空室ばかりのホテルを見上げたら…コロナ禍の人々へメッセージ

空室ばかりのホテルを見上げたら…コロナ禍の人々へメッセージ
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新型コロナウイルスの感染拡大の影響で厳しい経営が続く東京のホテルでは、客室の照明を利用したイルミネーションを毎日行っています。この取り組みで勇気づけられたという声が相次いで寄せられています。
東京・港区にあるホテル『THE BLOSSOM HIBIYA』は、2月中旬から宿泊客が激減し、いまでは、255ある客室の予約が1桁にとどまる日も目立ってきていて厳しい経営が続いているということです。こうした状況の中、若い従業員から「少しでも社会に向けてできることをやりたい」という声が上がり、空室の部屋の照明をつけて、ホテル全体をイルミネーションで彩る取り組みを先月12日からはじめました。

従業員たちは、どの部屋の照明を使えばイメージしたデザインになるのかパソコンを使って図面をつくり試行錯誤を繰り返しました。日没前になると従業員たちは図面を見ながら手分けして空室をまわり、照明をつけてイルミネーションを作っていました。

デザインは前向きに行こうというメッセージを込めた「スマイル」や「stay home」を意味する「家の形」など10種類あり毎日デザインを変えています。ホテルによりますとSNSでも話題になり感謝のメールが相次いでホテルに寄せられ、中にはイルミネーションのアイデアを送ってくる人も出てきました。

ホテルの従業員坂口莉紗さんは「私たちも元気が出てモチベーションもすごくあがっています。今は会えないですが、いつかメールをくれた人たちと実際にお会いして感謝を伝えたいです。まだまだ先かもしれませんが、頑張っていきたい」と話していました。このホテルでは緊急事態宣言が解除されて宿泊客が増えるまで客室のイルミネーションを続けることにしています。
東京新橋に住む慶應義塾大学大学院生の工藤大樹さん、22歳は、ことし北海道の大学を卒業し都内の大学院に進学しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で入学式は中止となりオンラインでの講義は始まったものの大学院での講義は行われていません。

先月14日に自宅から見えるホテルのイルミネーションに気付きました。趣味の写真を生かしてそのデザインを撮影しているうちに、新型コロナウイルスで苦しんでいる人たちを応援しているものだと感じ始めました。

「自分も何か役に立てないか」と思った工藤さんは先月30日にホテルの部屋の数などをもとに6種類のデザインを考え出し、ホテルに送りました。そして5月の大型連休のとき、工藤さんが自宅からホテルをみると自分が送ったアイデアがホテルを彩っていることに気付きました。そのデザインは「家の形」です。「stay home」のメッセージが込めていました。

ホテル側と直接、話はしていませんでしたが、工藤さんは「自分が考えたアイデアを採用してもらえて、役に立ててうれしかった。ホテルの人とは会ったことは無いけど、外出自粛の状況のなかでも人とつながっているという気持ちになれました」と話していました。
ホテルには感染拡大に不安を抱える人からの感謝のことばが届いています。都内の病院で働く30代の医師の女性は、先月12日の初点灯の日、帰宅途中にイルミネーションをみてどこでやっているのか気になり、探し回ったといいます。

女性は直接、新型コロナウイルスの患者の治療にあたってはいませんが、みずからが感染した場合、患者に迷惑をかけ、医師としての役割を果たせないのではないかと不安に感じていたといいます。また、医療従事者に対して心ないことばをかけられるケースがあることを耳にするたびに、ストレスを感じていたといいます。

そうした状況の中イルミネーションを見てホテルにメールを送りました。メールには「都内の病院に勤務しており、感染リスクのストレスを抱えながらも毎日見ては、気持ちがホッコリしていました。こんな世の中ですが、小さな私の大きな安らぎとなっております。ありがとうございます。また必ず平和な世の中になります。そのときまで、少しの辛抱です」と書かれていました。

この女性は、「このような毎日を送る中で、ホテルのイルミネーションは、心を和ませてくれる存在で、ホテルの取り組みに感謝しています」と話していました。
ホテルには外出の自粛で周囲の人たちと会うことができない高齢者からのメールも届いています。メールを送ったのは東京港区に住む72歳の女性で、76歳の夫と2人で暮らしています。

2人は新型コロナウイルスの感染を防ぐために、生活に必要な用事以外は外出を控えていて、都内に住む子どもや孫、それに知人とも会わないようにしているということです。感染への不安を抱える中、5月の大型連休中に自宅の窓からイルミネーションを見つけました。自宅いる時間が長くなり、気持ちが落ち込む毎日でしたが毎晩、デザインが変わるホテルのイルミネーションを夫婦一緒に見ることが毎日の楽しみになっているということです。

女性は「イルミネーションを見るたび、心が暖かく、優しく、そして元気が出ます。医療従事者の方々をはじめ、たくさんのつらい思いをなさっている皆様がこのイルミネーションを見上げたら、どんなに慰められ、励まされていることかと思います。ホテルの皆様は、お気を付けて、御仕事頑張ってください」と話していました。