新型コロナでひきこもりは、今

新型コロナでひきこもりは、今
「ひきこもりって、コロナとなった今は勝ち組じゃない?」
「ひきこもっていればいいんだから、楽だよね」

新型コロナウイルスの感染拡大で、多くの人が家にいる、いわば「ひきこもる」ことを求められるようになった今、そんな声が聞こえてくることがあります。でも、本当にそうなのでしょうか。以前からひきこもってきた当事者の人たちに話を聞くと、社会と接する機会がさらに減り、より孤立感が深まったり、ひきこもりから出るチャンスを失ったりする事態に直面していることがわかりました。(ネットワーク報道部記者 高橋大地)

“ひきこもり”が今、叫びたいこと

「習い事やジムなどに参加することで完全なひきこもりになることを防いでいましたが、コロナの影響でどこも休業してしまったので、またひきこもりに逆戻り」
「(10万円の)給付金は、すべて家計にまわすことが、自分のいないところで決まっていました。家に置いてもらっている身なので異議はないけれど、自分のいない場ですべてが決まっていたことにモヤモヤし、落ち込みました」
今月7日、NHKラジオで放送した「みんなでひきこもりラジオ」に届いたメッセージです。「今、叫びたいこと」というテーマで募集したところ、新型コロナウイルスで影響を受けているという声がたくさん寄せられました。

家族が家にいて肩身が狭い…

「新型コロナウイルスのせいで、家族が家にいることが多いです。ただでさえ土日は肩身が狭い思いをしているのですが、ここ最近はもう…精神的につらい。こんな自分がいていいのかな?」
このメッセージを送ってくれた愛知県内に住む20代の女性と、メールでやり取りができました。女性は、高校を中退してから、実家にひきこもる生活を続けていると言います。
両親と妹と弟、それに祖母の6人暮らし。両親や祖母は、ひきこもっている状態をあたたかく見守ってくれていると言いますが、妹や弟とはほとんど会話がありません。2人が何を考えているかわからず、日頃から怖いと思ったり、負い目を感じたりしていると言います。

女性は、通院や本屋に行くために月に数回外出するくらいなので、新型コロナウイルスの感染が広がっても、今のところ生活に大きな変化はありません。ただ、心のつらさは以前よりも増していると言います。
女性
「コロナの影響で家族が家にいるようになって、いわゆる『普通』の道を歩んでいる『当たり前』の人間である家族と、『普通』の道を歩めなかった自分とを比べる機会が多くなってしまうので、精神的につらいんです。これまでも土日など家族がいるときは苦手だったのですが、それが最近は家にいる事が増え、家の中で見かけるたびに落ち込んでいます」
「家族と顔を合わせる機会が増える」という、ささいにも思えるそうした変化が、ひきこもっている当事者にとっては心理的な負担になっていました。

ひきこもりから脱し始めていたのに…

ようやく外とつながることができ始めたきっかけが失われたと話す人もいました。同じくメッセージを送ってくれた雪緒さん(46歳・女性)です。
雪緒さん
「訓練所に行くなど少しずつ出かける機会が増えていたんです。動けることで安心できるというか。でもコロナでそれができなくなり、目標としていた復帰のイメージも遠のいてしまいました」
雪緒さんは、職場でいじめにあったことなどがきっかけで、2年前からひきこもっています。当時は買い物で人に会うのも怖く、親とも話せない状態で、完全な昼夜逆転の生活を送っていたと言います。

去年の秋からは自立のための支援を行う訓練所に週2回を目安に通い始め、完全なひきこもり状態からは少しずつ脱していると感じていました。
雪緒さん
「訓練所は行くと疲れるんですが、同じような境遇の仲間に会えるし、何より『行けたぞ!』ということが達成感や自信につながっていたんです。でも、いろいろな人が来ているのは、感染のリスクがあるということなので、怖くて行けなくなってしまいました」
また、同じように自宅で療養していて、ツイッターを通してつながることができた友人と、好きなアーティストのライブに行く約束をしていましたが、それもコロナによって中止になってしまいました。

この友人と実際に会ったことがあるのはこれまでに1回だけ。一緒に出かけることで、お互い何かがわかるきっかけになるかもしれないという期待もあったと言います。
雪緒さん
「ライブに出かけると言うことを1つの目標にしていたんです。もしかしたら、友人の輪が広がるということもあったかもしれない。そうしたチャンスもなくなってしまった。訓練所にしても、ライブにしても、これからという時に計画が崩れてしまって、また元に戻ってしまわないか…。本当に悔しいです」

当事者会も家族会も開けない

新型コロナウイルスの感染拡大の中で、ひきこもりの人たちが実際に集まって語り合う当事者会や、家族の会が相次いで中止や延期になっています。
「親といる時間が増えて、緊張や対立することが増えた」
「親も経済的に不安定な中、働いていないことをさらに批判されるようになってつらい」
「ひきこもりが認められる一方で、それに甘えて、このままひきこもりがずっと続いてしまうのでは」
長年ひきこもりの支援を続けている社会福祉士の長谷川俊雄さんの元には、コロナの状況下で不安の声が次々に届いていると言います。

長谷川さんは、そうした状況を踏まえたうえで、基本的には、新型コロナの前と変わらない同じ生活を続けていればいいとアドバイスします。
長谷川さん
「過去を振り返ったり、未来を見て先取り不安にとらわれたりせず、『今』に注目して、『快適にひきこもる』ことが大切です。今までどおりひきこもっていれば、感染する確率は限りなく少ないはずですし、将来を悲観するような情報や報道から少し距離を置いてみるのもいいかもしれません。社会の状況が変わっているからと言って、それに流されず、あくまで自分のペースで生活することを心がけてほしいです」
また、「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」によりますと、全国各地の家族会も3月以降、開催できずにいるということです。

家族からは、「子どもと常に向き合わなければいけない状況がストレスになっている」とか「家で仕事をするようになった兄弟がぶつかる機会が増えて心配だ」といった声がメールなどで寄せられています。
上田さん
「コロナでみんなが大変なんだからと我慢してしまわないようにしてほしい。ホームページに情報を載せているので、悩みがある場合は、最寄りの家族会に電話などで連絡してみてほしい」

オンラインでつながる

一方で、新型コロナが広がる以前からひきこもりの人たちの間では、オンライン会議アプリなどで近況を語り合う「オンライン当事者会」が各地で開催されていました。

コロナの影響が長引く中で、新たな会が立ち上がったり、これまでは参加したことがなかった人にも広がりを見せ始めたりしています。

自身もひきこもりの経験がある現代美術家の渡辺篤さんが企画した『同じ月を見た日』も、そうしたオンラインでつながる試みです。

参加者は自分のカメラやスマートフォンなどで、空に浮かぶ月の写真を撮影。専用のウェブサイトで写真が名前や日時、場所とともに公開されます。
クレーターがはっきりわかるほどズームして撮られた月に、町中の看板と一緒に映り込んだ月、雲がかかってうっすらと見える月、自宅の庭から撮られた月…。みんな同じ1つの月ですが、それぞれが全く異なる表情を見せる写真が集まることで、1つの作品になります。

参加者たちが物理的には離れていて、それぞれが「孤立」している中でも、つながりを感じ、目には見えない他者に思いをはせてもらおうという仕掛けです。

参加できるのは、ひきこもりの当事者だけではなく、新型コロナによって孤独を感じるようになった人たちすべてです。

生きづらさや孤立をキーワードに生まれる新たなつながり

参加しているひとり、30代のpさんは、断続的に10年間にわたってひきこもってきました。現在も実家にひきこもっていて、リアルでの人づきあいはほとんどないと言います。
pさん
「きちんとした会社に行って正社員になったり、結婚して子どもと暮らしたりといった、社会の“当たり前”や“目標”に苦しめられてきました。このプロジェクトを通じて、自分たちのように、ひきこもって長期的に孤立を感じてきた人の気持ちを他の人に知ってほしいという思いもありますし、突然のコロナで、急に孤立を感じるようになった人たちの気持ちも聞いてみたいです」
家のベランダから見た月の写真を投稿したkarmaさんは、ひきこもりではなく、薬物依存症だと言います。新型コロナウイルスによって薬物依存症の自助グループも開催されなくなり、孤立を感じるようになっていたと言います。
karmaさん
「同じ月をそれぞれが撮って、いろんな視点から見た1つの作品が完成するというのにロマンを感じますし、みんなで作ることは孤独感を薄めることにもつながると思います。コロナはつらいし嫌だけれども、ひきこもる人たちとも、“孤立”というキーワードでつながることができて、壁がなくなっていくような気もしています」
また、東京都内に住む金綱志保さん(24)は、これまで長期間のひきこもりの経験はありませんが、知人からこの企画を教えられ参加しました。去年、仕事をやめて以来、農家や芸術祭などさまざまなアルバイトを続け、そろそろ別の仕事に就こうと動き出していたさなか、新型コロナの感染が広がりました。
金綱志保さん
「弟がひきこもっていたことがあるんですが、当時はどうしてひきこもれるのかなと思っていました。自分は、問題があれば外に出て行動することで解決していたタイプで、家にいると、焦燥感が募っていたんです。でも今、自分が家にずっといるようになると、ズルズルと不安な気持ちやネガティブな気持ちに飲み込まれていくことがわかってきました。この企画に参加して、今までは見る余裕のなかった月を、ゆっくりと見上げるようになると、同じように月を見ている人と自分がつながっているって実感できるようになったんです」
プロジェクトには、これまでに40人余りから投稿が寄せられ、今後も、およそ半年間にわたって撮影した写真を集めて掲載していくということです。

また、投稿者どうしがオンライン会議アプリで交流する仕組みも予定しているほか、コロナが収束した時に、投稿写真を使った映像作品を作って、展覧会を開くことも検討しているということです。
渡辺さん
「さまざまな生きづらさを抱える当事者たちが、やわらかくつながって、お互いについて考えるという行為自体に意味があると思っています。それが、社会における“孤立”やひきこもりの問題を解決する1つのきっかけになると考えています」

同じ月を見ていた

大きな厄災ともいえる状況に向き合っている私たち。社会とのつながりが薄れたり、人との関係が断たれたりして、孤独に押し込められそうになっている人もいます。そして、だれもが少しずつ傷つき、なにがしかの痛みを感じるようになっています。

しかし、そうした中だからこそ、自分以外にも『同じ月を見ていた』人がいる、ということに、気付いた人も多いのではないでしょうか。

実は、記事の中ほどで紹介した社会福祉士の長谷川俊雄さんの元には、ひきこもる当事者から、コロナによってよかったと思えることがあるという内容の声もたくさん寄せられていると言います。
「ひきこもりの生活を、多くの人が疑似体験してもらうことで、自分たちのことを理解してくれる人が増えるのではないか」
「親もコロナで家にいるようになって、『何もしていないだけと思っていたけれど、ひきこもるってこんなにもエネルギーがいることなんだね』と親に言われた」
アフターコロナの世界では、思い込みや偏見の壁が少しでも払われ、他人に優しいまなざしを向けられる、そんな社会に少しでも近づいていればいいなと思います。
ネットワーク報道部記者
高橋大地