「私もひとり親家庭でした」無料の弁当提供で広がる共感の輪

「私もひとり親家庭でした」無料の弁当提供で広がる共感の輪
「私もひとり親家庭でした。その思いに共感し支援への参加を決めました」こう話すのはサッカー・日本代表でプレーし、自身も母子家庭で育った小林祐希選手です。その取り組みというのはあるイタリア料理店のオーナーが始めたひとり親家庭への支援。SNSなどで共感の輪が広がっています。

母子家庭で育った男性が始めた弁当支援

支援を行っているのは東京・港区でイタリア料理店を経営する笹裕輝さん。

先月中旬から新型コロナウイルスで生活が苦しくなったひとり親家庭を対象に無料で弁当を提供しています。

笹さん自身、母子家庭で育ち、ひとり親家庭の生活の大変さはいたいほど分かると、この取り組みを始めました。

気持ちもつなぐ弁当支援

このサービスを利用している30代のシングルマザーは、小学1年生の息子と2人で暮らし。

女性は飲食店のアルバイトを2つ掛け持ちしていますが、新型コロナウイルスの影響で店が2つとも休業になってしまい、収入がなくなりました。

女性は「収入も全くないので今後どう生活していくか先が真っ暗の状態です。なかなか人とも会えない中で笑顔でお弁当を持ってきてくれるので精神的にも救われています」と話していました。

こうした声や笹さんの思いがSNSなどで広がり、支援先は徐々に増えていきました。

当初、支援先は2家庭のみでしたが、今月25日の時点ではおよそ110家庭にまで増え、対象エリアも港区近郊に加えて杉並区などにも拡大しました。

共感で支援の輪が次々と広がる

取り組みがSNSなどで広がると、活動への協力を申し出てくれる人たちも増えてきました。

弁当の数が増え、笹さんの店のキッチンが手狭になって困っていたら、近くの飲食店がキッチンを無償で貸してくれました。

弁当を配達するスタッフが足りなくなってくると、近くの飲食店に勤める人たちが、配達を手伝ってくれるようになりました。

さらに運営資金の面でも、笹さんのイタリア料理店は現在も営業できておらず、先月は300万円の赤字だったといいます。

活動費を賄うために、クラウドファンディングで支援を呼びかけたところ、350万円近くの寄付が集まりました。

このほかにもSNSやニュースを見たという全国の人たちから食材や寄付金が寄せられました。

その多くは笹さんの思いに共感してくれた人たちです。

“私もひとり親家庭でした”あのサッカー日本代表選手も

笹さんの気持ちは思いもよらぬ人の元にも届いていました。

サッカー・日本代表でプレーする小林祐希選手がこの取り組みを知り、参加を申し出てくれたのです。

その理由を聞くと、小林選手も母子家庭で育ち、生活の大変さはよくわかると打ち明けてくれました。

「ひとり親家庭がごはんやお金の面で大変なのはよくわかっている。この取り組みを知り、すぐに協力したいと思った」。

支援にあたり小林選手はまず、「体にいいものを食べてほしい」と、埼玉県小川町に出向き、3つの農家が無農薬で育てたカブや小松菜など7種類の野菜およそ40キロを購入し、弁当の食材に提供しました。

詳しく聞くと、これらの野菜農家も新型コロナウイルスの影響をもろに受けていて、野菜農家の男性は「飲食店からの注文がほぼゼロになっているので本当に助かります」と話していました。

広がる笑顔、気持ちは届く

そして今月23日、小林選手は1日配達員としてひとり親家庭に弁当を配達してまわりました。

弁当を子どもたちに直接手渡し、写真を撮ったりサインに応じたりしていました。

小学6年生の男の子は「小林選手が自分の家に来てくれるなんて思わなかった。緊張したけどうれしかった」と話していました。

小林選手は「みんな笑顔だったので気持ちが届いたのだと思う。ほかにもたくさん支援を必要としている家庭があると思うのでもっと支援の輪が広がってほしい」と話していました。

「僕たちがやるしかない」今も支援を求める悲痛な声

笹さんたちのもとには今もひとり親家庭から、支援を求める悲痛な声が届いています。

5歳と0歳の子どもがいる神奈川県のシングルマザーからは「家賃も払えず冷蔵庫が空っぽです。食べ盛りの上の子に食事を買うか、おむつを買うか、本当に悩んでいます」。

この家庭には自転車で運ぶにはあまりに遠く、毎日の弁当を届けることができないため、車でコメなどの食材を届けています。

笹さんは、「想像以上に多くの人が協力してくれて本当にありがたいです。ただまだまだ支援する家庭はたくさんあるのでできるかぎり続けていくつもりです。フットワークが軽い僕たちがやるしかないと思っています」。

「私もひとり親家庭でした」。

ひとり親家庭で育った男性が始めた取り組みが共感を呼び、広がりを見せています。