さよなら「雑魚寝」 “避難所クラスター”防ぐには

さよなら「雑魚寝」 “避難所クラスター”防ぐには
体育館に多くの人が身を寄せ、床に「雑魚寝」をする。そんな従来の避難所の在り方が、大きな課題になっています。“避難所クラスター”につながるかもしれないからです。しかし、その課題は、実は、ずっと前から指摘されてきたことでした。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに見えてきた“日本の避難所の問題点”とは?
(社会部記者 清木まりあ・森野周・大型企画開発センターディレクター 井上大志)

日本の避難所は90年前から変わっていない

今の避難所の問題点を考えるのに重要な、2つの写真があります。
左の写真は1930年の北伊豆地震、右は2016年の熊本地震の避難所の様子です。災害の直後、避難した人は床に毛布を敷いて、「雑魚寝」の状態。仕切りはなく、プライバシーは確保されていません。まさに「3密」です。

この90年で、日本の避難所の在り方は、おおむね変わっていないことがわかります。

「雑魚寝」で“避難所クラスター”が

こうした「雑魚寝」の避難所は、何が問題になるのでしょうか。取材を進めると、過去の災害で、感染症の集団感染“クラスター”が生まれていたことがわかりました。
その1つが、宮城県名取市の館腰小学校。東日本大震災のあと、体育館に200人が避難し、20人がインフルエンザに感染しました。その時の避難所の映像を見てみると、人が密集し、床に雑魚寝で過ごしています。

この避難所で感染制御を担当した東北医科薬科大学病院の遠藤史郎医師に話を聞くことができました。遠藤医師は、避難所の「3密」の環境に加え、「雑魚寝」の状態が感染リスクを高めたと振り返ります。
遠藤医師
「なんの仕切りもなく雑魚寝の状況だと、くしゃみや咳が出た場合に、“飛まつ”が届きやすいので、雑魚寝自体がリスクになったと思います。このときは、インフルエンザの集団発生で、診断方法や治療薬も確立していたため対策ができましたが、これが新型コロナウイルスだと、確実な診断方法や治療方法もないですし、なかなか難しい状況になりますね」

“飛まつ”が床から舞い上がると…

「雑魚寝だと“飛まつ”が届きやすい」って、どういうこと?

専門家の監修をもとにした実験で、見てみることにしました。避難所に見立てた室内に風が入らない空間で、くしゃみなどによる飛まつが、どのように拡散するかの実験です。特殊な装置で人のくしゃみと同じ量の飛まつを発生させ、高感度カメラで撮影します。
実験で見えたことは、主に次の3つでした。
・くしゃみの飛まつは、約1.5メートル先の床に集中して落下。

・飛まつは、ほこりに付着。人が歩くと、ほこりごと大きく舞い上がる

・くしゃみやせきで空気が動いても、ほこりは約20センチの高さまで舞い上がる。

専門家「“雑魚寝”で高まる感染リスク」

飛まつが舞い上がることによって、避難所での感染リスクは上がるのでしょうか。避難所の感染対策を研究する高知県立大学の神原咲子教授に聞きました。
神原教授は、不特定多数の人が出入りする避難所で“雑魚寝”すると、リスクが高くなると指摘します。舞い上がったほこりを吸い込んだり、床に手をついたりすることで、飛まつに触れる機会が出てくるからです。

対策の切り札は「段ボール」!!

そうは言っても、どうしたらいいの?

神原教授が、飛まつを避けるために有効だと考えているのが「段ボールの活用」です。
まず、できるだけ2メートル以上の間隔をとったうえで、段ボールの間仕切りを設置。プライバシー保護の効果だけでなく、隣の人などからくる飛まつを防ぐことにつながります。
さらに有効なのは、“段ボールベッド”。大きさにもよりますが、床から30センチ以上の高さを確保することができ、床からの飛まつのリスクを減らすことができます。

こうした工夫の積み重ねで、少しでも感染リスクを減らす必要があると言います。
神原教授
「床の付近に長時間ウイルスが残っているという状況では、“雑魚寝”の環境では感染リスクが高まります。できるだけ床からの距離を確保した状態で生活できるようにする必要があります」

“少しの工夫”で新型コロナを防げ!

段ボールを使ったベッドや間仕切りの活用は、自治体でも進んでいます。今月中旬、大阪 八尾市では、市の職員たちが段ボールベッドの組み立て方を学ぶ研修が行われました。
研修講師の専門家が強調したのは「少しでも避難所をよくするための工夫」が大事だということです。

例えば、ベッドと間仕切りを組み合わせてみること。人が殺到して2メートル以上の間隔をとれない場合も、より多くの人の居場所を確保できます。

さらに、間仕切りの高さは、1メートル45センチに。立っている人がせきをしても、ほとんどの飛まつをシャットアウトできるといいます。
避難所の中を保健師などが見回る際にも、ギリギリ中の様子が見える高さです。体調に異変があった場合でもすぐに気づけるよう、工夫しているといいます。

八尾市は今後、地域の防災訓練を通して、住民にも組み立て方を学んでもらうことにしています。自分でもベッドや間仕切りを作る経験をしてみることは、災害時に、みずからの身を守ることにつながるかもしれないと感じました。

“避難所の常識”を変えるしかない

取材を進めると、冒頭で見た「90年変わらない“雑魚寝の避難所”」で、新型コロナウイルスの感染対策をするには、心もとなくなります。ただ、段ボールの使用というような「少しの工夫」でリスクを減らせる可能性も見えてきました。
今の避難所を変えるには、どうすればいいのでしょうか。避難所・避難生活学会の代表で、新潟大学の榛沢和彦特任教授は、まず「避難所は雑魚寝が当たり前」という考えを変えることが大事だと指摘します。
榛沢特任教授
「新型コロナウイルスに対応するには、これまでの避難所の常識を大きく変える必要があります。『多くの人が殺到する避難所で、雑魚寝は当たり前』を続けていては、事態は悪化するばかりです。『脱・雑魚寝の避難所』を実現するために、私たちはもちろん、国や行政も、予算をつけて、いま本気で取り組んでほしい」

今、災害の犠牲者を減らすためにできること

段ボールのみならず、避難所の環境を改善することは、避難生活で体調を崩して命を落とす「災害関連死」を防ぐことにもつながります。災害が起きるたびに、避難所の環境改善の必要性が繰り返し訴えられてきました。

こうした中で発生した新型コロナウイルスの感染拡大は、いやおうなしに「今のままではいけない」ということを、私たちに迫っているように思えます。非常に難しい課題ではありますが、私たちは、悪いことばかりだとは捉えていません。今、避難所の環境を変えること。それが、新型コロナウイルスの対策につながるばかりでなく、将来にわたって、災害による犠牲者を減らすことにつながると考えるからです。
社会部記者
清木まりあ
社会部記者
森野周
大型企画開発センターディレクター
井上大志