長谷部誠が明かした“葛藤” コロナ不安の中でのリーグ再開

長谷部誠が明かした“葛藤” コロナ不安の中でのリーグ再開
サッカー元日本代表の長谷部誠選手がプレーするドイツリーグは、新型コロナウイルスの感染拡大による2か月の中断期間を経て、今月16日に再開しました。試合は無観客で行われ、徹底した感染防止策もとられました。長谷部選手にとっては、葛藤を抱えながらの再開となりました。

無観客の開幕

ヨーロッパの主要リーグの中で最も早く再開したドイツリーグ。
長谷部選手が所属するフランクフルトの試合の中継映像には、これまでとは全く違うスタジアムの様子が映し出されていました。
ベンチではチームのスタッフが間隔をあけて座り、取材陣も距離をとってインタビューを行っていました。
控えに回った長谷部選手はマスクを着用し、スタンドの座席で待機。ほかの選手と離れて試合を見守っていました。
ドイツリーグは、再開にあたって、選手やスタッフ1700人余りのPCR検査を実施しました。試合会場も3つのゾーンに分けて、それぞれに100人の人数制限を設けるなど、徹底した感染防止策をとっていたのです。
長谷部選手は後半途中から試合に出場。歓声がなく、選手の声が響き渡る、一種独特な雰囲気の中で、守備で存在感を示しました。
そして、試合翌日のインタビューで、長谷部選手は、私たちの予想に反して、久しぶりにピッチに立った喜びより、戸惑いのほうが大きかったと語りました。
(長谷部誠選手)
「サッカーをやっていない方々は、いわゆるソーシャルディスタンスを守るようにと言われていました。サッカーだけが前に進むというのは、果たして正しいことなのか。国民に受け入れられるのかという『葛藤』がありました」

再開と感染防止で揺れた心

長谷部選手の葛藤の理由。それは、リーグの再開について、国民の意見が大きく分かれていたことでした。
ドイツの公共放送が行った世論調査で半数以上の56%が反対していたのです。

▽反対56%
▽賛成31%
▽そのほか13%
(ドイツ公共放送 ARD調査 5月15日)

一方、中断期間の長期化で、リーグは危機的な状況に陥っていました。地元の専門誌によると、3分の1以上のクラブが倒産の危機に直面し、雇用も失われようとしていました。
(長谷部誠選手)
「メルケル首相がドイツリーグの再開を認めたことについては、やはりドイツでのサッカーの立ち位置が非常に高いところにあると感じました。ただ、健康と経済の部分で、すごく難しい話だと思いました。いつかは経済を再開しなければいけないし、そのタイミングというのは絶対あると思いますが、人それぞれの捉え方次第になります。自分たちがサッカーを続けられないことで多くの雇用が失われてしまうとか、さまざまなことが僕の頭の中でも巡っていました」

“気持ちをオープンにできない”

再開直前には、2部リーグのチームで感染者が出て、選手の間に不安が広がりました。
再開に否定的な考えを持つ選手が、みずからの気持ちを隠さざるをえない状況も生まれていて、チームのまとまりにも影響が出ていたと言います。
(長谷部誠選手)
「これで始められるの、これではシーズン最後までできないよね、とみんな話していました。情報に振り回されてしまっている部分もあるので、正直、コンディションの調整より、メンタルとか、心とか、頭の中の持って行き方がすごく難しい感じがしました。気持ちをオープンにできない選手がいるというのは、コロナウイルスでの大きな問題と思っています。言えない状況を作ってしまっている環境もあると思います。そこに関しては、本当に誰しもが僕は間違っていないと思いますし、周りを思いやって、その決断を尊重するということ。思いやりを持つということがすごく大事なことなんじゃないかと思います」

スポーツの役割とは?長谷部の決意

新型コロナウイルスの影響はこれからも続くことが予想されます。
簡単には答えが見つからない状況に対して、長谷部選手は、スポーツに果たせる役割はあると、強い決意でその歩みを進めていこうとしています。
(長谷部誠選手)
「本当に頭の中がぐるぐるするぐらい考えるのですが、今回の新型コロナウイルスの問題では、すごくスポーツ、サッカーの無力さというのも感じてしまっているところもあります。だけど、信じたい部分はあります。スポーツで喜んだり、感情を表したりするということを、みんな失ってしまっているので、そこは取り戻していかないといけないと思っています。スポーツの熱気とか感情とか、そういうものは新しい日常でも絶対に必要とされてくるものだと思っています。そこは、いちサッカー選手、スポーツを愛する者として、信じて前に進みたいなと思います」

動き出す日本のスポーツ界へ

緊急事態宣言がすべての都道府県で解除されるなか、日本のスポーツ界も、プロ野球が開幕の日程を決めるなど、日常を取り戻そうとする動きが少しずつ出始めています。
サッカーJリーグも、先行事例となったドイツリーグの取り組みを参考に、再開に向けた最終調整に入りました。
もちろん徹底した感染防止策が不可欠であることは言うまでもありませんが、熱狂がない無観客での開催、世論の後押しが必ずしも十分でない状況での再開は、選手に想像以上の負担を強いるものかもしれません。
長谷部選手がインタビューで語った葛藤。
再開に向けた議論の中で、大切にしてほしい要素です。