コロナから島を守ってくれてありがとう

コロナから島を守ってくれてありがとう
「診療所が1つ。新型コロナウイルス感染症に対応できる医療機関はありません」

医療体制も経済基盤も弱い離島も、新型コロナウイルスで大きな影響を受けています。こうした中、ウイルスが持ち込まれることへの恐れや怒りではなく、感謝の気持ちやつながりで島を守ることができたら…。

「島を守ってくれてありがとう」の呼びかけが、各地で広がりを見せています。

「感染確認」のインパクト

今月9日。東京都の御蔵島村は、村議会の議長が新型コロナウイルスに感染したと発表しました。都心から約200キロ。島しょ部では初めてとなる感染確認に緊張が走りました。

日本にある有人の離島は416。医療体制の脆弱さと限られた生活圏での感染拡大への懸念。

生活物資を運ぶフェリーで感染者が出た場合、運航を一定期間止める必要もあるなど、たとえ1人の感染であっても、本土のそれと比べてインパクトは大きく、多くの島が、観光目的などの来島の自粛を呼びかけています。

募る不安

山形県酒田市から北西に約40キロにある飛島は人口180人余り。島全体が国定公園で、バードウォッチングや海水浴などが楽しめる山形県唯一の離島です。

先月、春の観光シーズンを前に酒田市は来島自粛を呼びかけました。飛島に常駐の医師はいません。島民の8割近くが高齢者で、感染すれば重篤化や集団感染につながるおそれがあります。旅館や民宿の経営者も予約を断ることを決断するなど、暮らしと健康を守りたい島民の「総意」として発信された強いメッセージでした。

8年前に島に移住し、地域づくり会社の共同代表の松本友哉さんは、「島の医療は万全ではないし、観光客も増える時期なので島民の間で不安の声があった」と話します。

医師が感染源のリスクに

来島自粛の影響は、島外から島に派遣される医師も例外ではありません。有人の離島が7つある鹿児島県十島村も、島に医師は常駐しておらず、それぞれの島に暮らす看護師が医療を支えています。

月に2度、鹿児島市の病院と比較的大きな病院がある奄美市から医師が巡回して診療をしてきましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、病院側からの「医師が感染源になるリスクがありうる」という申し出を受け、先月下旬以降、巡回診療を一時的に停止しました。
代わりにテレビ会議システムを使った遠隔診療に切り替えました。診療を受けた住民の1人は、「私は遠隔でも気にならないが、健康に不安のある人は心細いかもしれない」と話していました。

重症患者が出た場合は、これまでと同様に県や自衛隊のヘリコプターで対応します。診療にあたっている鹿児島赤十字病院の永井慎昌医師は「巡回をやめざるをえなかったのは心苦しいです。今は遠隔診療で、できる限り患者さんたちが安心できるように心がけたい」と話していました。

#南の島を守ってくれてありがとう

島の外から支援できることはないかと動いている人たちもいます。ツイッター上で「#南の島を守ってくれてありがとう」と呼びかけるこのメッセージ。奄美大島出身で関東に住む大学生の小野楽々さんと田中杏さんが投稿しました。

「島に来ないで」と否定的な表現で呼びかけるのではなく、あえて感謝の気持ちを込めて前向きな表現にすることで、多くの人たちの共感を広げたいと考えたのです。他の離島が置かれた状況も同じだという思いから「南の島」と表現しました。
大型連休を控えていた先月25日の呼びかけのあと、この言葉を添えた投稿は1日で目標の10倍を超える2万件余りになりました。

その後も賛同の声は広がっていて島の様子を紹介する映像や自粛を余儀なくされる状況を励まし合うメッセージが投稿されています。
田中杏さん
「たくさんの人が島のことを思ってくれていると分かったのがうれしかったですし、島の人たちのつながりの強さを感じました」
小野楽々さん
「自分たちの活動が観光業の人たちを苦しめてしまったのではないかという葛藤もあるので、収束したら今度はたくさんの人が奄美に来てくれるような活動をしたい」

「こんどおぢかに行く券」

「島の医療は診療所が1つ。医師は2人。新型コロナウイルス感染症に対応できる医療機関はありません」

ホームページにこのように書いて来島自粛を呼びかけているのは、長崎県五島列島の北部にある人口約2400人の小値賀町。

小値賀町は、人とのつながりに注目して難局を乗り切ろうと模索しています。
町の観光窓口業務を委託されているNPO法人は、当面の収入を確保するとともに事態の収束後に観光客などに訪れてもらおうと、島内の宿泊施設や飲食店で使える一部プレミアムの付いた商品券、「こんどおぢかに行く券」をインターネットで販売しています。

販売開始から今月10日までの1か月間で106人が、合わせて122万円余りを購入。その8割ほどが島を訪れた経験のある観光客や島の出身者と見られるということです。

購入した人からは「島を訪れる日を楽しみに自粛頑張ります」とか、「元気な小値賀が戻りますように」などと応援するメッセージも届いているということです。

NPO法人の担当者は、「皆さんが大変な中、島外から島のことを支えてくれる人がいて本当にありがたい」と話しています。

「島が好きだからこそ今はいかない」ベースに

多くの離島を訪れ、島の人たちと一緒に離島振興の仕組みを考えている一般社団法人「離島総合研究所」の上田嘉通代表理事に、来島自粛が続く中で求められることは何か聞きました。
「『島が好きだからこそ、今はいかない』という考え方をベースに、かつて泊まった宿の人に『最近どうですか』と聞いてみる。島の特産物を売っていたらそれを買うのもいい。島の人たちが一番不安なのはお客が離れてしまうこと。電話やメールでもいいので、『収束したら遊びにいくね』と気持ちがつながっていることを可視化するのが大事です。そうした信頼関係で観光を維持していく仕組みを作っていくことが必要です」

キーワードは『近き者説(よろこ)び 遠き者来たる』?

そのうえで、新型コロナウイルスの収束後について次のように話しました。
「宿泊業など経営が大変厳しい面もありますが、長崎県の壱岐島のように行政が資金援助して島の人たちに地元のホテルなどに宿泊してもらう『内需』を掘り起こす取り組みもみられます。キーワードは論語にある『近き者説(よろこ)び 遠き者来たる』。島の人たちが地元の魅力を再発見し、楽しむ姿を見て、観光客が訪れたくなる。『地元の人が行く店にいきたい!』というように。緊急事態宣言が解除されてV字回復とはいかなくても、少人数でも価値が分かる人に付加価値があるサービスを提供する。量より質へのシフトが加速し、新型コロナ前より進化していく姿が見えてくるのではないかと思います」
(鹿児島放送局記者 高橋太一/長崎放送局記者 玉田佳/山形放送局記者 桐山渉 カメラマン 小川耕平/ネットワーク報道部記者 郡義之)