アパレル業界の悲鳴 臨時休業したものの…

アパレル業界の悲鳴 臨時休業したものの…
「アパレル業界は経営が本当に苦しい」
そんな声を受けて取材を進めていた矢先に入ってきたのがアパレル大手「レナウン」の経営破綻のニュースでした。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるため臨時休業を続ける東京都内の衣料品店の取材から業界が抱える難しさが見えてきました。(週刊まるわかりニュース 田所拓也 近藤伸郎)

臨時休業した衣料品店では

「飲食店などに比べてアパレル業界の苦しみは報道されていない」
知り合いづてに、そんな声を聞いた私たちが訪ねたのは、東京 南青山にある衣料品店「Vandori」のオーナー、笹岡昌平さんです。

国産のニット製品を中心に衣料品を販売しています。
笹岡さん
「説明しながら実際に試着してもらい、肌触りを確かめてもらって、満足して買ってもらうというスタイルで、オープン当初から売ってきました」
笹岡さんは、これまで対面販売を重視して店を営んできました。3月後半から客足が遠のき、土日は店を閉めることに。4月に緊急事態宣言が出されてから臨時休業に踏み切りました。

売り上げは、前年の同じ時期に比べて8割以上減少するなど、危機的な状況に陥っています。しかし、費用の負担は変わりません。毎月、店舗と事務所を合わせて賃料が約70万円かかっています。

ネット販売で乗り切るのは難しい…

なぜアパレル業界は特に深刻な状況にあるのか。
私たちが訪ねたときには、春物の在庫が試着室まであふれていました。店内の在庫の状況に、私たちは、厳しい現実の一端をかいま見たのでした。

店では、季節ごとにまとめてオリジナルの商品を仕入れています。長袖のものは4月中に商品棚に出し、5月以降は半袖など初夏のものに並べ替えるなど、半年前から計画を立てて、国内の工場に必要な量を発注しています。

これらの仕入れ分として届いた請求書には「424万円」の文字。
ため息が出るばかりだといいます。
笹岡さん
「5月末には入金しなきゃいけない。もう1社200万円ほどの請求書もある。飲食店のようにテイクアウトで販売することもできないので、頭が痛いです」
この店では、インターネットでの衣料品の販売も手がけていますが、服を試着して購入する客がほとんどで、ネット販売で乗り切るのは難しいといいます。

どうする 従業員の給与

さらに、いま笹岡さんを悩ませているのが、社員4人とアルバイト3人の給与をどう補償するかです。会社を支えてくれている従業員たちが、生活に困らないようにしたいと考えています。

この店で週5日アルバイトで働く女性は、出勤が減り、4月に支払われた賃金はいつもの30%になりました。
アルバイトの従業員
「たぶん5月はゼロだと思います。先が見えないことが不安です。働いた分だけしか稼げないのがアルバイトなので、それを選んだのは自分なんですけど、後悔していなかったのに後悔しそうになっています」
笹岡さんは悩んだ末、「休業手当」として社員には給与の満額、アルバイトの従業員には1人5万円を支払うことにしました。

“国や自治体の支援が不可欠”

笹岡さんは、外出の自粛が続き休業を続ける今の状況では、国や自治体からの支援がなければ、立ち行かないと考えています。

まず申請したのが、厳しい経営環境にある事業者が利用できる「持続化給付金」で、上限の200万円を受け取ることができました。

さらに、利用しようと考えているのは「雇用調整助成金」です。従業員の雇用を維持する企業に、休業手当などの一部が助成される制度です。しかし、手続きが煩雑で円滑に受け取れるようにしてほしいといいます。
笹岡さん
「用意しなければならない書類が多く、自分ひとりの力で申請できるものではない。社労士を雇うにもさらにお金がかかるし、もらえるまでに時間もかかる」
一方、東京都が休業要請などに応じる中小企業に最大100万円を支給する「協力金」は申請していません。

日用品を扱う衣料品店は「社会生活の維持に必要」とされており、休業要請の対象外とされたからです。
笹岡さん
「協力金をもらえるとずいぶん違う。感染拡大を防ぐために臨時休業にしているのに、なぜ衣料品店はもらえないのか。納得がいかない」
笹岡さんは、当面、政府の資金繰り支援策である実質、無利子・無担保の融資に頼ろうと考えています。

5月以降も、従業員の休業手当を支払い続けるために、足りない分の資金を借りるつもりです。

ファッションを楽しめる日が戻るように…

今回、笹岡さんは、大変な状況の中でわらをもつかむ思いだと言いながらも「アパレル業界みんなの大変さが伝わるきっかけになるなら」と取材に応じてくれました。
取材を終えて、私たちが編集作業に追い込まれていた放送前日の5月15日夜、アパレル大手「レナウン」が民事再生法の適用を申請したというニュースが入ってきました。

業界の厳しい状況を改めて思い知らされた私たちは、笹岡さんに電話して聞いたところ、次のように話しました。
笹岡さん
「同じ業界にいる者としてやはりショック。厳しいとは聞いていたが、新型コロナウイルスが追い打ちをかけた形だと思う。これからも大きいところも中小もアパレル業界は厳しい状況が続くと思う」
最後に、力を込めてこう話してくれました。
笹岡さん
「本来、ファッションは、暮らしに彩りをもたらすもの。在宅の生活でもおしゃれをして、ファッションで明るく楽しく陽気に過ごしてほしい。お店が再開する日には、お客さんにまた笑顔で戻ってきてほしい。そのためにも、なんとかこの事態を乗り切りたい」
週刊まるわかりニュース キャスター
田所拓也
平成17年入局
神戸局、熊本局、長野局を経て東京アナウンス室に
人の命と暮らしに寄り添う報道をモットーに現場取材を続ける
週刊まるわかりニュース ディレクター
近藤伸郎
平成25年入局。広島局、岡山局を経て報道局に
最近は新型コロナウイルス関連に加え、デジタル分野の動きなどを取材している