コロナの中でも表現をあきらめない 行定勲監督の思いと決意

コロナの中でも表現をあきらめない 行定勲監督の思いと決意
「GO」「世界の中心で、愛をさけぶ」「リバーズ・エッジ」など、数々のヒット作品を発表してきた映画監督の行定勲さんが、緊急事態宣言が出されたあと、リモートで撮影、制作した映像作品を立て続けにインターネット上で発表した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、映画館の休館や新作の公開延期など映画界が苦境に立たされている中、行定監督は表現を続けるために何を考え、コロナ後にはどんな作品を目指しているのか。
(科学文化部 記者 岩田宗太郎)

「自粛」を応援できるような作品を

4月24日に突如インターネット上で公開された、「きょうのできごと a day in the home」。自粛生活を続ける中、リモートで飲み会をする若者たちの今を、行定監督がリアルに描き出した。

柄本佑さん、高良健吾さん、有村架純さんなど、第一線で活躍する俳優たちが出演していることもあってすぐに話題となり、再生回数は公開からおよそ1か月で25万回を超えている。

行定監督は、新型コロナウイルスの感染拡大により、4月と6月に予定していた新作映画の公開が延期に。また、出身地の熊本で毎年開催され、ディレクターとして深く関わってきた「くまもと復興映画祭」も延期となった。

自身も業界全体も苦境に立たされる中、映画監督としてできることを模索していたと言う。
行定監督
「私自身の映画の新作の公開が延期になったり、私がディレクターを務めている『くまもと復興映画祭』がこれも延期になったりして、やっぱりちょっと落ち込んでいたと思うんですよね。そのままでいるのは不健全だなというふうに思って、いま映画監督としてできることは何かというふうに思って、企画を立ち上げました。外出自粛を頑張っている人たちを楽しませるような、応援できるようなものができないかなと思っていたところ、よく皆さんがインターネットでリモート飲み会をしているということを聞いて、それを舞台にした作品なら、自粛している方たちが共感できるような面白い作品が作れるのではないかと思って制作しました」

「俳優の自主性で作られる面白さ」

行定監督は、5月17日には2作目となるリモート制作の作品「いまだったら言える気がする」を公開。中井貴一さん、二階堂ふみさんなどが出演している。ふだんとは違って、メークや照明、小道具選びなども俳優自身が行ったという。
行定監督
「ふだん作っている映画とはやっぱり違って簡易的な方法だったんですけど、少人数で作って、スピード感がすごくあったんですね。企画立案から約2週間で公開できました。本来ならば、映画は撮影、照明、録音、美術と、そういうエキスパートが集まって作られるわけで、それぞれがこだわった形になるのが映画なんですけど、今回はリモートなので俳優自身がそれを全部担っているんですね。俳優の自主性で作られるというところも面白くて」

「映画を忘れてほしくない」

感染拡大の影響で、映画館の休館が相次ぎ、撮影や製作、新作の公開も軒並み延期。映画界は今、危機的な状況に置かれている。

日本映画製作者連盟によると、国内で上映された映画の4月の興行収入は、およそ6億8800万円。去年の同じ月と比べると96.3%減少した。

行定監督の2つの作品は、いずれも話題のなかに「映画」が登場。「映画を忘れてほしくない」というメッセージが込められている。
行定監督
「(作品は)不完全ではあるんだけども、映画をやってきたわれわれの底力を届けることで、皆さんに映画を忘れないでほしいという気持ちを感じていただければいいなと思って制作しました。世の中の方たちの多くが困窮しているのと同じように、映画界もまったく起動できない状態、かなり疲弊していると思うんですね。まずはじめに自粛を余儀なくされたのが映画館であって、特にミニシアターはかなり大変なことになっています。次におそらく配給、そしてわれわれの現場。フリーランスのスタッフが多いので、この数か月まったく収入がないと。生活が困窮している状態になっていて、やがてたぶん資金が集まらないとか、そういう影響が出てくると、映画自体作ることがものすごく慎重になってくるんですね。このまま続くと、スタッフは職を失って映画文化が淘汰されてしまうんじゃないかという危機感すら、すごく感じています」

演劇界でもリモート制作

リモートで映像作品を制作してネットで発表する動きは、演劇界でも。劇団を主宰する劇作家で、俳優としても活躍する根本宗子さんは、劇場での公演ができない中、「演劇に近いこと」で、自粛生活を続ける人たちを楽しませることができないかと思い、作品を発表。動画サイトで有料公開している。
「超、リモートねもしゅー『あの子と旅行行きたくない。』」というこの作品、根本さんを含む4人が、社員旅行の行き先を巡るやり取りを演じている。撮影にも劇作家ならではのこだわりが。少しでも演劇の臨場感を感じてもらいたいと、途中で演技を止めることなくワンカットで収録した。
根本宗子さん
「一発録りというか、ワンカットで撮影をしているんですけども、演劇は本来開演したら終演まで何があっても止まらない。全員がワンカットで挑戦する、失敗したらやり直しという負荷がかかった状況で、演劇を見てるときの臨場感やワクワク感を感じてくださって、早く生で演劇を見たいなと思っていただくきっかけになったらいいなと思って、チャレンジしてみました」
ネットでの作品の配信は、意外な効果も。地方に住んでいる人など、演劇を気軽に見に行くことができない人たちにも作品を届けることができ、劇場が再開したあとの活動にもつなげていきたいと話す。
根本宗子さん
「今後もこのコンテンツは残していってもいいのかなと思っています。私自身、なかなか自分の劇団の公演を地方に持って行くということが難しくて。地方にいて、見られてすごいうれしかったという声をたくさんいただいたので、ふだん見られない方にも届いたのかなと感じています」

文化の「ともし火」を絶やさない

映画界も演劇界も、新型コロナウイルスの影響で制約を受ける中、新たな表現への模索が始まっている。行定監督は、映画の撮影についても、今後は「3密」を避けるなどの対策が必要になってくると指摘。その一例として、人がいない場所での撮影や、家族や恋人が直接会うことができない状況を題材にすることなどを挙げている。
行定監督
「これから、きっとコロナの前に戻るというふうに考えたいところですけども、やっぱりどういう映画の作り方になるかというのは、まだすごく模索していかなければいけない状態かなと思いますね。映画自体が変わってしまうことはないと思うんですけども、今のこの状況に即した映画作りというのは、たぶん必要になってくるかなというふうには思っています」
最後に、今後どのようにして表現を続けていくか、その決意を聞いた。
行定監督
「映画というのはやっぱりこういうすごく大変なときにこそ、すごく役立つ。文化というのは、すごくみんなの支えになっていくものだというふうに思います。この文化の『ともし火』みたいなものを絶やさないようにして踏ん張っていく。やはり映画は映画館で見て、そこで映画体験というものをしてもらいたいという思いで僕らは作っているので、またかつての映画がみなさんの心に届くように、製作していきたいなというふうに思っています」
科学文化部 記者
岩田宗太郎