在日外国人 “親が亡くなっても一時帰国断念” コロナ影響

在日外国人 “親が亡くなっても一時帰国断念” コロナ影響
新型コロナウイルスの水際対策として、政府は100の国と地域からの外国人の入国を拒否する措置を取っていますが、その陰で、日本に住む外国人たちが困難に直面しています。母国にいる親が亡くなっても、一時帰国を断念したケースもあることがわかりました。
埼玉県川口市に住む韓国人のイ・クァンソク(李光錫)さん(54)です。

11年前から家族とともに日本で生活し、キムチなど食品を扱う貿易会社を経営しています。

イさんは先月27日、韓国にいる96歳の母親が亡くなったという連絡を受け、すぐに一時帰国しようとしました。

しかし、そこで大きな壁となったのが、日本政府が新型コロナウイルスの水際対策として行っている、外国人の入国を拒否する措置です。

日本が入国を拒否しているのは、アメリカやロシアなど、現在、感染者が多い国のほか、当初、感染が急速に拡大した中国や韓国など、100の国と地域からの外国人です。

この措置では、イさんのように日本に仕事や生活基盤がある外国人や、日本人を配偶者に持つ外国人も対象になるため、それぞれの母国にいったん出国してしまうと、日本への再入国は、特段の事情がないかぎり、原則として認められていません。

イさんは「母親の死去」は「特段の事情」にあたるのではないかと思い、法務省に再入国を許可してもらえないか問い合わせましたが、認められませんでした。

イさんは「『例外はない。とにかくだめだ』と言われ、その瞬間は何も考えられませんでした。

喪主が不在で葬式を行うなど、ありえないと思いました」と話していました。

どのような場合に「特段の事情」で再入国が認められるのか、明確な回答がなかったため、イさんは、仕事や家族のことを考え、断腸の思いで母親の葬式への出席を諦めました。

イさんは「母のために喪主を務められなかったので、とても心が痛みます。願いがかなうなら、せめて四十九日の法要には間に合うように韓国に行きたい」と涙ながらに話していました。

一方、先週出会った東京に住む台湾出身の30代の男性は、経営者として、日本を出国すべきか、苦悩していました。

男性は、日本で温泉旅館を経営し、台湾でも電子部品メーカーの会長を兼任しています。

台湾の会社で、みずからが必ず出席しなければならない株主総会が来月前半に開かれます。

「日本に戻ってくることができなければ、日本に住んでいる妻と1歳半の子どもに、いつ会えるかわからない状況になってしまう」と強い懸念を示していたこの男性。

法務省に何度問い合わせても、再入国できるかどうか確認できませんでした。

株主総会の日程が迫る中、欠席すると職を失う可能性があるため、19日、再入国のめどが立たないまま、出国しました。

男性は「僕も日本を大好きだからこそ、大学時代に日本語を勉強し、今、日本に住んで、旅館も経営している。外国人だけ行動の自由を制限するのは、国際社会での日本のイメージにとって損だ」と話します。

入国拒否の措置を行っているほかの国と比べると、ドイツでは長期滞在の許可がある外国人は再入国が認められ、オーストラリアでは再入国を申請できる基準が「人道的な配慮が必要な場合」などと公表されています。

これに対し、法務省の出入国在留管理庁の担当者は「例外の基準は公表していない。ただ、再入国が認められることも、今月上旬の時期で一日に1人か2人程度はあったので、相談してほしい」と話しています。

また、政府は、入国拒否の措置について、国内の感染が収まったあと、ビジネス目的の往来を認めるなど段階的な緩和を検討していますが、明確な時期は定まっていません。

日本に住む外国人の人権問題に詳しい指宿昭一弁護士は「仕事や家族の不幸でも、一度出たあとに入国できずに困っている外国人はたくさんいる。日本に生活拠点がある外国人の再入国は、感染対策をきちんと行えば十分にできることだ。どのような場合なら入国できるのかも、はっきりと示すべきだ」と指摘しています。