新型コロナで変わる 持続可能なものづくり

新型コロナで変わる 持続可能なものづくり
新型コロナウイルスの感染拡大で、これまで以上に手洗いに気をつけている人が多いと思います。でも、部屋に入る時、トイレから出る時、思わぬ落とし穴があるのを知っていますか?

「ドアノブ」です。せっかくきれいに洗った手で触っていないでしょうか?

こうした課題を解決しようと、ドアノブに直接手で触れずに、腕で開けられる装置を、ベルギーのソフトウエア会社が発案しました。さらに注目されるのは、この装置、3Dプリンターを使えば、世界中どこでも作れるんです。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、持続可能な新たなものづくりへの変化を予感させる取り組みに注目です。(国際部記者 山田奈々)

ハンズフリーで感染防止対策

「ハンズフリー・ドアオープナー」と呼ばれるこの装置。

3Dプリンター用のソフトウエアを開発しているベルギーの会社「マテリアライズ」のバンクラン社長が考えました。
取っ手型や丸型などドアノブの形に合わせて、さまざまな種類の設計データを用意。

このデータを、樹脂や金属などを積み上げて製品を作る3Dプリンターで出力し、完成した部品を数か所ネジで留めるだけで、誰でも簡単に取り付けることができます。
材料費と電気代で、1個当たりの製作費はおよそ300円と安く作ることができます。

背景にあったのは、社員を新型コロナウイルスの感染から守らなければならないというバンクラン社長の使命感です。

社長は、社員どうしの接触を減らすため、社員を2つのグループに分け、出勤する日が重ならないよう対策をとりました。

しかし、ドアノブなどの硬くツルツルとした表面では、ウイルスがより長くとどまると専門家が指摘しているのをニュースで知り、たとえ出勤日を調整しても、ドアノブを介した感染リスクは避けられないと危機感を抱いたのです。

3Dプリンター用のデータを無料公開

データさえあれば、どこでも同じものを作ることができる3Dプリンター。

もともとは社員の命を守ることが目的でしたが、世界中で感染予防に役立ててほしいと、バンクラン社長は、設計データをインターネット上に無料で公開することにしました。
マテリアライズ フリード・バンクラン社長
「新型コロナウイルスの感染拡大で、物理的な移動が制限される今、どこでも簡単に、迅速に製品を作ることができる、ものづくりをローカライズできる3Dプリンターの技術はとても重要な役割を担っています。世界にプラスの貢献ができてうれしく思います」

患者への二次感染を防ぎたい医療現場

バンクラン社長のアイデアは、日本でも活用され始めています。

北海道大学病院の歯科診療センターでは、患者と接する医師やスタッフの感染予防を徹底することは、間接的に患者を守ることにつながると考えました。
治療に必要な歯や、手術に必要な顔の模型などを作るために使っていた、病院の3Dプリンターを活用し、この装置を作りました。

最初は、部品の強度が足りず、壊れてしまうトラブルもありましたが、試行錯誤しながら製作を重ね、今では建物内の8か所に取り付けました。最近では、感染予防を強化したいという他の病棟からも製作の依頼が寄せられていて、病院全体で活用が広がっています。
中でも、特に重要だと考えたのが、トイレのドアノブへの設置です。

トイレを使った後、きれいに手を洗っても、外へ出る際にドアノブに触れてしまっては、せっかくの手洗いがむだになってしまうと懸念していたのです。
北海道大学病院歯科診療センター 生体技工部 西川圭吾副技師長
「医療スタッフの中から感染者が出ると、病院の二次感染につながらないとも限らないので、できるだけそのリスクを減らすためにこの方法が重要と考えています。実際に使ってみて分かったのですが、あまり強い力を加えなくてもドアが開くような形に設計されていたり、ドアノブのサイズに合わせてデータを調整できるようになっていたりして、設計者のバンクラン社長の気持ちが伝わってくる感じがすごくしました」

感染予防のために自分にできることを

この装置を、自宅で使い始めた人もいます。

都内で、企業や個人向けに3Dプリンターなどの工作機械の技術支援を行う「東京メイカー」というラボを経営している毛利宣裕さん。
横浜市で、妻と2人の息子と4人で暮らしています。

知らず知らずのうちに、ウイルスを家の中に持ち込んでしまうのではないかという不安を抱えていましたが、この装置を使うようになってから、気持ちが楽になったといいます。

仕事柄、3Dプリンターなどの工作機械の扱いに詳しい毛利さん。設計データを無料で公開したバンクラン社長に共感し、自分も感染予防の役に立ちたいと考えるようになりました。
目を付けたのは、ハンガリーの首都、ブダペストのデザイナーがインターネット上に公開していたフェイスシールドの設計データ。

日本人の顔の形やサイズに合うよう調整し、そのデータを無料で公開しました。
東京メイカー 毛利宣裕社長
「こういう緊急事態の時にバンクラン社長のような1人のアイデアで、一瞬にして日本にいる私たちも感染予防できるのは本当にありがたいと思います。私も会社自体は仕事が激減していて、売り上げは非常に厳しい状態ですけれども、自分にできるノウハウを共有し合って皆さんで助け合えればという思いです」

持続可能なものづくりへ

「ハンズフリー・ドアオープナー」の設計データは、日本だけでなくアメリカや中国、ヨーロッパ各地でこれまでに3万回以上ダウンロードされています。

3Dプリンターの技術がうまく生かされ、世界がつながった形です。

バンクラン社長は、国境を自由に行き来できない新型コロナウイルスの危機の下では、グローバルなサプライチェーンは深刻に破壊されてしまうと指摘していました。そのうえで、3Dプリンターの技術を使えば、生産をローカライズでき、持続可能な生産体制を構築できるとも話していました。
安い労働力を使って、工場で大量にモノを作り、消費地へ送るという、グローバル化の象徴とも言えるこれまでのものづくりは、限界を迎えていると感じます。新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、ものづくりは、グローバルから、ローカライズへ、つまり消費する場所での多品種少量の生産へ、大きく変わるのではないでしょうか。

「コロナ危機には、世界中が強く結束できるというプラスの面もある。この結束が危機の後も続くことを願っています」というバンクラン社長のことばが強く印象に残りました。
国際部記者
山田奈々
平成21年入局
長崎局、千葉局、経済部を経て現在、国際部でアメリカ、ヨーロッパを担当