活動再開のドイツ経済 頼みの綱は…

活動再開のドイツ経済 頼みの綱は…
ヨーロッパではいま、新型コロナウイルスの感染拡大を抑え込むためにとられた厳しい制限措置が徐々に緩和され、経済活動を再開する動きが少しずつ広がっています。こうした中、ヨーロッパ最大の経済大国ドイツが、大幅な制限緩和策を打ち出しました。世界各地でウイルスとの闘いが続く中、欧米の主要国の先陣を切る形で大幅な緩和に動いたドイツ。経済立て直しに向けた頼みの綱は、やはりあの産業でした。(ベルリン支局長 山口芳 ロンドン支局記者 栗原輝之)

真っ先に選ばれたのは…

ドイツのメルケル首相は今月6日、3月から続けてきた制限措置を大幅に緩和すると発表しました。国内のすべての商店について営業再開を認め、レストランやホテルそれに映画館などは、感染状況を見ながら、州ごとに段階的な再開を判断することが可能だとしたのです。

ドイツではすでに感染者数が17万人を超え、死者の数は7700人を上回っています。そうした中でドイツ政府が大幅な制限緩和を決めたのは、これに先立って先月20日から始めた制限の一部緩和以降、新規の感染者数が減少傾向だったことが背景にあります。

先月始まった制限の一部緩和では、広さ800平方メートル以下の小・中規模商店の営業再開が認められました。しかし、このとき、店舗面積の大小にかかわらず営業再開が認められた店があります。
自動車の販売店です。自動車の販売店が含まれたことは、ドイツ政府がいかに自動車関連産業の活動再開を重視しているかを端的に示していると言えます。

7人に1人が自動車産業に

自動車産業はすそ野が広いことで知られます。1台の車を作るのに多数の部品を要し、生産から販売に至るまで、実にさまざまな仕事が関わります。

ドイツ自動車工業会によりますと、ドイツでは、就業者の7人に1人が自動車関係の仕事についているとみられるということです。
ユンカー副部長
「ドイツ経済にとって、非常に決定的な意味をもつ産業だ」

再開後も感染対策を怠れず

先月下旬、自動車販売店の再開状況を取材するため、首都ベルリンから車で2時間半ほどのウォルフスブルクを訪れました。自動車最大手フォルクスワーゲンの本社がある“城下町”です。
1か月ぶりに営業を再開したという販売店を訪問してまず目にとまったのが、入り口に備えられた消毒用ジェルと薄いゴム手袋。

展示車両のハンドルはまめに消毒していました。客に安心して買いに来てもらうため、対策は怠れないといいます。

店長は、売上げ回復に期待を寄せていました。
ブッフバイツ店長
「再開した瞬間は感情が高ぶりました。衛生管理を徹底していることがわかれば、きっと客は戻ってくるでしょう」

変わる自動車生産現場

販売店の営業再開と同じタイミングで再開したのが自動車生産です。車の組み立ては、政府の制限措置の対象外でしたが、販売店の営業がストップした影響などで、自動車各社はドイツ国内での生産の一時休止を余儀なくされました。

このうち、フォルクスワーゲンは先月下旬、本社工場での生産を再開。ただ、工場内の様子はこれまでと大きく変わりました。
従業員が互いに一定の距離を保ちながら作業にあたれるようレイアウトが変更され、生産はフル稼働のときの10%程度の水準からスタートしました。

それでも会社は「段階的な再開はドイツ経済全体にとって重要なシグナルになる」と意義を強調しました。

再びねらう“成功体験”

自動車産業を取材して見えてきたもう1つのポイントは、ドイツの雇用維持制度です。景気低迷で仕事がなくなった従業員を対象に、減った賃金のうち最低6割を国が雇用主を通じて給付するしくみです。

この制度は、かつてリーマンショックの影響に見舞われた際に多くの企業が活用し、従業員の雇用の維持につながったということです。企業にとっては、従業員を雇用し続けたことで、生産回復の局面で一気に増産に転じることが可能になり、ドイツ経済の比較的早い立ち直りの要因の1つになったとも指摘されています。

ドイツ政府はそのときの経験を生かそうと、今回は制度の適用要件を緩和し、給付する額も増やすことを決めました。申請できるのは、従来、仕事が減った従業員の割合が「全体の3分の1以上」になった雇用主でしたが、これを「全体の1割以上」に緩和し、より多くの企業が申請できるようにしました。

さらに、労働時間が半分以下になった従業員に対しては、給付の割合を、4か月目からは減った賃金の7割に、さらに7か月目からは8割に引き上げました。
ドイツが今回この制度に投じた資金は日本円でおよそ1兆2000億円。すでに75万社が制度の利用を申請しました。給付の対象者は、リーマンショックの影響を受けた2009年の330万人を大幅に上回り、1000万人を超えているということです。

すそ野に広がる制度利用

制度の利用は、自動車メーカーと取り引きがある企業にも広がっています。
ドイツ南部にある工業用ファンのメーカーでは、これまで売り上げのおよそ2割が自動車メーカー向けでした。ところが、感染拡大の影響で自動車メーカーが一斉に生産を取りやめた結果、受注が激減。

会社は従業員の雇用を維持しようと、ドイツ国内にいる6700人の従業員のうち半数について、労働時間を減らす措置をとりました。しかし、特に自動車向けのファンの生産などに携わるおよそ700人については、仕事がなくなったため、一時的に会社を休んで自宅待機にしてもらわざるを得なくなりました。

ただ、国の制度を活用して従業員が給付金の支給を受けることができるため、解雇はしていないということです。
ブランドルCEO
「従業員は優秀です。危機のあとも働き続けてほしいと思っています。この制度がなかったら、解雇しなければならなくなっていたでしょう。受注があれば、すぐにでも従業員に戻ってきてもらうことができ、柔軟に対応できるのです」

首相は第2波への警戒緩めず

制限措置の大幅な緩和策を発表したメルケル首相は「感染拡大のはじめの局面は乗り越えた」と語りました。
首都ベルリンの中心部は、ほとんどの店が閉鎖され人けがなくなった3月と比べると、出歩く人の数がぐっと増えてきたと感じます。生花店や美容院も営業を再開し、街の活気や彩りが少しずつ戻り始めています。しかし、再び感染が拡大すれば、直ちに制限措置が復活する状況にあります。

メルケル首相は「慎重であり続けなければならない」と述べ、感染の第2波への警戒を解いていません。

ドイツ経済研究所のユンカー副部長はこう指摘します。
ユンカー副部長
「ウイルスに打ち勝つことさえできれば、ドイツ経済の回復は比較的早く進む可能性が高い。問題はこの危機がいつ終わるかだ」
感染の終息が見通せない中、正常化に向けて大きくかじを切ったドイツは、今後どのような経過をたどるのでしょうか。ヨーロッパのみならず世界経済の行く末をも左右しかねないドイツの動向に、関心が集まっています。
ベルリン支局長
山口芳
平成20年入局
函館局、札幌局、国際部を経てドイツの政治・社会を取材
ロンドン支局記者
栗原輝之
平成11年入局
経済部などを経て、現在ヨーロッパ経済を担当