シンガポール 新型コロナ感染急増 9割が外国人労働者

シンガポール 新型コロナ感染急増 9割が外国人労働者
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シンガポールでは先月以降急増している新型コロナウイルスの感染者の9割が、集団生活を送る外国人労働者であることから、外国人労働者のPCR検査の態勢を強化してさらなる感染拡大の防止に躍起になっています。
シンガポールでは、新型コロナウイルスの感染者が最初に確認された1月以降、目立った感染の広がりが確認されず、当初はWHO=世界保健機関もその対応を高く評価するほど抑え込みに成功していると見られていました。

しかし先月以降感染が急速に拡大し、感染が確認された人の数は1か月余りで20倍以上に増え、シンガポール政府の保健省によりますと、9日までに合わせて2万2000人を超えました。

そして感染者の9割は、シンガポールの経済発展を支える外国人労働者が占めています。

外国人労働者は狭い空間での集団生活を余儀なくされており、感染が広がりやすい環境にいることが理由と見られ、政府は外国人労働者へのPCR検査を強化して全容を把握しようとしています。

政府によりますと、今月4日までの4週間で7万5000人余りにPCR検査を実施し、これまでに外国人労働者に対しても2万5000人余りの検査を終えたとしています。

今後、検査能力を現在の5倍に当たる1日4万人まで引き上げて対応するということで、シンガポール政府はさらなる感染拡大の防止に躍起になっています。

当初は緩やかな制限

シンガポール政府は、早くから海外からのウイルスの流入を警戒して厳しい水際対策を打ち出した一方、当初、国内では緩やかな制限にとどめていました。

経済や社会活動の混乱を避けるねらいがあったためです。

最初の感染が確認された1月から4月上旬までは、10人以上の集まりを禁止する程度にとどめ、レストランや小売店などの営業や企業の経済活動には大きな制限はかけず、マスクについても、「症状がないなら着用しなくてよい」と繰り返していました。

しかし、こうした政府の姿勢は裏目に出て、3月中旬以降、レストランなど公共の場での集団感染や海外からの帰国者からの感染などで、感染者が少しずつ増えていきました。

そして先月に入ると、バングラデシュやインドなどから建設業界などへの出稼ぎでシンガポールに滞在する外国人労働者の間で症状を訴える人が相次ぎ、政府が同じ居住区に暮らす外国人労働者を調べた結果、感染が爆発的に広がっていたことが分かりました。

感染が確認された人の実に9割が、外国人労働者だったのです。

先月には、多い日で1日に1000人を超える外国人労働者の感染が確認されたほか、今月に入っても連日数百人の感染が確認されています。

シンガポールには、「労働許可証」と呼ばれるビザを所有する外国人労働者が、およそ100万人います。シンガポール政府は、この中でも特に、建設現場で働くおよそ30万人の間で感染が広がり、警戒が必要だとしています。

フェンスに囲まれた居住区や雇用主が用意した狭い宿舎での集団生活を余儀なくされていて、10人ひと部屋で、台所やトイレ、それにシャワーは共同で使うなど距離が保ちにくく感染が拡大しやすい状況でした。

こうした状況に対し、居住区に住むバングラデシュ人の男性は「一緒に生活していた10人のうち3人が感染し、4人が検査の結果を待っている。数日前に発熱があったから、私も感染しているかもしれない」などと述べ、不安な心境を明かしていました。

これに対し、政府が外国人労働者の居住区での感染拡大の実態を調べるためにPCR検査を始めたのはすでに感染が広がったあとで、ローレンス・ウォン国家開発相は「外国人労働者の宿舎で一気に感染拡大すると予想できなかった。予想できていれば、違う措置をとっていた」と述べ、対応の遅れを認めました。

感染拡大後 厳しい対策

感染者の急増を受け、シンガポール政府は先月7日以降、これまでの比較的緩やかな外出制限を一転させ、生活に最低限必要な業種を除く企業のオフィスや学校を閉鎖。

外出についても、マスクの着用を義務づけ、目的も食料の買い出しや運動などに限っています。

さらに同居している家族や家政婦などを除く面会を禁止していて、公共の場はもちろん、自宅を訪れる人との面会も認めていません。

さらに、人が集まりやすい市場や公園など街の至る所に監視員が配置され、2人以上で集まっている人を見つけると距離を保つよう注意して回っています。

こうした対策はオフィスビルも対象で、先月にはNHKの支局が入るビルにも担当者が訪れました。

勤務が認められている職業かや、室内でも人と人との距離を保っているのかなどを調べて、問題がないことを確認していきました。

政府はこうした厳しい措置は、来月1日まで続けるとしています。

経済活動全面再開には慎重

シンガポール政府は、先月から1か月余りにわたって経済活動を制限してきましたが、今月12日から一部を緩和し、製造業などに限って再開することを認めました。

ただ、経済活動の全面的な再開については現時点では明確な時期を示しておらず、慎重な姿勢を崩していません。

外出規制や経済活動の制限の緩和の具体的な基準については、シンガポール人などの1日当たりの新たな感染者がゼロ、または1桁といった低い水準を一定程度維持するとともに、感染経路が分からない感染者の数を限りなくゼロに近づけることなどが、最低限の条件だとしています。

1月下旬以降厳しい水際対策

シンガポール政府は、新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認された1月下旬以降、海外からウイルスが入ってくるのを防ぐ厳しい水際対策を打ち出し、感染拡大の抑え込みを図りました。1月下旬以降空港での検疫を強化し、体温チェックを義務づけたほか、感染が疑われる症状がある入国者に対しては、空港でのPCR検査を義務づけました。

また、中国をはじめ感染が拡大する国などからの入国を禁止し、3月下旬には、すべての外国人の入国を禁止しました。世界的な感染拡大を受けて海外から帰国したシンガポール人などには、自宅やホテルなどでの14日間の経過観察を義務づけ、これに違反して外出した場合、日本円にして75万円以下の罰金や6か月以内の禁錮刑などを科すという厳しい措置も導入しました。

そして感染が確認された人の住所や職業、それに過去2週間に滞在した場所などを公表し、接触のあった人に注意を促したほか、専門のチームが感染が確認された人の濃厚接触者を調べ、対象者にはPCR検査を受けさせたり経過観察を義務づけたりしました。

このほか、医療機関での受診をしやすくするため、2月中旬からは、感染が疑われる症状がある場合にはシンガポール人と永住者を対象に、医療費の一部を負担するようになりました。こうしたシンガポールの封じ込め対策は、WHO=世界保健機関も高く評価し、テドロス事務局長も記者会見で、「シンガポールは、国を挙げて感染防止をしているよい例だ」と述べ称賛していました。