新型コロナで増える地方移住希望者 オンラインで相談会も

新型コロナで増える地方移住希望者 オンラインで相談会も
都市部から地方に移住しようという人を対象に自治体の担当者などがオンラインで相談に応じる「全国移住フェア」が開かれ、新型コロナウイルスの影響で地方移住を検討する人たちも参加しました。
地方移住を希望する人を支援する団体「LOCONECT」によりますと、先月以降、移住の相談がそれ以前より1割ほど増えていて、多くが新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに検討を始めたりした人だということです。

これを受け、団体は移住を検討する人がチャットやビデオ通話で自治体などに相談できる「全国移住フェア」を開催し、38の道府県から138の自治体や民間団体が参加しました。

31日は170人余りの相談者が移住先の環境などについて質問し、高知県への移住を検討している大阪在住の31歳の会社員の男性は、28歳の妻と県の担当者に相談しました。

担当者は「今より家族との時間は増えると思う」などと答え、求人や住宅の情報も紹介して高知での生活のイメージについて話し合いました。

男性の妻は「コロナウイルスの影響で家族の時間が増えるという働き方もあると気づかされた。夫婦でどういう場所で暮らすか真剣に検討したい」と話していました。

主催者の泉谷勝敏さんは「もともと移住を考えている人がコロナウイルスの影響で背中を押されたのだと思う。多くの人がワークライフバランスを見つめ直す機会になったと思う」と話していました。

IT企業の男性 テレワークで業務可能と移住検討

IT企業で営業を担当している男性は、テレワークでも業務が可能だとして、今の仕事を続けながらふるさとの仙台市に移住しようと具体的に検討を始めました。

都内のIT企業で営業を担当している27歳の細川翔貴さんは緊急事態宣言が出された先月から会社の指示で在宅で仕事を始め、これまで直接話していた取引先の担当者とはメールやチャットを使ったやりとりが中心となりました。

当初は不安もあったということですが相手の要望を細かく聞いて毎日100件以上のメールやチャットを送ったうえで、必要に応じて図面を用いた資料を添付するなど丁寧なコミュニケーションを心がけてきたことで、対面のときとほとんど業績が変わらなかったということです。

細川さんはここ数年で親族や友人が相次いで亡くなったこともあり、もともとふるさとの仙台市に帰って暮らすことも考えていて今回、営業の仕事を在宅で続けることができる見通しがついたことで地元への移住について具体的な検討を始めました。

細川さんは「営業は相手のもとに通い、ひざをつき合わせて関係を作るのが基本だと考えていましたが、リモートでも丁寧にコミュニケーションを図れば何ら問題ないと実感したことは新しい気づきでした」と話していました。

今月28日にオンラインでの打ち合わせの際に上司の男性に仙台市への移住を考えていると相談をしたところ上司の男性は「営業の仕事もリモートでできることはわかったし、移住もありかもしれない。逆に全国のお客さんに対して営業をすることができるかもしれない」と前向きに受け止めている様子でした。

一方で細川さんは「将来は人材育成にも携わりたいがそれがリモートで可能か」などの懸念も打ち明けていました。

細川さんは「新型コロナウイルスをきっかけに地元の仲間や家族と離れていることが、いかにつらいかということを感じた。テレワークができるとわかったことで移住を本気で考えるようになった。周りに迷惑をかけずに移住を実現させるため上司と調整を進めたい」と話していました。

企業側 さまざまな働き方を選べるように変化

テレワークでの働き方をより広げ、地方移住も含めて、社員がさまざまな働き方を選べるように模索する企業も現れ始めています。

仙台市への移住を希望する細川さんが勤めているIT企業、「ランサーズ」では緊急事態宣言が出された先月からおよそ200人の社員すべてを対象にテレワークに切りかえました。

さらに自宅で仕事をする環境を整えるための手当やベビーシッターを頼む手当を支給したり、オフィスのいすやモニターを持ち帰ることを許可したりするなど、テレワークを推進するためにおよそ20の制度を新たに設けたということです。

会社では緊急事態宣言が解除されたあとも当面はテレワークを続ける見込みで、オフィスを縮小したり、分散しているオフィスを集約したりすることも検討しているということです。

この企業で人事の担当をしている宮沢美絵執行役員は「早急に環境を整えなければならないという危機感があり、制度の改革に着手した。社員によってはテレワークで生産性が上がったという人もいて、会社としても新しい発見になった」と話していました。

そのうえで、細川さんのように地方移住を希望する社員について「多くの人が自分の生き方を見直している中、それぞれの事情に合わせた働き方を提示していきたい。出社する人はする、地方に住む人は住むという働き方があってもいいと思うし、それぞれに優劣がないように制度を整えたい」と話していました。

専門家「社会の潮流になって一気に変わるのは難しい」

新型コロナウイルスの影響で地方移住を考える人が出ていることについて専門家は「新しい動きが起こっている」としたうえで、社会構造の変化がなければ大きな潮流となる可能性は低いと慎重な見方を示しています。

人口動態や働き方の変遷に詳しい明治大学の川口太郎教授は新型コロナウイルスの影響で地方移住を考える人が出ていることについて「自分のライフスタイルを重視して地方に移住するという考えは以前からあった。サラリーマンであっても仕事をする場所を問わないという感触を得ることができたことが今回の特徴で新しい動きが起こっていると言える」と述べました。

そして「きっちり成果を出すのであれば住む場所は問わないという傾向は企業側でも加速するのではないか。優秀な人材をつなぎ止めるためにはテレワークで働きやすい仕組みを整えていくことも重要だ」と指摘しました。

一方で、「すべての人がテレワークで働けるわけではないし、これが社会の潮流になって一気に変わるというのはなかなか難しいのではないか。企業側もこれまでは人事や労務の評価を労働時間で管理してきたが、テレワークが定着するためには成果で評価するやり方に変えていかなくてはならず、法制度の整備も必要だ。なかなか簡単にはいかない」と慎重な見方を示しました。