神奈川県 コロナによる“介護崩壊”防止で新たな体制構築へ

神奈川県 コロナによる“介護崩壊”防止で新たな体制構築へ
介護施設などで新型コロナウイルスの感染が発生した際に、職員不足による介護崩壊が起こらないよう、神奈川県は、施設の枠を越えて職員を派遣する新たな介護体制の構築に乗り出しました。
特別養護老人ホームなど介護施設での感染状況について、NHKが神奈川県内の自治体に取材したところ、利用者が43人、職員が22人、合わせて65人が感染し、感染した利用者のうち4人に1人にあたる11人が死亡していました。

今週の段階で休業している介護サービス事業所は33か所あり、先月20日時点と比べると半分に減ったものの、新たな感染を抑えながらいかに運営を継続していくかが課題になっています。

こうした中、神奈川県は介護施設や障害者施設で感染が発生すれば、職員の自宅待機や施設内をゾーニングして介護する必要などから、職員が不足するおそれがあるとして、県内のほかの施設から応援職員を派遣する新たな介護体制の構築に乗り出しました。

県は、介護施設などを運営する県内のおよそ1万4000の事業者に協力を呼びかけていて、あらかじめ対応可能な職員を登録してもらい、必要に応じて施設の枠を越えて職員を派遣してもらいます。

感染防止のため防護服などを準備し事前に研修も行うということで、県ではさらに施設の退職者にも協力を依頼して人材を確保していきたいとしています。

「困ったときはお互いさま 協力したい」

神奈川県は、施設の枠を越えて職員を派遣しあう新たな介護体制の構築に向け、県内の事業者を訪問するなどして広く協力を呼びかけています。

このうち寒川町で特別養護老人ホームなどを運営する事業者のもとに、20日、県と社会福祉協議会の職員が訪れました。

県の担当者などは、応援職員を派遣した際には代わりの職員を派遣することや、代わりに短期的に職員を雇用した場合は人件費を助成することなどを説明して理解を求めました。

この事業者では、特別養護老人ホームやデイサービスなど5つの施設で合わせて80人の職員が働いていますが、要請があった場合には最大5人の応援職員を派遣することを決めました。

「寒川ホーム」の三澤京子施設長は、「自分の施設でも感染のリスクは常にあり、困ったときはお互いさまという気持ちで協力したい。応援先で職員が感染する懸念もあるので、感染防護のための研修など対策を充実してもらいたい」と話していました。

神奈川県地域福祉課の長島圭太課長は、「一時期に比べると感染は抑えられているが、いつまた増加に転じるかは見通せない状況で、いまから体制を整えておく必要がある。ウイルスに対応しながら施設の運営を続けられる仕組みをつくっていきたい」と話しています。

“介護の質”の維持が課題

一方、介護の現場では、感染から命を守ったうえで、いかに質も保っていくかが大きな課題となっています。

神奈川県の社会福祉法人「富士白苑」が運営する特別養護老人ホームのうち、藤沢市の施設には要介護の認定を受けた50代から100歳以上の140人ほどが入所しています。

施設では、職員以外の立ち入りを制限し、出入り口には消毒液をしみこませたマットを置いて靴や車いすの車輪を消毒、職員は入所者と接するまでに手の消毒を3回行い、介護する人ごとに手袋を交換するなど対策を徹底していて、これまでに感染は出ていません。

入所者と家族の面会はTV電話を通じて行っていて、孫と話した細川きみさん(95)は、「こんな機械の前で、と思うけどうれしいです。孫がいい顔になっていて安心しました」と話していました。

一方、法人では施設内で感染が広がる事態にも備え、150人いる職員の半分が出勤できなくなる想定で、施設を運営する対策をまとめました。

しかし、職員が半減した想定では入浴を週3回から1回に減らしたり、職員の目が届きやすくなるよう1人部屋を2人で利用したりしなければならず、サービスの質の低下は避けられないとしています。

富士白苑の初谷博保理事長は、「通常なら利用者の方の満足度を高めることが、われわれの仕事だが、万が一の時は介護の概念を変えていく必要がある。どうやってきょうを生きて命をつなげるか、これを最優先に考えないといけない」と話していました。

一方で、県が進めるような人員不足を施設間で補う仕組みも、介護の質を保つ面では難しさがあるといいます。

法人が運営する別の施設に入所している岩本みよさん(110)は、食事中に職員が「おいしいですか」とか「もう少し食べられますか」と定期的に声をかけると、食べる量が増えるといいます。

職員がこうした入所者の性格や傾向、体調面で注意すべきサインなど、一人一人の状況を把握するには、通常3か月ほどかかるといいます。

初谷理事長は、「介護する側、される側、お互い人間なので誰かが入れば代わりに100%の仕事ができる業界ではない。一時的な人手不足を乗り切ることはできても、長期的に続くと考えれば介護の質も含めてどう維持するかが今後の課題になる」と話していました。

専門家「感染者が出た後の対応を考えることも大切」

神奈川県が進める新たな介護体制について、高齢者の介護や施設に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「緊急事態宣言が解除されてもウイルスがなくなるわけではなく、必ず第2波、第3波が来るので法人の垣根を越えた派遣は求められていた。一方で、実現はなかなか難しいとみられていたので、行政がプラットフォームを作り準備を進める動きは意味があることだ」と評価しています。

そのうえで「応援に派遣される職員の不安をできるだけ軽減できるよう、行政は防護服の着脱など感染を広げないための研修をしっかりと早めに行うべきだ。施設側も、利用者のケアのやり方は人によって違うので、自分の施設で感染者が出て応援職員が来た時を想定し、介護の手順などのマニュアルを早急に作ってほしい。感染を防ぐことはもちろん重要だが、感染者が出たあとの対応をしっかり考えることも大切だ」と指摘しています。