検察庁法改正案 日弁連が臨時会見「法案成立急ぐ理由は皆無」

検察庁法改正案 日弁連が臨時会見「法案成立急ぐ理由は皆無」
検察官の定年延長を可能にする検察庁法の改正案について日弁連=日本弁護士連合会が11日、臨時の記者会見を開き「三権分立を揺るがすおそれのある法案の成立を急ぐ理由は皆無だ」として国会で拙速に審議を行うべきではないと強く抗議しました。
検察官の定年を段階的に65歳に引き上げ、内閣や法務大臣が認めれば定年延長を最長で3年まで可能にする検察庁法の改正案は今月8日から衆議院内閣委員会で審議され、政府・与党は今週中の衆議院通過を目指しています。

これについて日弁連=日本弁護士連合会は11日、臨時の記者会見を開き「内閣と法務大臣の裁量で定年延長が行われることで不偏不党が求められる検察の独立性が侵害されることを強く危惧する」と訴えました。

そのうえで「緊急事態宣言が継続する中、三権分立を揺るがすおそれがある法案の成立を急ぐ理由は皆無だ」として国会で拙速に審議を行うべきではないと強く抗議しました。

会見した日弁連の大川哲也副会長は「新型コロナウイルスへの対策が急がれる中、国民に熟慮の機会を与えず性急にことを進めることは断じてありえない」と批判しました。

検察庁法の改正案や東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長をめぐっては日弁連のほか、全国35の弁護士会や弁護士会連合会が反対する会長声明を表明しているということです。

検察庁法改正案めぐる議論は

国会で審議が始まった検察庁法の改正案は、検察官の定年を段階的に63歳から65歳に引き上げるとともに、「役職定年制」と同様の趣旨の制度を導入し、地方検察庁トップの検事正や全国8つの高等検察庁のトップの検事長などは原則、63歳でそのポストから退くことが定められています。

しかし、内閣や法務大臣が「公務の運営に著しい支障が生じる」と認めれば、役職定年や定年を超えてポストにとどまることができ、最長3年まで定年延長が可能としています。

検察官の定年延長をめぐっては政府がことし1月、東京高検の黒川検事長の定年をこれまでの法解釈を変更して半年間延長したことに野党側からは「官邸に近い黒川氏を検事総長にするためではないか」などと批判が相次ぎ、検察庁法の改正案についても弁護士などから「検察官の政治的中立性を脅かし、政権が検察人事に介入できる仕組みを制度化するものだ」と反対の声が上がっています。

さらにこれまでの国会審議で、法務省が去年10月末の時点で検討していた当初の改正案では「公務の運営に著しい支障が生じることは考えがたい」などとして検察官には定年延長の規定を設ける必要がないとしていたことが明らかになり、野党側や弁護士などが「法解釈の変更による黒川検事長の違法・不当な定年延長を法改正によって後付けで正当化するものだ」などと批判しています。

これについて森法務大臣は「通常国会に法案を提出するまで時間ができたので改めて見直しの検討作業を行い、ことし1月、新たな解釈を前提に検察庁法の改正案に勤務延長の条文を追加した。勤務延長は検察権の行使に圧力を加えるものではなく検察権の独立は害されない」などと説明しています。

ツイッターの投稿は2日間で延べ480万件超

「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけた投稿は10日夜までの2日間で延べ480万件を超えるなど急速に広がりました。

このハッシュタグを含む投稿を専用のソフトを使ってNHKが分析したところ、最初の投稿は今月8日夜にされましたが、9日になって多くの俳優やミュージシャンなどの著名人が賛意を示し始めると増加し、10日午前4時の時点で抗議の投稿はリツイートも含めて100万件を突破しました。

そして、10日午前10時には200万件を突破し、ツイッターのトレンドでは「母の日」を抑え、長時間トップになりました。

投稿は10日夜までに延べ480万件を超え、東京高等検察庁の黒川検事長の定年延長や検察庁法の改正案についての国会審議の動画なども相次いで投稿されていて「検察庁法の審議」、「政治的発言」などという関連のツイートもトレンドになりました。

著名人からも抗議の投稿相次ぐ

ツイッター上では俳優や作家、ミュージシャン、映画監督などさまざまな分野の著名人からも抗議の投稿が相次いでいます。

「大事なことは、ちゃんと国民に説明してから、順序に則って時間をかけて決めませんか?そんなに急ぐ必要があるんですかね」(俳優・城田優さん)

「どのような政党を支持するのか、どのような政策に賛同するのかという以前の問題で、根本のルールを揺るがしかねないアクションだと感じています」(いきものがかり・水野良樹さん)

「猫と美味しいもののことだけ呟いていたかったけど、これは駄目だ。これだけは駄目だ。日本の最高権力者が、自分を守ってくれる人間を検察のトップに据えようとしている」(作家・村山由佳さん)

「国民が感染症に苦しんでいるときに、内閣や法相が認めれば、検察庁幹部の定年を例外的に延長できる法律を通すなんてストーリーを書いたら、プロデューサーから間違いなく『ありえないです。リアリティがなさすぎ』と突っ込まれると思う」(劇作家・鴻上尚史さん)

このほか作詞家の松本隆さん、映画監督の岩井俊二さん、俳優の浅野忠信さん、作家の角田光代さん、漫画家の羽海野チカさんなども「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグをつけて投稿しています。

専門家「類を見ないムーブメント」

ネットと政治の問題に詳しい東京工業大学の西田亮介准教授は「社会や政治に関わる問題で投稿が480万件を超えるのは日本ではとても珍しく、大変な盛り上がりを見せたと思う。ハッシュタグを社会運動で活用するというのは近年の世界に目を向けても特徴の1つで、最近だと世界の運動の流れに日本の運動が合流していった「#MeToo」の例があるが、今回は日本国内だけでこれまでに類を見ないような大きなムーブメントになった」と述べました。

投稿が急速に広がった背景については「これまで政治や社会に対して、積極的な発信をしていなかった著名人が投稿したことで、これは大変な問題なんだという印象を、ファンやフォロワーの人たちに与えている可能性があり、自分もその動きに参加しようという問題意識を刺激したのではないか。また、感染拡大の影響で多くの人たちが、自粛を余儀なくされている中でかねてから指摘されていた法改正の問題が、一見関係なさそうに思えるタイミングで出されたことへの反感もあるのではないか」と指摘しました。

そのうえで「日本では、政治に対する無関心や低い投票率の問題が指摘されてきたので、政治の問題に多くの人たちが関心をもち、発言するというのはよい変化だと思う」と話しています。