コロナ危機で考える おいしいとんかつと金融

コロナ危機で考える おいしいとんかつと金融
「融資は、傷にとりあえずばんそうこうを貼るようなもの」
城南信用金庫の川本恭治理事長はそう語る。新型コロナウイルスの大打撃を受けている中小企業の資金繰りを、金融機関は緊急融資で支えている。しかし、それだけではだめだという。14日に39の県で緊急事態宣言が解除され、コロナ問題は新たなフェーズに入った。経済活動の再開が見えはじめた。だが、暮らしも商売も「コロナ前」に戻ると、いまは考えにくい。感染拡大の第二波、第三波に警戒しながら事業の継続を模索する企業に、金融機関はどう向き合っていくのか。(経済部記者 野口恭平)

書類の山から見える“厳しさ”

東京都内や神奈川県で営業している城南信用金庫。品川区にある本店を、私は5月中旬に取材した。
融資を担当する部署に行き、目にしたのは書類の山。「新規事業先」や「既存先」などと分類されて机に積み上げられていた。地域の中小企業からの融資の申し込みだ。

「新規事業先」はこれまで取り引きがなかった企業だ。メガバンクなどに融資の相談をしたところ「今は忙しいので実行まで時間がかかる」などと遠回しに断られ、相談に来るケースも多いという。

いかに多くの企業が厳しい状況に陥っているか。書類の山が物語っていた。

融資は4倍に

信金には、3月以降、6100件の融資の申し込みがあった。すでに3070件には融資を実行した。実行件数は去年の同じ時期の4倍に上るという。

残りのおよそ半分の申し込みは、自治体や信用保証協会の手続きが終わるのを待っている段階だ。手続きさえ終われば融資を実行するものがほとんどだという。

収束待つ老舗の割烹

信金から融資を受けたお店を訪ねた。

品川区の割烹料理店「ひろせ」。とんかつや特大のエビフライが人気の老舗だ。信金とは長いつきあいだという。
5代目社長の廣瀬慶人さんに話を聞かせてもらった。いつもはこの時期、歓送迎会などで予約がいっぱいになるというが、ことしはほとんどがキャンセルに。4月の売り上げは前年と比べて9割減だったという。

厳しい状況を少しでも挽回しようと、廣瀬さんの店でもとんかつ弁当のテイクアウトを続けている。お店の2階、いちばん奥の個室は、お弁当の容器などが山積みになり、臨時の物置になっていた。
「床の間つきのいちばんいい席なんですけどね…」
部屋を見せてくれた社長の悔しさが伝わってきた。慣れないテイクアウトを続けながら、店は感染の収束を待っている。

融資だけではダメ

廣瀬さんの店をはじめ、地域の中小企業や飲食店の厳しい日々をつないでいるのが信金の融資だ。
信金自身もコロナの影響を受けている。感染防止のために、職員の半数を出勤、半数を在宅勤務とし、少ない人員で融資に対応してきた。

城南信金の川本恭治理事長に、信金の役割について尋ねた。すると理事長はこう返してきた。
川本理事長
「資金の手当てはやって当然。融資は、傷にとりあえずばんそうこうを貼るようなもの。私たちがやらなくてはならないのは本業の支援なんです」
信金では業界団体のトップも務めた3代理事長・小原鐵五郎の「貸すも親切、貸さぬも親切」ということばが語り継がれている。本当に顧客にとって必要なことは何なのかを考えろ、という意味だという。

川本理事長は、コロナとの戦いは長期戦を覚悟している。今どのように事業を続けるか、そして、感染が収束し経済活動が再開したあと、取り引き先の商売をどう支え、盛り上げていくのか。そのアイデアを出すことが信金の役割だと強調する。
川本理事長
「信用金庫の使命は困っている人を助けること。地域の企業と経済を守るためにどんなことでもしていく。そのために全職員にアイデアを出させている」

コロナ後をみすえて

割烹料理店「ひろせ」の廣瀬社長も、コロナ後の商売に思いをめぐらせている。考えているのがテイクアウトの強化だ。
廣瀬社長
「コロナが落ち着いたとしても会社の接待や家族の食事会の在り方は元のとおりには戻らないと思っています。老舗だからといって、お店に来てもらうことだけを考えるのではなく、自宅での食事会向けのメニューとか、コロナ後の新しい生活様式に対応しなければいけないと思っています」
廣瀬社長は信金の担当者と相談を続けている。信金は、ほかの飲食店と差別化するために、ふだんのお弁当メニューだけでなく、宴会などに使える豪華なパックメニューをそろえてみてはどうか、と提案している。

「おうちでひろせ、なんてどうです?」
集客用のチラシのデザインやキャッチコピーも一緒に考え、無料で作成した。できたチラシは信金の店舗に置いたり、職員が営業のついでに取引先に配ったりして、売り上げアップを手伝うことにしている。
廣瀬社長
「売り上げがどうなるか、支払いは大丈夫かと、日々の不安で頭がいっぱいになってしまう。寄り添ってアドバイスをしてくれる存在は頼りになります」
信金は、こうした支援を、他の取引先に対しても行っている、という。取引先の町工場を大手のメーカーに紹介して、取引拡大の支援をしているほか、海外から再び観光客を呼び込めるよう外国人向けの観光案内の整備なども進める。

金融は役に立てるか

企業の本業を支援する。コロナウイルスにかぎった話ではもちろんない。金融庁も去年、地域の金融機関に対して「真の経営課題を的確に把握し、その解決に資する方策の策定やアドバイス」をするようにと強く求めた。

地銀の関係者は「コロナの非常事態に、今はまだ、どこもお金を貸すことに精いっぱいだ。しかし、本業支援の手腕がこれから先、銀行の優勝劣敗を決するだろう」と指摘する。

緊急事態宣言が39県で解除され、厳しい外出自粛の要請も、ひとまず終わりが見えてきた。しかしコロナ後、消費や生産、働き方、あらゆるものが見直され、不確かさも増す。

顧客にどこまで寄り添って支援ができるのか、金融機関の力が試されている。
経済部記者
野口恭平
平成20年入局
徳島局を経て経済部
電機業界や・国交省などを経て現在、金融を担当