新型コロナ治療薬 臨床試験は約1000件 その結果は?

新型コロナ治療薬 臨床試験は約1000件 その結果は?
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世界中の研究機関や製薬企業が新型コロナウイルスの治療薬の研究を急ぐ中、候補となる薬の効果を確かめるための臨床試験の結果が出始めていて、治療法の確立につながるか注目されます。
新型コロナウイルスをめぐっては、別の病気の治療のために開発された薬に治療効果が認められないか臨床試験が進められています。

このうち、アメリカの製薬企業「ギリアド・サイエンシズ」がエボラ出血熱の治療薬として開発中だった「レムデシビル」は今月、臨床試験の一部の結果をもとに、アメリカで緊急の使用許可が出されました。

22日に発表されたNIH=アメリカ国立衛生研究所などによる臨床試験の初期段階の結果では、患者が退院できる状態になるまでの期間を短縮する効果が見られたとしています。

一方、マラリアなどの治療薬として広く使われている「ヒドロキシクロロキン」は、治療薬となる可能性が指摘され世界中で広く使われましたが、22日に発表された大規模な患者の分析では効果は認められなかったと報告されています。

このほか、アメリカの製薬企業などがウイルスの抗体を薬にしたものや、回復した患者の血しょうから作る免疫グロブリン製剤などの開発を進めていますが、臨床試験の開始はこの夏以降になる見通しです。

アメリカなどでは、感染者の増加がゆるやかになりつつありますが、再び感染者が増え始めた場合に備えて薬の効果の検証が急務となっています。

開発中の治療薬 現状は

新型コロナウイルスの治療法についてまとめている民間の団体によりますと、今月22日現在、治療効果を確かめるための薬の臨床試験は世界でおよそ1000件、行われています。

これまでアメリカの製薬会社が開発した「レムデシビル」がアメリカで緊急使用が認められ、それを受けて国内でも特例承認の制度を使って承認されました。ただ、副作用など安全性についての情報がまだ限られていることなどから、重症の患者などに限定して慎重に使用されることになっています。このほかに国内や海外で進められている薬や治療法の研究の現状はー。

<アビガン>
日本の製薬会社が開発した新型インフルエンザの治療薬「アビガン」は、遺伝子のRNAが増えるのを妨げてウイルスの増殖を防ぐ働きがあり、新型コロナウイルスでも同じ仕組みで効果があると期待されています。

これまでに中国などで一定の効果が認められたとする研究結果が報告されていますが、日本国内では、企業による治験や、全国の40余りの医療機関が参加する臨床研究などが進められているところで、まだ有効性などについて結果は出ていません。

政府は今月中の承認を目指し、手続きを短縮して審査を進める方針を示していますが、効果や安全性を慎重に見極めるべきとする声もあり、今後、企業の治験や、臨床研究の結果が注目されています。

<オルベスコ>
ぜんそくの治療薬、「オルベスコ」は国立感染症研究所が新型コロナウイルスに対して効果がある可能性を見つけた薬で、初期の患者に使うことで重症化を防ぐ効果が期待されています。

300人以上を対象にした観察研究の結果が近くまとまる見込みで、ほかにも国立国際医療研究センターでも臨床研究が進められています。

<フサン>
東京大学の研究グループが新型コロナウイルスの増殖を抑える可能性を見つけ出した「フサン」、一般名「ナファモスタット」は、すい炎や全身で血栓ができる病気の治療薬として国内で長く使われてきました。

新型コロナウイルスは血液の塊、「血栓」ができやすくなり、重症化するという報告があり、グループでは「フサン」を使うことで、ウイルスの増殖を防ぐとともに、血栓を予防できる可能性もあるとして臨床研究を進めています。

<イベルメクチン>
このほか、2015年にノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授が発見した物質をもとに開発された「イベルメクチン」も効果が期待されています。

本来は寄生虫による感染症の特効薬ですが、アメリカの大学がこの薬を新型コロナウイルスの患者に投与して死亡率が下がったという報告があり、北里大学が今後、臨床研究を行うことにしています。

<リウマチ薬・アクテムラ>
日本の研究者の成果をもとに開発された関節リウマチなどの治療薬「アクテムラ」は、新型コロナウイルスによる免疫の暴走を抑える効果が期待されています。

新型コロナウイルスでは一部の患者で免疫の仕組みが暴走する「サイトカインストーム」が起こり、重症化するとされていて、「アクテムラ」を使うことで症状の改善につながる可能性があるということです。

開発した製薬会社では効果を確かめる治験を国内で行うと発表したほか、海外でも治験が進められています。

<そのほか>
このほか、エイズの発症を抑える「カレトラ」や、マラリアなどの治療薬、「ヒドロキシクロロキン」なども研究されていますが、これまでのところ十分な効果は確認されていません。

ほかの病気の治療薬に期待

新型コロナウイルスは、当初は発熱やせきなどいわゆる「かぜ」の症状で、8割程度の人は特別な治療をしなくてもそのまま治るとされています。

ただ、肺炎になるなどして重症化すると、人工呼吸器や集中治療室での治療が必要で、死亡する人も出てくることから、重症化を防ぐ治療薬の開発が求められています。このため、世界中で新型コロナウイルスの治療薬の開発が急ピッチで進められています。

最近、注目されているのは一から新たな薬を開発するのではなく、これまで、ほかの病気の治療薬として開発が進められていたり、すでに実用化されていたりする薬の中から新型コロナウイルスへの効果を捜し出す方法です。

こうした薬では、すでに人に使用されていたり、副作用の情報が集められていたりすることから、新型コロナウイルスに対しての効果や安全性を改めて確かめる必要はあるものの、新たな薬を開発するのに比べて実用化が迅速に進むと期待されています。

専門家「第2波までに準備を」

感染症の治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は、新型コロナウイルスに対する治療薬の開発について「薬として実用化するには適切な臨床研究の形で効果を確かめることが絶対に必要だ。今、候補になっている薬ではアビガンがいちばん早く結果が出ると考えている。また、オルベスコも6月以降、結果が出てくるとみられ、フサンやアクテムラなどもスピード感を持って研究が進んでいる。感染の第2波、第3波が来ると言われているので、それまでにしっかりと準備をしておく必要がある」と話しています。

一方で、森島客員教授は「いま研究されている治療薬は、すべて既存薬から捜し出していて、新型コロナウイルスに特化して開発された薬ではないため一定の限界がある。長所と短所を理解したうえで使っていくことが重要だ」と指摘しました。