中国 コロナ対策の成果強調も感染拡大の責任追及は…

中国 コロナ対策の成果強調も感染拡大の責任追及は…
新型コロナウイルスの感染対策に国を挙げて取り組んできた中国では、状況が最も深刻だった湖北省武漢で2か月半にわたる封鎖措置が先月8日に解除され、徐々に日常生活を取り戻しつつあります。しかし、中国メディアなどで対策の成果が強調される一方、感染拡大の責任を追及する声は封じ込められていると訴える人たちもいます。
武漢に住む張毅さんは、ことし1月以降、SNSで友人たちと連絡をとり合い、武漢の厳しい現状を伝えてきましたが、3人の友人が相次いで当局に拘束されたといいます。

その1人、陳秋実さんは封鎖措置がとられる前の武漢に入り、市民ジャーナリストとして医療体制が崩壊状態に陥った現地の状況を撮影した動画をSNS上に投稿してきましたが、2月上旬に連絡がつかなくなり、今も行方がわかりません。

さらに、張さんたちが情報交換をする中で、真相究明を求めた遺族の訴えが当局に抑え込まれる事態も起きていたといいます。

娘が新型コロナウイルスに感染して死亡したという母親は、政府が情報を隠蔽しなければウイルスを警戒し、感染を避けられたと訴えていて、真相究明を求めて、陳情を受け付ける当局の建物の前で座り込みをしていましたが、警察に強制的に排除されたということです。

中国共産党は2月に、湖北省に記者300人を派遣したと発表しましたが、前向きで、政府に都合のいい話だけが強調され、必ずしも現状を伝えていないとして、張さんは自身の身の危険を感じながらも、今後も発信を続けていきたいとしています。

張さんは、「仮に誰も声を上げなければ、私たちは社会の中で希望を持てるでしょうか。必ず希望などなくなってしまうでしょう。だからこそ声をあげられるかぎり、武漢の現状を世界に伝えていきたい」と話していました。

中国 「宣伝戦」強化か

新型コロナウイルスの感染拡大を機に中国政府は、アメリカやヨーロッパ各国で自国の立場を広く訴える「宣伝戦」とも呼ばれる活動を強化しているとみられます。

アメリカで先月、発覚したのが、中国の外交官による地方の州議会へのある働きかけでした。

明らかにしたのは、中西部ウィスコンシン州の州議会上院の代表で共和党のロジャー・ロス議員です。

ロス議員によりますと、ことし2月末から3月にかけてシカゴの中国総領事館から2通のメールが届き、州議会でウイルスをめぐる中国政府の対応をたたえる決議を可決するよう求められたということです。

メールには決議の草案が添付されていて、中国政府が新型コロナウイルスを巡り、WHO=世界保健機関と速やかに情報を共有し透明性の高い対応をしたと記されていました。

草案は中国側がみずから作成したとみられ、ロス議員はこれを拒否したうえで、逆に中国政府に抗議する決議案を州議会に提出したということです。

ロス議員は取材に対し「草案の内容はでたらめだ。中国政府は人から人への感染に関してうそをつき、われわれをだまして世界にウイルスを拡散させた」と述べました。

さらに「みずからに都合のよい世論を作り出し、中国の国営メディアで宣伝する目的だったと思う」と述べ、中国政府の働きかけに警戒する必要があると指摘しました。

中国はまた、外務省の報道官や世界各地の外交官がツイッターで、中国の立場や中国による医療物資の支援をたびたびアピールしていて、アメリカでは3月中旬に「アメリカ軍がウイルスを武漢に持ち込んだ」という内容の中国外務省報道官にツイートに強い警戒感が広がりました。

アメリカのシンクタンク「戦略国際問題研究所」の中国の専門家ボニー・グレイザー氏は「中国政府はアメリカを始め世界各国に医療物資を送り、その国々に中国政府への謝意を表明するよう圧力をかけている」と述べたうえで「ウイルスの発生で傷ついた海外での中国政府の評判を取り戻すねらいだが、逆効果になっている」と指摘しています。

ヨーロッパでも「宣伝」外交

中国政府はヨーロッパでも、大使館のホームページやツイッターなどを通じて、新型コロナウイルスへの対応について自国の主張を数多く発信しています。

このうちフランスでは、駐在する盧沙野大使がニュース専門チャンネルや地元紙のインタビューにたびたび応じ「中国政府に対する非難や攻撃は真実に基づかず、反論に値しない」とか、「フランスのメディアは中国に関するうそや、うわさで大騒ぎする」などと述べて中国の立場を訴えてきました。

一方で、こうした情報発信は波紋を呼んでいます。

先月12日には、中国大使館のホームページで「ゆがめられた事実を正すーパリの中国人外交官の意見」として声明を発表し、欧米諸国は感染を抑えるよりも中国を攻撃するのに関心があるようだと主張しました。

そのうえで「高齢者施設では看護職員が職務を放棄し、利用者を病気と飢えで死亡させた」などとして、各国の対策を批判しました。

この声明が掲載された2日後の先月14日、フランスのルドリアン外相は盧大使を呼び、その後、発表した声明で「最近の一部の発言に賛成しない立場を伝えた。フランスと中国の友好関係にふさわしくない」として、厳重に抗議したことを明らかにしました。