コロナで根づくか ヨーロッパのマスク習慣

コロナで根づくか ヨーロッパのマスク習慣
ヨーロッパでは、新型コロナウイルスの感染の広がりによって、街の風景が大きく変わりました。マスク姿の人たちが一気に増えたのです。

数か月前までは、マスクを着用していると、大げさだと笑われたり、「ウイルスに感染している」と勘違いされてじろじろ見られたり、さらには、心ないことばを投げつけられることさえありました。

しかし、ウイルスに感染して亡くなる人が、ヨーロッパだけでも15万人を超える中、公共の場での着用を義務化する動きも広がっています。

マスクをつけるなんて考えもしなかった人たちに、どうすれば着用を新たな習慣として根づかせることができるのか。マスク販売の最前線を取材しました。(ウィーン支局長 禰津博人 ベルリン支局長 山口芳)

ドイツでもマスク着用が義務づけ

ウイルス対策の段階的な緩和が進むドイツ。ベルリンの中心部では買い物を楽しむ人の姿が見られるようになっています。

人々が街に戻ることに合わせて導入されたのが、マスクです。

全国でバスや地下鉄などの公共交通機関を利用する時や、店舗の中で買い物をする際などに、マスクの着用が義務づけられるようになり、ネイルサロンやクリーニング店もマスクを売るようになりました。

駅ナカに登場した自販機

さらに、ベルリン中心部の地下鉄の駅では、マスクを取り扱う自動販売機まで登場しています。

素材は綿100%。繰り返し洗って使えるタイプです。グレーやピンクなど、色とりどりのマスクが1枚、4.5ユーロ(約530円)で売られています。数週間前に見かけたときは5.5ユーロ(約650円)だったので、買い求めやすくなっています。
購入方法は簡単です。お金をいれて、好みのマスクの番号を押すだけ。私も1つ購入してみたところ、折り畳まれて、1つずつ包装されたマスクが出てきました。

駅で販売されているのは、マスクの着用が義務づけられている地下鉄に乗車する人が、ターゲットになっているからです。取材で訪れた時にも、購入している人の姿が見られました。
「マスクを忘れてしまったら、ここで買うことができる。いい考えだと思う」
「列車でマスクをしていない人も見かけるが、自動販売機があれば、『買うことができなかった』とは言えなくなる」
マスクの自動販売機は別の業者も開発を急いでいて、今後、ドイツ各地に設置されていくことになるということでした。

デザインは640種類

マスクの普及がファッションによって後押しされている国があります。

ヨーロッパ中部のオーストリアは、実はテロ対策から「覆面禁止法」という法律で、もともとマスクの着用が制限されてきました。

しかし、4月から大きく方針転換。店舗や公共交通機関での着用が義務化されました。

そして、今では各地でマスク専門店が出店されるなど、様変わりしています。
4月にオープンした店には、スポーツタイプ、アニメ柄、国旗柄など個性的なものが並びます。デザインは640種類にのぼります。

もともと携帯電話の修理店でしたが、一部をマスクを販売する店に切り替えました。着用の習慣がないだけに、人々の好みにあわせようと、多種多様なマスクを用意したといいます。

こうしたさまざまなデザインのマスクは、若者を中心に受け入れられています。インスタグラムでマスクのファッションをチェックしているとか、仕事とプライベートで使い分けて気分転換を図るという声も聞かれました。
マスク姿の女性
「5種類マスクを持っていて、きょうの色は、ドレスとバッグに合わせました」

セレブ愛用のブランドも

ファッションブランドもマスク製作に乗り出しています。

その1つが1903年にウィーンで開業した老舗で、マドンナさん、ブラッド・ピットさんなどを顧客にもつことで知られる帽子ブランドです。
デザイナーのクラウス・ミュールバウワーさんは、町なかで市民のマスク姿が目立つようになったことから、マスクのファッションとしての可能性を感じ、試しに作ったといいます。帽子デザイナーとしては「顔のおしゃれ」が気になったとのこと。
上質の綿を使い、1枚1枚、職人による手作りのマスクは、シンプルな色を採用し、顔の魅力を引き出すよう心がけました。

値段は25ユーロ(約3000円)ですが、試しに60枚を店頭に並べたところ、あっという間に売り切れました。

あまりの需要の多さに、3週間ほどは帽子製作を取りやめ、マスク作りに集中していたといいます。
ミュールバウワーさん
「色は6種類用意し、帽子や服、肌や目の色にも合わせられるようにしました。今後、マスクは欠かせない日用品になるかもしれないので、日常生活にとけ込めるものにしたいと思ったのです」

服飾店の重要アイテムに

さらにファッションとしても広がったマスクが、重要なアイテムになった服飾店があります。
ウィーン市内で服飾店を経営し、デザイナーでもあるヘルベルト・リーガーさん。外出制限の間は服が売れない一方で、賃料など店の維持費の負担が大きくのしかかり、厳しい経営状況に追い込まれていました。
このため、服のファッションと組み合わせて数々のマスクを作ったところ、新たな店の「看板」となり、これまでに650枚を販売しました。マスクがこれからも売れ筋の商品であり続けることに期待をかけています。
リーガーさん
「外出制限の2か月間、マスクが私を救ってくれました。われわれの国でマスクの風習がいつまで続くかはわかりませんが、ウイルスの危機が続くかぎりは、この文化が残ればいいと思っています」

マスク文化 ヨーロッパ流で根づくか

ヨーロッパの町なかを行き交う人が着用するマスクは、不織布の使い捨てタイプが多い日本と違って、布製が目立ちます。

各国の政府は、くしゃみやせきの飛散をある程度防ぐため、口と鼻を覆うことを重視していて、マスクがなければスカーフやタオルを使ってもかまわないとされているのです。

ドイツやオーストリアでは環境保護の意識が高く、使い捨てマスクに抵抗感をもつ人が少なくないことも背景にありそうです。

ウイルスの影響はまだまだ続くという見方が強まる中、マスクという「新たな生活様式」は、アジアとは異なるヨーロッパ流のやり方で、少しずつ根付いていくのかもしれません。
ウィーン支局長
禰津博人
平成14年入局
テヘラン支局 ワシントン支局などを経て現職
中東欧・国連・核問題を担当
ベルリン支局長
山口芳
平成20年入局
函館局、札幌局、国際部を経てドイツの政治・社会を取材