トヨタ 営業利益大幅減へ 豊田社長「リーマンよりインパクト」

トヨタ 営業利益大幅減へ 豊田社長「リーマンよりインパクト」
トヨタ自動車は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で世界的に車の販売が落ち込むとして、来年3月期の決算で本業のもうけを示す営業利益が5000億円と、ことし3月期と比べて80%近く減るという厳しい見通しを発表しました。
トヨタ自動車が12日発表したことし3月期の決算は、
▽売り上げが前の年度より1%減って29兆9299億円、
▽本業のもうけを示す営業利益は1%減って2兆4428億円でした。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で販売台数が12万7000台減少するなどして営業利益を1600億円押し下げました。

一方、来年3月期の業績予想では、新型コロナウイルスの影響が世界的に拡大することから、グループ全体の世界での販売計画が890万台と前の年度より14.9%落ち込むとしています。

このため、
▽売り上げは前の年度より19.8%減って24兆円、
▽営業利益は79.5%減って5000億円と、厳しい業績を見込んでいます。

新型コロナウイルスの感染拡大でトヨタは世界的に工場の一時停止を余儀なくされました。

これまでに中国では通常の生産体制に戻っているほか、今月からヨーロッパやアメリカなどで段階的に生産を再開させていますが、販売面への影響は長期化が避けられない見通しです。

オンラインで開いた記者会見で、トヨタの近健太執行役員は「先々を見通すのは非常に難しく、地域ごとに状況は異なるが、販売は4月を底に徐々に回復して、年末から来年にかけて戻ることを前提に業績の見通しを算出した」と述べました。

豊田社長「コロナはリーマンショックよりインパクト大きい」

トヨタ自動車の豊田章男社長は、12日、オンラインで行った決算会見の中で「今回のコロナショックはリーマンショックよりもインパクトがはるかに大きいと思っている」と厳しい認識を示しました。

そのうえで、来年3月期の営業利益の見通しが80%近い減益になると発表したことについて、「リーマンショックの時よりも販売台数の減少は大きいが、黒字は確保できる見通しであり感染が収束したあと、復興のけん引役を担える準備は整ったと思っている」と述べ、営業赤字に転落したリーマンショックの時と比べて、企業体質の改善が進んでいるとの考えを強調しました。

販売 早期回復は見通せず

トヨタ自動車のグループ全体の決算で、来年3月期に営業利益が1兆円を割れば、2012年3月期以来9年ぶりになります。

トヨタは、リーマンショック直後の2009年3月期に営業損益が4610億円の赤字に転落しました。

世界的に車の販売が急激に落ち込んだことに加えて、円高ドル安が進んだためで、営業赤字は71年ぶりでした。

コスト削減などに取り組んだ結果、次の年度には黒字を回復し、その後2013年3月期には営業利益を1兆円に、2014年3月期には2兆円に乗せ、業績を向上させました。

しかし、昨年度・ことし3月期は、新型コロナウイルスの影響で世界的に需要が減少したほか、部品の調達にも影響が出て、工場の一時停止を余儀なくされました。

その後、中国では通常の生産体制に戻り、今月に入ってヨーロッパやアメリカでも段階的に生産が再開していますが、急速に冷え込んだ販売が早期に回復するかどうかは見通せない状況です。

大手海運会社の事業にも影響

新型コロナウイルスの感染拡大による自動車の生産や販売の減少は、車を各国に輸送する商船三井や日本郵船、川崎汽船など大手海運会社の事業にも影響を及ぼしています。

このうち、商船三井のことし1月から3月の自動車船の輸送台数は、89万9000台と、去年の同じ時期に比べて12%余り減少しました。

また4月以降も自動車船の輸送量は大幅に減少し、今後、世界で感染拡大が収束していったとしても、緩やかな回復にとどまるのは避けられないとして、来年3月までの今年度1年間の輸送量は前の年度より20%から30%落ち込むと予想しています。

日本郵船や川崎汽船も輸送量の落ち込みを懸念しています。

官房長官「対策を総動員して支えていく」

菅官房長官は午後の記者会見で「自動車産業は欧米市場が低迷し、国内生産も停滞するなど大変厳しい状況だ。中小部品メーカーを含め、すそ野が広く、金融支援、持続化給付金などの対策を総動員して、資金繰りを支えていくことが大事だ」と述べました。

そのうえで「企業活動の安定的な実施のために、製造業を含む産業界や業種別の感染予防策のガイドラインを作成していただくこととしており、政府としても必要な情報提供・助言を行っていきたい」と述べました。

さらに、菅官房長官は「例えば、事業所の換気設備、テレワーク環境整備といった事業者による3つの密を避けるための取り組みを支援する補助金や、使途制限のない給付金を用意するなど全面的に支援し、産業界と政府が一体となって、着実な経済活動の再開に向けて全力を尽くしていきたい」と述べました。

自動車メーカー取り巻く状況

新型コロナウイルスの感染拡大で需要が急速に落ち込んだり、部品の調達が難しくなったりしたことで、自動車メーカー各社は生産や販売に大きな影響を受けています。

12日、ことし3月期の決算を発表したトヨタ自動車やホンダ、業績見通しを下方修正したマツダのほかにも、日産自動車がことし3月期の決算で最終的な損益が赤字に転落する見通しとなっているほか、三菱自動車工業も260億円の最終赤字になる見通しです。

世界の自動車市場では、感染の拡大が深刻だった中国で日系メーカーのすべての工場が一時、操業停止に追い込まれました。

その後、各社の生産が再開され、中国での先月の自動車の販売台数は去年の同じ月と比べて4%余り増加し、回復傾向になっています。

また、今月に入ってヨーロッパやアメリカなどでも段階的に生産を再開する動きが出始めています。

しかし、国内と海外の多くの工場では依然として生産調整が続いていて、自動車メーカー各社の業績の先行きは不透明です。

金型メーカーは…

トヨタ自動車の業績の見通しについて、愛知県にある自動車部品の金型メーカーは「営業黒字が確保される見通しでよかったが、需要がいつ回復するのか、不透明な状況は変わらない」と話し、厳しい経営環境が続くことへの懸念を示しました。

愛知県清須市に本社がある車のドアや窓枠の部品の金型を生産するメーカー、「エムエス製作所」は、売り上げのおよそ半分がトヨタグループ向けとなっています。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、国内外のトヨタの工場の生産が一時的に停止したことなどで、先月と今月は、見込んでいた受注の3分の1がなくなったほか、来月以降の受注も大幅に減少しています。

トヨタが来年3月期の営業利益が80%近く減るなど厳しい見通しを示したことについて、金型メーカーの迫田邦裕副社長は「営業黒字が確保される見通しでよかったが、需要がいつ回復するのか、不透明な状況は変わらない」と厳しい経営環境が続くことへの懸念を示しました。

そのうえで、迫田副社長は「長期戦になることは覚悟しないといけないが、在宅勤務も増えるなかで、業務のむだが見えてきた。従業員の間で知恵を出し合いながら、原価の低減を図りたい」と話し、収益力の改善に取り組む考えを示しました。

1兆2500億円の融資受ける

トヨタ自動車は先月、国内の複数の金融機関から合わせて1兆2500億円の融資を受けたことを明らかにしました。

財務状況に問題はないものの、新型コロナウイルスの感染拡大が長期化し、車の需要が一段と低迷した場合などに備えるためで、返済期限は1年程度としています。

自動車業界では、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに手元の資金を厚くしておく動きが広がっています。