「自粛警察」相次ぐ 社会の分断防ぐ冷静な対応を 新型コロナ

「自粛警察」相次ぐ 社会の分断防ぐ冷静な対応を 新型コロナ
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出の自粛や休業の要請に応じていないとSNSなどで指摘する行為は、インターネット上で「自粛警察」や「自粛ポリス」などと呼ばれています。

専門家は「こうした行為は自分を守ろうという防衛本能の表れだが、社会に分断を生み出している」として冷静な行動を呼びかけています。

“無観客ライブ”で誤解 店に「自粛」求める貼り紙

都内では、休業要請を無視して通常営業を続けているのではないかと誤解を受けた店が、非難の貼り紙を貼り付けられたケースもありました。

東京 杉並区のライブバーでは客が食事をしながら生演奏を楽しむことができますが、東京都からの休業要請を受け、先月から客を入れての営業を取りやめています。

そして、先月26日、客を入れずに歌手のライブを行い、そのもようをインターネットで配信しました。

すると、ライブの最中、何者かに店の出入り口に「自粛してください。次発見すれば、警察を呼びます」などと書かれた貼り紙が3枚貼り付けられました。

東京都は、インターネット配信などの目的で観客を入れずにライブを行う場合、感染防止の対策が取られていれば問題はないとしていて、店側も都に確認したうえで、換気や消毒など対策をしたうえで実施したということです。

ライブバーを経営する村田裕昭さんは「誤解を受けたのは残念で、店側も配慮が足りなかった。不安な時期だから指摘をしたい気持ちも分かるが、お互いに落ち着いてできることをやっていくしかない」と話していました。

事実無根の情報がネット上の書き込みで拡散

さらに、「新型コロナウイルスに感染した従業員がいる」とか「感染した人が客として利用していた」など、企業や飲食店に対する事実無根の情報がインターネット上に書き込まれるなどして、拡散してしまう事態が各地で起きています。

このうち、福井市の飲食店は先月、SNS上に投稿された感染の広がりを示すものだとされる相関図に、従業員が感染した店として実名で記載されました。

従業員が感染したという事実はありませんでしたが、情報は拡散し、予約のキャンセルや店を閉めるよう求める電話などが相次いだということです。

また、福島市では、飲食店を経営する男性のもとに、市内で初めてとなる感染者が確認された翌日、知人から「感染した人が店を利用していたという話が広がっている」と連絡がありました。

男性は店のSNSを使って事実無根だと訴えましたが、うその情報は拡散し、問い合わせが相次いだということです。

「自粛警察」 投稿者を取材すると

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出の自粛や休業の要請をめぐって、応じていない人や店舗があるなどとして、警察や行政に通報したりSNSで指摘したりする行為はインターネット上で「自粛警察」や「自粛ポリス」などと呼ばれ、議論となっています。

NHKは、こうした人たちに取材しました。
このうち、小売店の人出の多さを撮影しSNSに投稿をしたという30代の男性は、「自粛警察」と呼ばれるような行為をしたつもりはないとしたうえで、「人が少なくなったところばかりを取り上げるマスコミに対し、利用者が増えている場所があり、実態とは違うということを指摘したかった」と話しています。

また、ネット上に感染に関するうわさを書き込んだという人は「みんなに広がればもっと自粛など危機感を持たせられるという意味を込めてツイートした」と話していましたが、うわさとなった情報のでもとなどの詳細は分からなかったとしています。

一方、コンビニエンスストアでマスクをせずに電話をする男性を見かけ地元の自治体に通報したという高齢者施設に勤務する30代の男性は「施設で暮らす高齢者に感染を広げまいと細心の注意を払う中、対策を取っていないように見える人が本当に許せなかった」としたうえで、「『自粛警察』と呼ばれる行為に全面的に賛成はできないが、対策を取らない人は自由に行動し、注意して生活する人ばかりが疲れてしまっている。事態をよくするには、こうするしかなかった」と話していました。

ネットにうその情報 刑事事件で立件も

新型コロナウイルスの感染拡大をめぐっては、インターネット上にうその情報を流したとして、刑事事件として立件されるケースも起きています。

長野県では、インターネットの掲示板に実在する会社の名前を挙げて「新型コロナウイルスの感染者が勤務しているらしい」などと、うその書き込みをしたとして、男が名誉毀損の疑いで先月、書類送検されました。

この会社の社員が新型コロナウイルスに感染した事実は確認されておらず、警察は、会社からの刑事告訴を受けて捜査を進め、会社員を特定したということです。

また、山形市では、男が実在する飲食店を名指ししたうえで「この店にはコロナ感染者がいるから行かないでくださいね。コロナの巣窟だ」などと、8回にわたってツイッターにうその情報を書き込み、店の営業を妨害したとして、偽計業務妨害の罪で先月、起訴されています。

インターネットのトラブルに詳しい清水陽平弁護士は「誤った情報を拡散したことで相手に大きな被害を与えれば、悪意のあるなしにかかわらず、偽計業務妨害や名誉毀損の疑いで、警察に立件されることは十分にある。不確定な情報をインターネットなどで不用意に広げることは思わぬ結果を招くこともあるので、注意すべきだ」と話しています。

専門家「悪意はなく過剰な防衛本能が問題行動に」

いわゆる「自粛警察」と呼ばれる行為や、感染者に関する事実無根の情報をインターネット上に書き込む行為について、社会心理学が専門で新潟青陵大学大学院・臨床心理学研究科の碓井真史教授は「ほとんどの人に悪意はなく、過剰な防衛本能が問題行動を引き起こしている」としたうえで、「行き過ぎると世の中を分断することにつながり、感染予防に逆効果となる」として、冷静な行動を呼びかけています。

そのうえで、不正確な情報が多く発信されていることについては「今は緊急事態なので真偽を確認している暇はない、疑わしいものは全部排除しなければ自分の命に関わるという切迫した気持ちで、そのまま間違った情報を発信しているのではないか」と話しています。

そして、こうした行動を抑えるための対策として「不安な気持ちを鎮めるため、まずは最新の情報から離れ、落ち着いて正しい情報を見極めることが重要だ」としたうえで「行政やマスコミもルール違反をした人をたたくような情報発信を控え、人々が納得できる伝え方を模索するべきだ」と指摘しています。