新型コロナがもたらす最期 死者10万に迫る米国が直面する現実

新型コロナがもたらす最期 死者10万に迫る米国が直面する現実
新型コロナウイルスによるアメリカでの死者は10万人に迫っている。世界の4分の1以上を占め、最も多い。この数だけ、遺族の悲しみがある。「新型コロナウイルスの悲惨さを知って欲しい」、遺族が語った「コロナがもたらす最期」とは。
(ワシントン支局記者 西河篤俊)

9分間の動画

「私は今、病院の外にいます。みなさんに知ってほしいことがあります。新型コロナウイルスがどれほど恐ろしいか、みなさんは理解していないと思います」
4月初め、フェイスブックに投稿された9分間の動画は、この言葉で始まる。車の中だろうか。暗闇の中、若い男性が静かにとつとつとしゃべる。投稿から1か月ほどで、再生回数は5万回を超えていた。

この男性に連絡をとってみた。ケンタッキー州のトラック運転手、ダスティン・ピットマンさん(27)。父親を新型コロナウイルスで亡くし、動画はそのとき撮影したものだという。
父親のデイビッドさんは退役軍人。62歳だった。3月下旬、ダスティンさんは体調に異変を感じたという父親を訪ねた。その時、父親は「インフルエンザだろう」と話していたという。

ただダスティンさんが連れて行った子どもたちに近づこうとしなかったという。これが、孫がおじいちゃんを見た最後となった。

延命治療を続けるかの決断

3日後、デイビッドさんは肺炎と診断され、入院。それから4日後、容体が急変。人工呼吸器をつけることに。

すぐにでも退院できると思っていたダスティンさんたち家族に、医師は「回復の見込みはない」と告げた。新型コロナウイルスに感染したと知ったのもそのころだという。

戸惑う家族たちに、医師は「植物状態になっても延命治療を続けますか」と尋ねた。父を見舞うこともままならず、1週間ぶりに姿を見たとき、ダスティンさんは病院で防護服を身につけるよう言われた。集中治療室にいるデイビッドさんはすでに意識がなかったという。

そのときの状況を、ダスティンさんは声を詰まらせながらこう振り返った。
ダスティンさん
「父は生命を維持するための装置によって生かされているような状態でした。父に、この言葉が届けと願いながら語りかけたんです。『あなたを愛している。もし私の判断が間違っていたら、ごめん』」
その後、病院の駐車場の車の中でみずから撮影した動画が冒頭の動画だ。生命維持の装置を外すのに同意した直後だったという。9分の動画の最後、ダスティンさんはこう締めくくった。
ダスティンさん
「これがどんなにつらいことか、皆さんにも知ってほしいのです。あなたの子どもや家族、あなたが愛する人を危険にさらさないでください。家にいて、外出を控えてください。それだけです」

若い人の命も奪う新型コロナ

当初は、高齢者や持病のある人が重症化しやすいとされた新型コロナウイルスだが、若い人も犠牲になっている。
ミズーリ州のジャズミン・ディクソンさんも、そうした1人だ。ことし3月に命を落とした。31歳だった。
ジャズミンさんのいとこのベラフェ・ジョンソンさん(39)がテレビ電話での取材に応じてくれた。ジャズミンさんが亡くなってから1か月以上がたつが、まだその死を受け入れられないと話す。
ジョンソンさん
「家族や親戚で集まると、いつもジャズミンの姿がありました。彼女がその輪の中心でした。私たちは今もショックから立ち直れません」
あまりにも突然すぎる死は、周囲に心の準備すら許さない。31歳と若く、健康そのもの。どこで感染したかもわからないという。
ジョンソンさん
「ジャズミンは持病もありませんでしたし、死ぬのはお年寄りだと言われていました。自力で病院に行ったのに、わずか4日で亡くなりました。ジャズミンの母親が病院に駆けつけたのは、亡くなるわずか10分前でしたが、もう意識はありませんでした。そのほかの家族は見舞いにも行けませんでした。あまりにつらすぎます」

亡くなったあとに待ち受けていた現実

遺族が直面するのは突然の死だけではない。ジョンソンさんは話を続けた。
ジョンソンさん
「新型コロナウイルスで亡くなったため、地元の葬儀会社は葬儀をしたがりませんでした。結局、遺体は病院から直接、墓地に運ばれ、埋葬されました」
埋葬の際に、遺族が撮影した写真。屋外とはいえ、感染防止のため、多くの人が集まることは認められていない。

参列が許されたのは、たった10人。葬儀会社の関係者が2人、遺族は8人だったという。しかも見送りは車の中から。
ジョンソンさん
「このウイルスの最も悲しいところは、最期の時も孤独だということです」

「バーチャル」での葬儀

こうした遺族の悲しみを少しでも和らげようと、今、アメリカで増えているのが、インターネットで葬儀の様子を伝える「バーチャル葬儀」だ。取材に応じてくれたミシガン州の葬儀会社ではこんな形式で葬儀を行う。

会場には10脚のイスが距離を置いて並べられている。10人より多く集まることが認められていないためだ。遠方からの参列もかなわない。
立ち会うことのできない遺族や友人のために、この様子をインターネットで中継する。問い合わせも増えているというが、葬儀会社としては苦渋の選択だという。
葬儀会社代表 ダッチ・ナイ氏
「従来のような形で葬儀をやりたくてもできないのは、胸が張り裂ける思いです。皆が集まって抱擁を交わし、故人を追悼する葬儀ができる日が来ることを、切に祈っています」

「新型コロナウイルス」ですべてがこれまでにない経験

アメリカでは経済活動が徐々に再開され始めてはいるが、まだ多くが外出制限下にある。私たちの取材も感染を拡大させないため、直接、会っての取材は最小限だ。今回、取材に応じてくれた人たちは、みな遠くに住んでいるため、インターネットのテレビ電話機能を使った取材となった。

これまでも事件やテロなどで愛する家族を失った多くの人に話を聞いてきた。だからこそ、今回、直接会って話を聞けないことに申し訳ない気持ちになった。(テレビ)電話でいきなり聞くような話ではないからだ。

取材を断られることも少なくなかった。テレビ電話がつながったあとに、「やはりまだ気持ちの整理ができない」とキャンセルされることもあった。当然だと思う。
それなのに父親を亡くしたダスティンさんは取材の最後にこんなことまで話してくれた。
ダスティンさん
「父は恥ずかしがり屋で、人前に出るのを嫌がる人でした。でも、これが他の人のためになるなら、喜んでくれてると思います。このウイルスに苦しんでいるのはアメリカ人も日本人もみな同じです。ともにこの苦しい時期をいつか乗り越えられたらと思います」
「アメリカが攻撃を受けた例」として、真珠湾攻撃と9・11の同時多発テロをあげることが多いが、この新型コロナの死者はそれらの犠牲者を大きく超える。それどころか、アメリカが10年以上にわたり関与したベトナム戦争でのアメリカ人兵士の犠牲者をも、上回った。わずか3か月の間に、だ。1日あたり平均1000人以上が命を落としていることになる。これが今、アメリカに突きつけられている「現実」だ。

経済活動がいくら再開されても、悲しみの数は増え続けている。まだ、「先が見えた」とは言えない。
ワシントン支局記者
西河篤俊