アップルとグーグル 各国の濃厚接触者アプリ開発に技術提供

アップルとグーグル 各国の濃厚接触者アプリ開発に技術提供
新型コロナウイルスの感染拡大の防止につなげるため、アメリカのアップルとグーグルは、濃厚接触した可能性がある人を把握するアプリを、各国の当局が開発する際に使えるスマートフォンの新たな技術の提供を始めました。日本も、この技術を活用してアプリを導入する予定です。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ対策では、感染者と濃厚接触した可能性がある人を把握するためのスマホのアプリが世界的に注目されています。

これについて、アップルとグーグルは20日に共同で声明を出し、各国の公衆衛生当局がアプリを開発する際に利用できる新たな技術の提供を始めたことを明らかにしました。

この技術は「iOS」と「Android」と呼ばれる両社の基本ソフトで動作します。

また、この機能を使うかどうかを利用者が選べるようにするなど、プライバシーの保護にも配慮したとしています。

濃厚接触した可能性がある人を把握するためのアプリは各国で導入が進んでいて、日本も両社の技術を活用してアプリを導入する予定です。

アプリの利用者どうしが一定の距離に近づいた場合などに、そのデータを端末に記録し、利用者が感染した場合に、みずからアプリに登録すると濃厚接触をした可能性がある人に自動的に通知が届く仕組みです。

アップルとグーグルの連携で、異なる基本ソフトどうしでも機能が使えることになり、両社は「強力なプライバシーの保護が最良のアプローチであり、今後も世界各国の公衆衛生機関を支援していく」としています。

アップル 顔認証でマスク認識

これとは別に、アップルはスマホの基本ソフト「iOS」を更新し、顔認証でスマホのロックを解除する際、マスクをしていても、これまでよりも素早く解除できるように機能を改めたとしています。

マスクをしている場合、これまでは顔認証を試みたあとにパスワードを入力する画面に移行しましたが、マスクをしていると認識されれば、速やかにパスワードの入力画面に移行するようになっています。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で、マスクを着用する人が急激に増えたことへの対応とみられます。

アプリ活用 各国の動き

スマートフォンを利用したアプリは、新型コロナウイルスの感染を抑え込みながら、経済活動を維持させるための手段の一つとして、世界の国々で活用の動きが広がっています。

韓国やイスラエルでは、政府が利用者の携帯電話の位置情報や通信データを利用し、感染の疑いがある人を割り出したり、感染者や自宅隔離を命じられた人たちが、ルールを守っているかを監視したりしています。

このうち韓国では、感染拡大の抑え込みに必要と判断された場合、感染した人や感染した疑いのある人の連絡先や移動経路などに関する個人情報を、自治体や法人などの関係機関が当局に提供することなどを法律で認めています。

今月はじめにソウル市のナイトクラブで集団感染が発生した際には、ソウル市が携帯電話の基地局の情報から周辺にいた1万人以上を割り出してメッセージを送信し、検査を受けるよう促したということです。

しかし、個人の位置情報を国が利用することについては、プライバシーを保護する観点から多くの国が慎重な姿勢を取っています。

これに対して個人のプライバシーに配慮し、位置情報を使わないのが「ブルートゥース」を利用したアプリです。

この方式では、アプリを利用する人が互いにブルートゥースで信号を送信することで、近くにいた人の情報を記録します。

このうち、すでにアプリの運用が始まっているシンガポールやオーストラリアでは、こうした情報が保健当局などが管理するサーバーに保管されます。

これにより保健当局はいち早く濃厚接触者を特定することができますが、サーバーがサイバー攻撃を受けると個人の情報が大量に流出してしまうリスクもあります。

一方、アップルとグーグルが開発した技術では、情報を政府などのサーバーに集約せず個人のスマホに保管するため、サイバー攻撃のリスクは低くなると考えられています。

この方式は日本をはじめドイツやスイス、エストニアなどが導入を進めています。

接触アプリの開発者「安全性の確保が重要」

プライバシーを重視した接触確認アプリの開発を行っている「Covid Watch」のリス・フェンウィックさんは、アプリが効果を発揮するためには、利用者のプライバシー保護について安全性の確保できるかどうかが重要になると指摘しました。

フェンウィックさんはアプリが適切に運用されれば、感染拡大の抑止に貢献できる可能性はあるとし、その条件について、抑止策をアプリだけに頼る場合は人口の60%、密接な環境を避けることや、日常的な手洗い、それにマスクの着用などと並行して行う場合は、20%のダウンロードが必要だと説明しています。

そして「政府やアプリ開発者が、いくら利用者のプライバシーを考慮していると言っても、完成したアプリが安全でなければ利用者は使いたくないだろう」と話し、より広くアプリが利用されるためには、保健当局や開発者が個人情報が流出するリスクの軽減に取り組むことが重要だと指摘しています。

そのうえで、フェンウィックさんは「接触確認アプリをめぐる議論や、私たちがいま行う選択は、今後セキュリティやプライバシー、それにデータについてどう考えるか、長期的に影響を与えることになる」とし、慎重に議論する必要があると指摘しました。

アップルとグーグルの技術 開発アプリのしくみ

日本が導入する予定なのが、アップルとグーグルの技術です。

この技術に基づいて開発されたアプリを使うと、利用者のスマートフォンは10分から20分ごとに変更される匿名の番号をブルートゥースで発信します。

アプリの利用者どうしが一定の距離まで近づくと、それぞれから発信された番号が互いのスマートフォンに自動的に記録されます。

そして、いずれかが新型コロナウイルスの陽性と判明した場合、その人の同意のもとで、これまでに発信した匿名の番号を受信していた利用者に対して、濃厚接触の可能性があると通知されるしくみです。

プライバシーを重視したアプリの開発を提唱する研究者のグループ「Covid Watch」は、アップルとグーグルが開発するシステムについて「個人のスマートフォンがサイバー攻撃を受けるリスクはあるが、頻繁に変更される匿名の番号から個人情報を解読するのは時間や資金がかかるため、ハッカーにとってメリットが少ない」と指摘しています。

接触アプリ「端末処理型」の課題

日本が導入を目指す方式は接触した人の記録をそれぞれのスマートフォンに保管する「端末処理型」と呼ばれています。

この方式はプライバシーの保護などの観点からリスクが小さいとされていて、ドイツやエストニア、それにスイスなども採用を検討しています。

このうちエストニアは5月中にもアプリを公開する予定で、スマホに残された記録が2週間で自動的に削除されるなど、プライバシーに配慮された仕組みとなっていて、国内のスマホ保有者のうち50%の利用を目指しているということです。

ただ、ヨーロッパでは国によって異なる方式のアプリの利用が検討されていて、国外からやってくる人々への対応などが課題として残されています。

エストニア政府のもと国内の民間企業を取りまとめて、アプリの開発を行っているアネット・ヌーマさんは「各国と調整し、たとえエストニアの国外から入ってきた人であってもアプリの機能を果たせるようにしたい」としています。