コロナと生きる世界とは?ヨーロッパの小国から見えてきたもの

コロナと生きる世界とは?ヨーロッパの小国から見えてきたもの
新型コロナウイルスの感染が広がる中、ヨーロッパでいち早く「新しい日常」を取り入れている国がある。人口は大阪府と同程度の890万人の小国、オーストリア。4月中旬から、いち早く制限緩和に乗り出し、今月に入って、活動をより本格化させている。新たな日常のもとでコロナと生きる世界の姿とは?(ウィーン支局長 禰津博人)

待ち望んだ再開 しかし…

今月15日、オーストリアでおよそ2か月ぶりに、飲食店に明かりが戻った。3月中旬以降、全土で禁止されていたレストランやバーなどの店舗営業が再開されたのだ。「まるで監獄だった」。市民からはそうした声も聞かれたウィーンの繁華街。観光客はもとより、地元市民の姿も消え、ゴーストタウンのようだったが、いくぶん人々の笑顔が戻ってきた。
市内にある老舗高級レストランも、再開した店の1つ。「ターフェルシュピッツ」と呼ばれる牛肉の煮込みが名物のこのレストランは初日、すべて予約で埋まったという。オーナーのマリオ・プラフッタさんは、私たちの取材に思わず顔をほころばせた。
プラフッタさん
「ビジネスを始めたころを思い出すようで、とてもうれしいです。レストランは必要不可欠なものではないが社会生活の重要な一部。食事だけではなく、気持ちを提供しているのです」
ただ、レストランの中には、感染対策のためテーブルを撤去して席数を半分に減らしたところや「店が狭く密集が避けられない」との理由で再開を見送るところも。また、再開前に地元メディアが行った調査では「レストランやバーにすぐに行きたい」と答えた人は、34%と、3人に1人にとどまり、元どおりの日常に戻ったわけではない。在宅勤務を継続する企業が多いことも状況の厳しさに拍車をかけている。昼食で外食するビジネスマンが戻ってきていないからだ。
観光の冷え込みが続いていることも、飲食業界に影を落としているとオーストリアの飲食店でつくる団体のマリオ・プルカー代表は指摘する。
プルカー代表
「多くの飲食店は観光業に依存しているが、その観光が止まってしまっている。飛行機もオーストリアに降り立たない。海外の観光客がいないため、大きな打撃を受けている」
クルツ首相は「レストラン産業は、オーストリアの魂だ」と強調し、レストランで提供される飲み物の税金を軽減するなど対策に腐心している。再開してみたものの、客足が戻るには、相当時間がかかる。いや、そもそも元に戻るのかどうかもわからない。そのような不安の声は後を絶たない。

新たな日常へ 各現場の戦い

感染対策と、経済活動の再開。現場では手探りの試行錯誤が始まっている。
みずからフェイスシールドをつけて、モール内の各店舗を見て回るのは施設のオーナー、リヒャルド・ルグナーさん。営業が禁止されていた間、売り上げは、最大で1500万ユーロ、日本円にして17億円以上もの落ち込みがあったということで、営業再開を待ち望んでいた。ルグナーさんが、やはり気を配っていたのが、感染対策。店舗内は、従業員も客もマスクなどで目と鼻を覆うことが義務づけられている。
ルグナーさん
「消毒液も購入したし、マスクを60万枚以上買った。全従業員の安全は守らねばならない。従業員には、マスクかフェイスシールド、どちらかを着用するように手配している」
また、入場制限も盛んに行われている。店舗内では1人当たり10平方メートルの入場制限が定められ、人と人との距離を1メートル以上、空けることなどが求められている。店舗面積が、およそ2600平方メートルのこの大型書店は、理屈では入店できるのは260人までだ。どう入店者を管理しているのだろうか。
その答えは「買い物かご」だ。入り口で店員が、客一人一人の手を消毒するとともに、買い物かごを手渡すのだ。かごを渡した数で入店人数を把握し、制限を行うという。受け取らない客は入店を断られる。同様の取り組みは、市内の靴屋でも。入り口で「靴べら」を手渡し、入店数の把握につとめる店舗もあった。ソーシャルディスタンスをいかに確保するかの工夫が行われている。
美容室やネイルサロンは客と直接、接する業種だけにさらに慎重な対策を進めている。飲み物や雑誌の提供はすべて中止。そして、客どうしの距離をとるため散髪をする座席を1つ置きに使用。このため、客は、以前の半分までしか受け付けられないという。客は散髪中もマスクを着用しなければならず、耳周りを切る時はゴムひもを外してもらうという。眉の手入れなど、客と顔を近づける必要がある際には、美容師はフェイスシールドを装着していた。
フバチェックさん
「また働けるのはうれしいが、全く異なる環境での仕事です。大きな挑戦だ」

前例ないステージに

今後、最も警戒されるのは、第2波の到来だ。オーストリアは、先月中旬以降、1日当たりの新たな感染者数は100人未満となっているが、最近、複数の施設でクラスターの発生も見られるなど、予断を許さない状況だ。商工会議所の機能を担う連邦産業院のハラルド・マーラー総裁は、警戒を緩めないよう呼びかけている。
マーラー総裁
「みんなが、感染防止のルールを徹底しなければならない。少なくとも、コロナに有効な薬ができるまではルールを守る必要があります」
ウィーン医科大学のエバ・シェルンハマー疫学部長は、第2波への警戒が必要で、特に、ことしの秋以降が危険だと警告する。
シェルンハマー疫学部長
「夏の休暇期間が終わり、子どもが学校に戻り、人々が本格的に仕事に復帰する、秋、何が起きるか注視しなければならない。ワクチンができる前に、第2波が到来して感染者が急増してしまえば、さらに厳しい外出制限措置をとる必要が出てくる」
政府も感染者が増加に転じた場合「非常ブレーキを踏む用意はできている」として、再び、経済活動に制限をかけることも辞さないと強調している。しかし、すでに大きな経済打撃を受ける現場からは、「また外出制限をされたら、もはや生き残るすべがない」と悲痛の声も聞かれる。前例のないステージに入っているオーストリア。ヨーロッパの先駆けとして、新たな日常をどう作っていくのか、注視していきたい。
ウィーン支局長
禰津 博人
平成14年入局
テヘラン支局 ワシントン支局などを経て現職
中東欧・国連・核問題を担当