コロナで揺れた中国 “ライブコマース”でビジネス拡大も

コロナで揺れた中国 “ライブコマース”でビジネス拡大も
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルス。中国でも多くの店が長期間の休業を強いられました。それでも、閉店期間中に客層を拡大したり、売り上げを伸ばしたりした店舗もあります。その秘密は、中国で以前から注目されていた、ネットを使った中継販売、「ライブコマース」と呼ばれる手法でした。(中国総局記者 吉田稔、広州支局記者 馬場健夫)

中国の消費を襲った新型コロナショック

世界で最も早く新型コロナウイルスの感染が拡大した中国。

感染拡大を抑えるため、1月末からスーパーや薬局など一部の業種を除く大半の店舗が一斉に休業しました。人の移動が規制されて、旧正月=春節で帰省した従業員がふるさとから戻れず、人手が確保できなかったり、営業の再開に厳しい衛生基準が設けられたりしたことから、多くの店舗が長期の休業を余儀なくされました。

中国国家統計局のまとめでは、1月から2月までの2か月間の中国の小売売り上げ総額は、去年の同じ時期に比べてマイナス20.5%。3月もマイナス15.8%と大きなダメージを受けたのです。

創業160年余、老舗靴店にも打撃

天安門広場に近接し、北京を代表する観光地「前門」も、大きな打撃を受けました。

北京市政府は感染者の流入を防ぐため、市外から北京を訪れる人たちに14日間の隔離を求めるなど、移動の規制を強化したことから、観光客がいなくなり、閑古鳥が鳴く状況になってしまったのです。
ここに店を構える靴店「内聯昇」。ことしで創業167年を迎える布靴の老舗です。
宮廷官僚の靴を手がけ、中華人民共和国の成立後も毛沢東をはじめ著名人に愛用されたという店も1月末から休業。4月初旬に再開したあとも、客足は以前とはほど遠い状況が続きました。

老舗が挑んだ新手法

この苦境をどう乗り切るのか。店が乗り出したのがスマートフォンを使ったネット中継販売、「ライブコマース」です。

中国では、アリババなど大手のネット通販事業者が4年ほど前から、この販売方法を広めていました。
出演するのはベテランの販売員。撮影や演出の指示を出すディレクター、商品の靴を用意する裏方もすべて従業員。手作りで始めた中継でした。

2月下旬に行った初めての中継では、ベテランの靴職人が登場。「千層底」と呼ばれる、何十枚も布を重ねた靴底の手法を紹介するなど、伝統の技術に裏付けられた品質をPRしました。
回を重ねるごとに視聴者が増え、100足近い靴を紹介する、4時間ぶっ続けのマラソン中継では、視聴中に「いいね」を押す人が4万人を超える人気ぶりでした。かつて来店客が多い日でも1万人前後だったことを考えると、ライブコマースの反響の大きさに店の関係者も驚いていました。

客層拡大!思わぬ効果

中継の効果もあって、この店では3月、ネットだけで去年の同じ月の半分程度の売り上げを確保することができたと言います。

さらに、効果はそれだけではありません。ネットを通じた購入者の実に7割が35歳以下の若い世代でした。従来の中高年が中心だった客層が、思わぬ形で拡大したのです。
この店の程旭副社長は「新型コロナウイルスがなかったらネット中継に挑戦することもなかっただろう」と話しています。

そして、実店舗が再開した今もライブコマースを系列店に拡大していくとともに、「ネットでつかんだ客層を実店舗に誘導する仕掛けを考えていきたい」と新たなビジネスの可能性に意欲を示しています。

目指せライブコマースの都

このライブコマースに大きく舵を切ったのが、南部の商業都市、広東省広州です。

地元政府は3月、「ライブコマースの都」を目指す計画を発表しました。今後3年で中継キャスター1万人を養成し、飲食・旅行・自動車・教育などさまざまな業界で、中継販売を展開するほか、専門のシンクタンクまで設立する方針です。
実際、広州の街を歩くと、ライブコマースの広がりを実感します。
ウイルスへの警戒が続く影響で繁華街や商業ビルの客は少なく、シャッターを閉じた店も少なくありませんが、店舗の中では、慌ただしく服を着替えながら、ネット中継をしている様子を、あちこちで見かけます。
広州では、100以上の卸売市場で中継販売が行われているとも言われています。

店長がキャスターに転身で売上アップ

ライブコマース熱が高まる中、例年より売り上げを伸ばした会社も登場しています。

全国に14店舗を構える広州のアパレルメーカーは、ウイルスの影響で全店舗で一時、営業ができなくなりました。そこで、このメーカーもライブコマースに挑戦しました。
2月、工場の横に、見栄えのいいインテリアなどを備えた、専用の「ネット中継スタジオ」を整備。週に6日、中継販売を始めました。

その効果は絶大で、2月から4月中旬までで、実店舗の売り上げは去年の同じ時期の40%に落ち込んだものの、中継販売がそれを補う形で、全体の売り上げは10%上回ったといいます。
販売をけん引しているのが、販売店の店長から、キャスターに抜擢された新小晴さん。客からのコメントに応えて、さまざまな服の組み合わせを提案して人気を集めています。

モデルのような着こなしでファンも増え、17時間連続の中継で、日本円で1800万円分の売り上げを記録したこともあるといいます。
新小晴さん
「とても楽しいです。毎日、私のことを待っていてくれるファンもいますし、前に進む原動力になります。疲れて休みたいと思っても、頑張れます。店の売り上げは大きな影響を受けましたが、ネット中継は私にとって大きなチャンスです」

キャスター増員で事業拡大へ

このアパレルメーカーの会長、応梅瓏さんは、ウイルスの感染が拡大していた時期は、およそ600人いる従業員の雇用や、会社の存続をめぐり大きなプレッシャーがあったと言います。

しかし、ライブコマースで状況は一変。さらなる事業拡大を目指して、今後はキャスターを20人に増やすほか、同業他社とも連携して新たに大規模な中継スタジオを整備し、合同で研修事業にも取り組む方針です。
応梅瓏会長
「ネット中継がなければ、会社は生き残れていなかった。ライブコマースのおかげで、会社をより強大にしていけるだろう。海外の華僑にも視聴者がいるので、販路を広げていきたい」
応さんが今、力を入れているのが販売員や会社の事務員をキャスターにする研修です。そこでも、センター的存在の新小晴さんが、新人たちに中継のノウハウを熱心に伝えています。
新人さん
「中継する時、緊張するんです。多くの人を目の前にしているみたいで、怖く感じます」
新小晴さん
「いい中継をしたいなら、自分から視聴者と交流して、彼らのことを知ることが必要です。私たちはモデルじゃなくて、キャスターなんだから。何時間も、しゃべって、着替えて、を繰り返すと、のどや腰も痛くなる。でも、例えば1日1000着売るという目標を立てたなら、達成するまで中継を頑張るの。睡眠時間がもったいないわ」
新人の包子さん
「私は普通の女の子で、まさか自分がカメラの前で全国の人と交流するなんて、思いもしませんでした。最初は戸惑いましたが、だんだんと好きになってきました」
中国では新型コロナウイルスをきっかけに、会議、診察、授業など、様々なオンライン上のサービスが急拡大しています。

ウイルスによって経済・社会が甚大な影響を受ける中、中国の人たちは生き残りをかけて「新しいものにチャレンジする」意識を強めているように感じます。

今回の問題をきっかけに、中国でどのようなサービスが生まれるのか。引き続き注目していきたいと思います。
中国総局記者
吉田稔
平成12年入局
経済部で財政・貿易を担当
平成29年より現職
広州支局記者
馬場健夫
平成19年入局
秋田局、名古屋局、国際部を経て現職