あなたのデータ 使ってもいいですか?

あなたのデータ 使ってもいいですか?
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ対策に、スマートフォンの位置情報など、私たちのデータが活用されています。海外ではこうしたデータが感染者の行動管理に使われる例もありますが、国内では、プライバシーを保護した形で利用が進んでいます。どのようにデータが使われ、人々はどう受け止めているのか。現場取材とアンケートで探りました。(経済部記者 茂木里美 川瀬直子)

検索ワードから見えること

政府がIT大手や携帯電話会社にデータの提供を呼びかけたのは3月末。これに応じた企業の1つが、ヤフーです。提供しているのは、利用者の検索履歴やネット通販の購買データ、そして、アプリを利用する人の位置情報などの分析結果です。いずれもプライバシーは保護した形にしています。

例えば検索履歴では、まず厚生労働省と協議して感染者が検索すると思われることばの候補をリストアップ。そしてクラスター(感染者の集団)が発生したエリアにいた人の検索履歴と照合し、実際に感染者が検索する可能性が高いことばをリスト化しました。
このリストをもとに、全国を500平方メートルに区切ったエリアごとに検索ワードの増減を日々調査し、結果を厚生労働省に提供しています。

これによって、クラスターの発生が疑われるエリアをいち早く推定することや、そうした地域に医師を重点的に配置するといった活用が検討されているのです。

位置情報で自粛呼びかけも

ヤフーのデータは、自治体も活用しています。このうち滋賀県では、アプリの利用者のスマートフォンの位置情報を使って県内を125平方メートルごとに区切ったエリアにいる人の量を分析。
大型連休前には、県中心部の大型ショッピングモール周辺で去年よりも人出が増えていることがわかりました。

中でも、休校の影響からか、10代以下が増加していたのです。そこで県は、地点を絞って若い世代への外出自粛の呼びかけを強化しました。
萩原課長
「外出自粛の緩和に向けた検討や新しい生活様式を取り入れるにあたって、有用なデータや情報を県民に発信していくということができると思います」

プライバシーの保護は?

データの提供にあたってヤフーが重視したのは、プライバシー保護との両立でした。

今回は、データ提供の前に改めて利用者に協力を依頼し、同意を得た人のデータのみを活用。国との間で協定も締結し、「データの利用目的を明確に限ること」や「ヤフー側の判断で提供を中止できること」などを盛り込みました。
東京大学 宍戸教授
「企業にとってデータは何でもどうぞと開示できるようなものではなく、それをどう守るかが大きな責任になります。今回のようなデータ提供では利用者の同意が必要で、提供の目的や内容をしっかり公表することが第1条件だと考えています」

8000万人超への調査

違った形で政府のデータ提供の呼びかけに応じたのがLINEです。厚生労働省に協力し、8000万人を超えるすべての利用者に一斉調査を行い、分析結果を提供したのです。

突然スマホに表示された調査依頼に驚いた方も多いかもしれません。体調やふだんの感染対策、不安に思っていることなど、これまで4回にわたって継続的に調査。多い時で2400万人余りから回答を得ました。

膨大なデータの分析によって、感染者数の把握や、より効果的な呼びかけなどに生かそうとしています。

一方で、LINEの既存のサービスを通じて保有しているデータの提供は見送りました。データがどう活用され、感染防止対策にどう有効なのか、十分に判断できないため、リスクがあると判断したのです。
江口執行役員
「データを匿名化して提供することもあり得るかもしれませんが、公衆衛生のためとはいえ、十分な議論がないままではできないと考えました。一方、今回の新型コロナウイルス対策をきっかけに、ビッグデータ分析の活用を多くの人が知るようになれば、データの有効性や個人へのリスクのなさの実証につながり、人々の反応が変わってくるだろうと思います。今後も利用目的を事前に定めて必要なデータを洗い出し集めて検証をするという地道な取り組みを繰り返すことで、データ活用を許容する世論もできあがるような気がします。データを持つ企業は、より誠実な説明をし、信頼を得る努力が必要になります」

データ利用 意識は?

それでは、データの活用を人々はどう受け止めているのでしょうか。NHKとLINEは、5月上旬、LINEのアプリを使って全国の15歳から59歳までの男女2000人にアンケートしました。
感染拡大防止のためならデータ活用に問題はないという答えがほぼ半数。個人データを使った行動の管理や制約に協力できるという人も、合わせて60%余りになりました。
専門家は「感染拡大という特異な状況が大きく影響している」と分析します。
東京大学 関谷准教授
「一般的に個人情報の活用についてアンケートすると『不安を感じる』という答えが高く出ますが、今回は『感染拡大を防ぐため』と目的が限定されているので、多くの人が許容する形になったと考えられます。日本では今、感染状況などに関する情報が提供されていないことへの不安感が非常に強いので、正確な情報の提供のためには、自分たちの個人データが使われてもかまわないという意識が広がっているのではないでしょうか」

年代が高いほど許容

また、「データの活用は問題ない」と答えた人を年代別に見てみると、男女とも年齢が上がるほど「問題ない」と答える人が増える傾向になりました。
関谷准教授
「個人情報の保護やプライバシーの問題が強く言われるようになったのは、この10~20年で最近のことです。かつては電話帳に個人の住所や名前、電話番号が載っているのが普通だったように、40代、50代はそこまで個人情報について厳しく言われない生活を経験しており、若い世代との差が出たのかもしれません」

政府や企業に求められる透明性

データの活用は、今や企業にとって欠かせないビジネス戦略になっています。

その一方で今回は、「政府へのデータ提供」という新しい事態に直面しました。感染症対策のための適正なデータ活用への理解は、広がっているように感じます。

しかし、利用者が過去に何気なく同意したデータであっても、時がたてば気持ちは変わるかもしれません。企業には、きちんと利用者に同意を得たり、プライバシーを保護したりすることが求められますし、政府や自治体には、目的をしっかり定めたうえで、必要なデータを絞り込んで活用し、効果の検証も含めて広く公開することが欠かせません。

誰にとっても納得のいく形で感染拡大防止に役立っていくことを期待したいと思います。
経済部記者
茂木 里美
フリーペーパーの編集者を経てNHKに入局。
さいたま局、盛岡局を経て平成29年から経済部
経済部記者
川瀬 直子
平成23年入局
新潟局 札幌局を経て
現在 情報通信業界を担当