雇用調整助成金 相談件数は全国で延べ約27万件 新型コロナ影響

雇用調整助成金 相談件数は全国で延べ約27万件 新型コロナ影響
新型コロナウイルスの影響で休業を余儀なくされる企業が相次ぐ中、雇用を維持するための国の「雇用調整助成金」に関する相談件数は全国で延べおよそ27万件に上ることが労働局への取材でわかりました。厚生労働省によりますと助成金の支給が決まったのはこれまでにおよそ5000件で引き続き、制度の活用を呼びかけています。
「雇用調整助成金」は、売り上げが減少した企業が従業員を解雇せずに休業手当などを支払った場合に費用の一部を助成する制度です。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、厚生労働省は助成率を引き上げるなど段階的に拡充し積極的な活用を呼びかけています。

労働局の窓口には企業からの相談が殺到していてNHKが全国47の労働局に取材したところ、相談件数は制度の拡充が始まったことし2月14日から11日までに、延べおよそ27万件に上ることがわかりました。

厚生労働省によりますと、助成金を受け取るために必要な企業からの申請は11日までに1万2857件あり、5054件の支給が決定しています。

各地の労働局では、窓口で対応する職員を増やしたり、土日も審査を進めたりするなど、態勢を強化して対応にあたっていて今後、企業からの相談や申請はさらに増えるとみています。

厚生労働省は手続きの簡素化や、支給までにかかる期間を通常の2か月から2週間程度に順次、短縮を進めていて、引き続き制度の活用を呼びかけています。

「申請までの道のりが険し過ぎる」

国が従業員の雇用を維持するため活用を呼びかけている「雇用調整助成金」について岩手県盛岡市の居酒屋が先月、申請を行った際に作成した書類は70枚余りに上ったということで、経営者の男性は「申請までの道のりが険し過ぎる」と話しています。

盛岡市中心部で3店舗の居酒屋を経営する佐久士貴雅さんは新型コロナウイルスの影響で先月から営業規模を縮小し、23日からは全店で休業に入りました。

従業員11人には休業手当を払い、雇用調整助成金を活用しようとしましたが、申請書類は10種類に上り、出勤簿や給与明細など添付が必要な資料も数多くあったといいます。

特に先月は休業が段階的だったため、給与と休業手当がそれぞれいくらかを一人一人計算しなければならず、申請書類をまとめるには3週間かかったということです。

最終的に作成した書類は71枚に上り、佐久士さんは先月28日、労働局に書類を提出しました。

佐久士さんは「書類が多い上に相談窓口も混乱していて誤った説明を受けたこともあった。制度自体はありがたいが申請までの道のりが険し過ぎる」と話していました。

佐久士さんは今月7日から3店舗のうち1店舗の営業を再開させましたが、休業手当と家賃などで月に200万円近くの支払いがあり、雇用調整助成金の早期の支給を求めています。

「手続きを簡単にしてほしい」

「雇用調整助成金」を申請する予定の飲食店の経営者からは、「手続きを簡単にしてほしい」という声が聞かれました。

東京 板橋区で10年近く居酒屋を営む望月由美子さん(37)は、正社員の料理人とアルバイトの合わせて2人を雇用しています。1か月の給料は料理人には28万円、週末を中心に働くアルバイトに5万円余りを支払っています。

居酒屋は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、先月5日から休業していて、多いときで1か月におよそ250万円に上った売り上げはなくなりました。このため望月さんは自分の貯金の中から、月25万円の家賃を払ったうえで、従業員を解雇せずに休業手当を支払うこと、それに雇用調整助成金を利用することを決めました。

望月さんはまずは料理人に支払う休業手当について助成金を受け取るために実施の計画や売り上げが記載された資料など6種類の書類を用意しました。しかし専門用語が多く内容を正しく理解するのに時間がかかったということです。

そして先月10日に、地元のハローワークに6種類の書類を提出しようとしましたが、記入漏れを指摘されたうえに、ほかにも平均賃金や就業規則などが記載された11種類の書類に準備するよう説明されたということです。

望月さんは「こんなに書類が必要だとは思わなかったし、こんなに大量の書類を用意したことはこれまでない。収入がなく苦しいので、ありがたい助成金だが、書類をわかりやすく簡単にしてほしい」と話していました。

政府 助成金上限額の引き上げなど検討

新型コロナウイルスで企業が長期にわたって休業せざるをえないなど影響が広がる中で、雇用を維持するための助成金の拡充がすすめられてきましたが、企業からの「活用しにくい」という声を踏まえて、政府は助成金の上限額の引き上げなどを検討しています。

雇用調整助成金は売り上げが減少しても企業が従業員を解雇せずに雇用を維持し、休業手当を支払った場合にその一部を助成する制度です。労働基準法では、会社の都合で労働者を休業させた場合、平均賃金の60%以上の「休業手当」を支払わなければならないとされています。

厚生労働省はことし2月以降、雇用調整助成金を拡充するなどして会社都合かどうかにかかわらず制度を活用し、休業手当を支払って雇用を維持するよう呼びかけてきました。

具体的には助成率を段階的に引き上げ、1人も解雇しなかった場合、
▽中小企業で10分の9、
▽大企業で4分の3としました。

さらに中小企業については、都道府県からの休業要請があり、賃金と同額など一定の水準を超える休業手当を支払った場合はその全額を、また要請がなくても、賃金の60%を超える額の休業手当を支払った場合、超えた分の費用を全額助成します。

ただしいずれの場合も助成される額は1日1人当たり8330円が上限で、それを超えた分は企業の負担となるため、企業からは「助成率が引き上げられても上限があるため負担が大きい」とか、「手続きが複雑だ」などといった声が上がっていました。

このため政府は、雇用調整助成金の上限の引き上げのほか、休業している人たちを失業状態にあるとみなして雇用保険の失業給付を行う案も検討しています。

このほか、手続きの簡素化や、全国の申請窓口の拡充を行って、支給までにかかる期間を通常の2か月から2週間程度に順次、短縮を進めています。

専門家「申請から支給までの期間をより短く」

長年、中小企業からの相談にあたっている社会保険労務士の旭邦篤さんは、「雇用調整助成金」に関する相談が急増していることについて「こうした状況は初めてで、リーマンショックや東日本大震災の時以上にすべての業種、そして大中小、企業の規模を問わずに影響が出ていると感じる」と話していました。

また、いったん事業者が従業員に休業手当を支払ったうえで、あとから助成が行われる現在の「雇用調整助成金」の制度について「今は緊急事態なので、事業者側が事前に休業手当の見込み額を算出し、まず国が助成するといった案についても、検討すべきではないか」と指摘しています。

そのうえで「今後も事業者が厳しい状況に置かれる状況は続くと考えられる。切迫した事業者の声に応じていくためにも、制度が使いにくいようであれば、すぐに見直しを行うとともに、申請から支給までの期間をより短くしていく必要がある」と話しています。