はくすぶり続けるだろう。積極的な対策をとらなければ新型コロナウイルスがこの地域に居座り続けることになる」と述べています。

そして、アフリカの広い範囲で多くの人が入院を必要とし、病院などの医療体制がひっ迫して、必要な治療を受けられない人も数多く出ると警告しています。