「解除されてもどこに住めば…」宿泊所の9割が受け入れ不可

「解除されてもどこに住めば…」宿泊所の9割が受け入れ不可
生活が困窮し、住まいを失った人たちの宿泊場所として自治体が紹介している「無料低額宿泊所」。NHKが取材したところ、都内の宿泊所の9割近くが満室や感染防止を理由に入居者の受け入れができない状態になっていることが分かりました。
「無料低額宿泊所」は、生活保護の受給者などが無料または低料金で宿泊できる民間の施設で、東京都には全国で最も多い、合わせて150の宿泊所が届け出ています。

新型コロナウイルスの影響で住まいや居場所を失う人が急増する中、都はビジネスホテルに一時的に滞在してもらう取り組みを進めていますが、生活保護を申請した人については、自治体の福祉事務所が「無料低額宿泊所」を紹介するケースもあります。

しかし、NHKが宿泊所を運営する法人などに取材したところ、13日までに少なくとも全体の9割近くにあたる131の宿泊所が満室や感染防止を理由に入居者の受け入れができない状態になっていることが分かりました。

このため、先月の緊急事態宣言のあと、宿泊所側が断るなどして入居できなかったケースが相次いでいて、その数は少なくとも140件以上に上っています。

背景には、宿泊所での「3密」を防ぐため入居者の数を制限していることや、感染拡大の影響で入居者が新たに仕事やアパートを探して自立することができず、入れ替えが進まないことなどがあるということです。

生活保護申請した男性 “宣言解除後の住まいに不安”

緊急事態宣言が長期化する中、悩み抜いた末に生活保護の申請を決断した人もいます。

都内の飲食店で働いていた33歳の男性です。

以前は月に18万円ほどの収入がありましたが、先月初め、飲食店のオーナーから「しばらく出勤しないでほしい」と告げられ、収入がなくなったといいます。

男性は以前、店員向けの寮などで生活していましたが、3年ほど前からは寮に入ることも難しくなり、ネットカフェで寝泊まりする生活を続けてきました。しかし、緊急事態宣言を受けた東京都の休業要請で、先月12日からはネットカフェも利用できなくなり、収入と居場所を一気に失ったといいます。

それから、男性はおよそ3週間にわたって初めての路上生活を余儀なくされたということで、今月1日に取材した時点では所持金が1円もなく、「3日間、何も食べていない」と話しました。

男性は先月中旬、生活困窮者を支援するNPOのスタッフから生活保護の申請を勧められていましたが、申請すれば関係が悪化していた家族に扶養照会の連絡が行くことなどへの抵抗感から申請をためらっていました。

しかし、緊急事態宣言が延長される中、今後の収入の見通しが立たないとして、今月8日、区の窓口で生活保護を申請しました。

男性は当面の生活費の支給を受け、緊急事態宣言が出されている間は都の支援策によってビジネスホテルに宿泊できますが、解除されたあとに住まいを見つけられるかどうか不安を抱えています。

男性は、「緊急事態宣言が解除されてもすぐに仕事が見つかるかどうか分からず、ホテルを出た後、どこに住めばいいのかもまだ分かりません。生活保護を申請しても不安はいっぱいあります」と話していました。

生活困窮者の住宅確保は

生活に困窮し、居場所を失った人たちの住まいをどのように確保していくのか。

東京都は、緊急事態宣言に伴うネットカフェへの休業要請で居場所を失ったり、収入が途絶え住まいを失ったりした人たちの一時的な宿泊施設としてビジネスホテルの部屋を無料で提供していて、12日の時点で延べ914人が利用しています。

しかし、生活保護を申請した人がホテルに宿泊できるのは緊急事態宣言が解除されるまで。今のところ今月31日までとなっています。

都はその後も400戸分のアパートの部屋を新たに確保するとしていますが、対象になるのは生活保護を受けずに自立した生活を目指す人で、生活保護の受給者はみずから住まいを探す必要があります。

一方、区や市の福祉事務所は生活に困窮している人についてビジネスホテルだけではなく「無料低額宿泊所」への紹介も行っていますが、宿泊所の多くがすでに満室になっていて、住まいをどう確保していくのかが課題となっています。

新宿区生活福祉課の片岡丈人課長は「無料低額宿泊所の部屋も埋まってきている状況で、満室を理由に施設側から入居を断られるケースもあった。今後、住まいを失う人がさらに増えることも考えられ、緊急事態宣言が解除されたあとの対応が課題になっている」と話しています。

専門家「生活困窮者の住環境確保の仕組み必要」

貧困や生活保護の問題に詳しい日本福祉大学の山田壮志郎准教授は、「無料低額宿泊所は狭い部屋に多くの人を住まわせるケースもあり、居住環境が必ずしもよくないという問題が指摘されてきたが、特に東京のように家賃が高い地域では生活保護で入居できるアパートが少ないことなどから、行政が宿泊所に頼ってきた面がある。その宿泊所が受け入れ切れなくなった今、生活に困窮した人がアパートなどの居住環境をきちんと確保できる仕組みを行政側が作る必要がある」と指摘しています。

そのうえで、「住まいがなく、ネットカフェに寝泊まりせざるをえない人などをいわば放置してきた住宅支援の問題が今回の緊急事態宣言によって表面化した。今回、都が行っているビジネスホテルの提供などの支援を継続したり、アパートに入居できるよう生活保護の基準額を引き上げたりすることを検討する必要があるのではないか」と話しています。

無料低額宿泊所 “すでに満室の状態”

都内の5つの区で無料低額宿泊所などを運営する東京 台東区のNPO法人「自立支援センターふるさとの会」は、生活に困窮し、居場所のない人たちを受け入れています。

自立が見込める入居者については、就労のサポートや家賃の債務保証などを通じてアパートに移るための支援を行い、これまでに500人以上が施設を出てアパート暮らしを始めたということです。

このNPOには、先月の緊急事態宣言のあと、自治体の福祉事務所などから合わせて20人前後の受け入れ依頼がありました。

入居を希望する人からは、「新型コロナウイルスの影響で仕事が見つからず、住まいも失ってしまった」とか、「都が提供しているビジネスホテルに滞在しているが、期限があるので入居させてほしい」といった相談が相次いでいるということです。

NPOは、このうち9人を受け入れましたが、すぐに満室となり、現在は4人が部屋が空くのを待っている状態だということです。

NPO法人の滝脇憲常務理事は「無料低額宿泊所は困っている人をすぐに受け入れることが大きな役割だが、すでに満室の状況で断らざるをえない。今後は住まいに困る人たちがさらに増えるのではないかと心配している」と話しています。

別の宿泊所 “感染防止で受け入れ困難”

「無料低額宿泊所」の中には空室があっても感染防止のため、これ以上の入居者の受け入れは難しいと考えているところもあります。

東京 中野区にある「自立支援ホームわかば荘」は、自治体の福祉事務所などから依頼を受けて、主に生活保護の受給者を受け入れていて、先月の緊急事態宣言のあとは3人の受け入れ依頼がありました。

施設には15の個室がありますが1部屋しか空きがなかったため、2人は断らざるをえませんでした。

今月に入って1部屋が空きましたが、高齢の入居者が多いことから、感染防止のためにはこれ以上の受け入れは難しいと考えています。

この施設では、入居者に手洗いや消毒、それにマスクの着用を呼びかけているほか、手すりや食堂などの消毒を徹底し、先月からは、夕食時に入居者全員が集まる食堂のテーブルに飛まつを防ぐための仕切り板を設置しています。

戸田由美子施設長は「仮に感染者が出た場合、施設の運営自体が困難になるので、今は受け入れは難しい。宿泊所は家族と縁が切れたり、住む場所を失ったりした人たちの居場所としての役割を果たしているので、本来は受け入れてあげたいが、施設を守るだけで精いっぱいなのが現実で非常に残念だ」と話しています。

アパートへの入居支援する団体も

東京 府中市で生活困窮者の支援にあたる「府中緊急派遣村」は、生活保護を申請する人がアパートに入居できるよう支援しています。

先月中旬に相談に訪れた30歳の派遣社員の男性は、5年間、多摩地区のネットカフェで寝泊まりする生活を続けてきましたが、都の休業要請によって居場所を失い、派遣先の工場の仕事も半分に減って、所持金がほとんどない状態になったということです。

住まいを失った人が生活保護を申請する際にアパートへの入居を希望しても、住民票がなく連帯保証人がいないなどの理由で入居できない人が多いのが実情です。

このため、支援団体は男性に同行して生活保護の申請をサポートし、アパートを借りることができるよう不動産会社を仲介するなどしました。

派遣社員の男性は、団体の支援で今月1日からアパートに入居できるようになり、「こんなに早く新しい住居が見つかるとは思っていなかったので、本当にありがたいです。ここを起点に、自立していけるように仕事を頑張っていきたい」と話していました。

「府中緊急派遣村」共同代表の松野哲二さんは「住まいを失った人が生活保護の申請の際に、すぐにアパートを見つけようとしても、1人ではほぼ無理な状況だ。生活困窮者が住居を確保できるよう、行政が支援する必要がある」と話しています。