“ボクシングの灯は消さない” コロナショックで窮地のジム

“ボクシングの灯は消さない” コロナショックで窮地のジム
華やかなスポットライトの下、選手たちが拳を交えるプロボクシング。今、新型コロナウイルスの影響で窮地に追い込まれています。6月までの試合が中止となっただけでなく、プロボクシングの根幹と言えるジムが営業の自粛を求められ、経営難に陥っているのです。

大手ジムでも…

「ジムが始まって45年がたちますが、こうした状況は初めて」
東京 品川区にあるワタナベジムの渡辺均会長は語りました。

4月の緊急事態宣言を受けて、日本プロボクシング協会はフィットネスなどを目的にした「一般会員」の利用の自粛を全国のジムに要請しました。
8人の世界チャンピオンを輩出した大手のワタナベジムも、要請に従って一般会員向けの営業を自粛。換気や消毒を徹底しながら、プロの自主トレーニングのみが続けられてきました。しかし、それは、運営資金の多くをまかなっていた会費が入らなくなることを意味します。
「1か月300万円以上はストップされる。それが経営の基本なので、非常に痛手だ」
渡辺会長は厳しい表情で語りました。

苦しい胸のうち“自粛できない”

一方で、営業継続に踏み切ったジムもあります。
ある都内の小規模なジムは、時間を短縮して一般会員の練習を受け入れ、取材に訪れた日も2人の男性がシャドーボクシングなどで汗を流していました。ジムの会長は、「かなり迷いましたが、自粛すれば資金繰りが大変。大手のジムとは同じように考えられない」と苦しい胸の内を明かしました。
200万円ほどの毎月の会費は収入のほぼすべてを占め、自粛が長期間続けば存続すら危うくなります。このジムでも窓を開放し、こまめに室内を消毒するなど、感染防止対策を徹底していますが「感染者が出れば終わり」と危機感を抱いています。
それでも、「感染対策をしっかりしながら続けていくしかない」と続けました。

業界支援も変わらぬ苦境

日本プロボクシング協会は、全国およそ280のジムに一律10万円を支援。自粛をしたジムにはさらに30万円を支援する予定ですが、多くのジムの苦しい現状は変わりません。
自粛を続ける別のジムの会長は、「ありがたくはあるが、正直言って焼け石に水で、営業を再開できなければ厳しい」と話しました。
プロボクシングの統括団体、JBC=日本ボクシングコミッションの安河内剛本部事務局長は、「原則として自粛要請には従ってほしい。ただジムからは悲鳴にも似た声をもらっている。経営に行き詰まって辞めるジムが出てくることは、業界一丸で阻止しないといけない。今後も状況に応じた支援を考えたい」と話しています。

資金確保へ“ボクシングの灯は消さない”

こうした中、ワタナベジムでは運営資金を確保するため、4月から「クラウドファンディング」を始めました。
返礼品には選手のサイン入りグローブなどを用意し、5月21日の時点で570万円あまりの資金が集まりました。
渡辺会長は、「応援してくれる人数が伸びていって、改めてファンのありがたみを感じます。これからは、いろいろ工夫していくことが必要だと思います」と感謝の思いを口にしたうえで「ボクシングの灯はもちろん消えないし、消さない努力をしていく」と強い決意を示しました。
感染防止対策をしながら7月からの試合再開を目指す中、プロボクシングの灯を守るため正念場の戦いが続きます。
(スポーツニュース部 記者 小野慎吾/清水瑶平)