会いたいのに会えない~新型コロナ 小児がんの家族は~

会いたいのに会えない~新型コロナ 小児がんの家族は~
「早くパパと会えるようになればいいね」
小児がんの3歳の娘に優しいまなざしを送りながら、母親はそう話しました。病棟で過ごす2人は自宅にいる夫と息子にもう2か月近く会えていません。治療を続けている娘は免疫力が低下していて、感染を防ぐために面会ができないのです。緊急事態宣言は解除されましたが、家族は病気だけでなく新型コロナウイルスとも闘い続けています。
(ネットワーク報道部記者 鮎合真介)

外出・外泊もできない

取材に応じてくれた小田ゆりさん(40)です。小児がんの治療を続ける3歳の娘、ましろちゃんは去年12月、名古屋市にある病院に入院しました。小田さんは自宅のある長崎県を離れて付き添いを続けています。
2人は長崎県に住む夫と1歳の息子とは2か月近く会えていません。小児がんの子どもたちが入院する病棟では新型コロナウイルスの感染を防ぐために3月上旬から原則、付き添いの家族以外との面会ができなくなりました。

そしてことし4月、全国に緊急事態宣言が出されると、この病棟のすべての患者の外出・外泊が禁止となりました。

緊急事態宣言は解除されましたが、面会や外出などができない状態は続いています。
小田さん
「外出・外泊が一切できない状態になり、子どもも私も含め病棟からも出られません。面会も禁止されているので、私たちももちろん帰れない、主人も会いに来られない、来ても会えないという状況が続いています」
いまは夫との毎日の電話、そして1歳の息子が起きているときにかけるテレビ電話が家族をつなぐ唯一の手段となっています。

600キロ以上も離れて

自宅のある長崎県から600キロ以上も離れた病院で治療を受けるのには、理由があります。

小児がんは15歳未満の子どもが発症するがんで、国内では1年間に2000人から2500人が新たに小児がんと診断されています。小児がんは医療の進歩によって現在では7割から8割が治ると言われています。

しかし、大人のがんに比べて患者が少なく、治療経験が豊富な医師が十分にいないことが課題となってきました。
ましろちゃんは「神経芽腫」というがんで、長崎県では十分な治療を受けることができなかったため、名古屋市の病院に入院することになったのです。

この病院は、国が7年前から、医療チームが集中的に治療を行い経験を積むことができるようにと指定している「小児がん拠点病院」の1つです。全国では他に14か所の医療機関が指定されています。
小田さん
「娘が病気とわかったのは去年8月で、はじめは長崎の病院で入院して治療していたんですが、なかなか完治が難しいということで、こちらに転院しました。長崎からとても遠いのですが、治療できる病院が限られる中、この病院が私たちにとって、最後のとりでなんです」

重くのしかかる経済的負担

医療機関の数が限られている小児がん。このため、自宅から遠く離れた病院で治療を受ける子どもや付き添う家族は少なくありません。当然、治療費に加えて、交通費や宿泊費などが経済的に重くのしかかってきます。

小田さんの夫は、新型コロナウイルスの影響が広がるまでは月に1回、航空機を利用して名古屋まで小田さんとましろちゃんに会いに来ていました。
小田さん
「私たちみたいに長崎から家族が来るとなると、飛行機に乗ったりすれば、20万円はすぐにかかってしまいます。夫は娘に1日でも2日でもいいから交通費がかかってでも会いたいと言いますが、家計のことを考えると…」
さらに新型コロナウイルスの感染拡大で医師からは公共交通機関の利用をやめるよう指示されました。小児がんの子どもたちは、免疫力が低下しているため、感染してしまうと重症化するリスクがあるためです。

このため自家用車やタクシー、それにレンタカーなどでの長距離移動を余儀なくされ、さらに負担が増えるケースが出ています。実際、小田さんがましろちゃんとともに夫と息子におよそ2か月前に会った長崎県への帰省の際は、夫が車で片道およそ16時間をかけて長崎県と名古屋市の間を2往復したそうです。
小田さん
「高速道路の料金とガソリン代で12万円くらいと、すごく出費がかかりました。だけど、長く離れ離れになっているので、それくらいの出費をしてでも、ましろを長崎に連れて帰って家族に会わせてあげたい、私も夫と息子に会いたいということで、帰省することにしました」
経済的な負担が大きい中、小田さんが頼ったのは小児がんの子どもや家族を支援するNPOでした。自宅から遠く離れた病院での治療が必要な家族に対して、交通費と宿泊費を助成していると聞いたからです。

ところがいま、新型コロナウイルスの影響で、そのNPOまでもが厳しい状況になっています。

NPOも苦境

12年前から小児がんの子どもや家族の支援に取り組む東京 豊島区にある「NPO法人ゴールドリボン・ネットワーク」です。

新型コロナウイルスの影響で、ことし4月以降、街頭での募金活動やイベントの中止で、寄付金を思うように集めることができなくなったといいます。
このNPOでは、寄付金は収入全体の8割にもおよびます。しかし年間およそ8000万円の寄付金の収入は、ことしは半分近くまで落ち込む見込みです。
このためNPOでは自宅から遠く離れた病院で治療を受けるための交通費や宿泊費を年間50万円まで助成していましたが、ことし4月から20万円までに減額したほか、助成の申請者の所得の条件なども厳しくせざるをえなくなり、小児がんの家族への支援が難しいケースも出ています。

ことし1月から4月までの助成の申請は53件と、去年の同じ時期に比べて、およそ4倍に増えているといいます。

小田さんも、これまでの長崎県と名古屋市の間の交通費の助成を申請しましたが、変更された所得の条件では、今後は申請できなくなったということです。
NPO法人ゴールドリボン・ネットワーク 松井秀文理事長
「本当に心苦しいです。小児がんと闘う子どもたちと家族を支えるためにも皆さんの支援をお願いしたいです」

緊急事態宣言は解除されたが…

政府の緊急事態宣言が25日、全国で解除されたことを受けて、愛知県でも独自に出されていた緊急事態宣言が翌26日、解除されました。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の状態と、すぐに同じになるわけではありません。
小田さん
「夫と息子に会いに行けたらなあと思っているんですが、病院自体はそう簡単にはできないと聞きました。まだまだちょっと先になるのかなと。そうなると、なかなか家族とは会えなくなりますね」
小田さんがいま願うのは、たった1つです。
小田さん
「主人が来てくれると、顔を見るだけで、やっぱりほっとします。娘も主人が来るとうれしいのか食欲が増したりとか、『また頑張ろう、パパと1か月後に会えるまで頑張ろう』という気になるみたいなので、早くコロナが収まって、家族が会えるような状況になってくれるといいなと本当に願っています」