“コロナ後”の消費者ニーズは アイリスオーヤマ 大山晃弘社長

“コロナ後”の消費者ニーズは アイリスオーヤマ 大山晃弘社長
新型コロナウイルスで大きな危機に直面する日本経済。しかしその危機をチャンスととらえ、新たなビジネスを模索する動きもある。生活用品メーカー「アイリスオーヤマ」。大山晃弘社長は深刻な品不足が続くマスクの国内生産をいち早く決めたほか、“アフターコロナ”を見据えた商品開発を次々と進めようとしている。未曾有のコロナ危機をどう捉え、その先にどんな世界を見据えるのか、奇抜な発想で成長を続ける会社のトップに話を聞く。(聞き手 仙台放送局記者 高垣祐郷)

コロナ危機でも売れるものは?

プラスチック容器の生産に端を発し、消費者に密着した様々な生活用品を供給するアイリスオーヤマ。

そんな企業でもコロナ危機の影響は避けられないだろうと大山社長に質問を投げかけた。しかし返ってきたのは意外な答えだった。
大山社長
「いまコロナの影響で、売り上げは非常に伸びています。特にマスクを中心とした衛生用品が伸びています。また巣ごもり消費によって、保存のきく食料品、テレワークに使う液晶モニターやシュレッダー、それにパソコン用デスクといったものが非常に伸びています」
アイリスオーヤマは、缶詰やパックご飯などの食料品のほか、最近では4Kに対応した液晶テレビなど家電製品のラインナップも急速に増やしている。こうした商品が巣ごもり消費やテレワークなどの需要を受けて大きく売れているという。

そのうえで目下のコロナ危機がどの程度続くとみているか、それが会社の業績にどう影響するか聞いてみた。
大山社長
「緊急事態宣言が解除されたとしても、コロナウイルスがなくなるわけではない。第二波、第三波というものが起こりえるので、少なくとも年内はコロナの影響は色濃く残るし、おそらく来年の4月か5月までは大きく影響を受けるのではないでしょうか。われわれが手がけるのは生活に密着するものが多いですから、消費者心理が冷え込めば売り上げも下がってしまうと危惧しています」

マスク国内生産を決断した背景は?

新型コロナウイルスの感染拡大で大きく注目されたニュースがある。品不足が続くマスクを国内の工場で生産するという発表だ。
もともと中国の自社工場で生産していたが、6月から宮城県の工場でも生産を始め、7月には月1億5000万枚を供給する。価格が高騰する不織布などの原材料から国内で一貫生産する計画だ。

思い切った決断の背景には、9年前の東日本大震災の経験がある。
大山社長
「東日本大震災のときに企業として大きなダメージを受けました。地域社会も影響を受け、消費構造が大きく変わりました。そのときにわれわれは一気にLEDや食品事業に進出し、個人消費の変動を捉える経営に踏み切りました。その経験が今回生きたと思っています。中国・武漢でコロナウイルスが流行したときに、いち早く中国でマスクの増産を決定し、春節という中国のお休みを全部つぶして一気にマスクの増産を図りました」
大山社長は、中国の工場から寄せられる情報をもとに、国内でもマスクの需要が高まると予測し、増産に必要な行動を直ちに起こした。未曾有の危機では経営判断のスピードが何よりも重要になると強調する。
大山社長
「マスクの需要は間違いなく爆発すると思いました。まずはスピード第一だということで、できるだけ早く生産に必要な機械が手に入るよう、代金の前払いなどいろんなテクニックを使って頑張りました。1週間、2週間の判断の遅れが1か月2か月の遅れにつながると考えています。特に今の時期はマスクを作る資材も不足しているので、判断が遅れると原料が手に入らない状況にもなりかねない、今はスピードが命だと思っています」
大山社長
「今はどんなマスクでも皆さんほしがりますが、確実にこの状況は終わると思っています。ですので今からいいものを作って、皆さんがより快適に生活できるようなものを提供し、コロナ後にもマスクで底堅く商売できるようにしたいと考えています」

危機は必ずやってくる

今回インタビューでもっとも印象的だったのは、大山社長の危機に対する考え方だ。

1990年代の金融危機や2000年代のリーマンショックと、危機は必ずやってくる、そのときのために体力を備え、思い切った経営判断をすることが大事だという。
大山社長
「10年に1回、経済危機は訪れると思っています。だから平時は着実堅実な経営をして内部留保を貯める、そしてこういった有事に攻めの経営をする、そういうことを心がけています」

世界の工場、中国は

アイリスオーヤマは中国に9つの自社工場を持ち、家電製品や家具など幅広い商品を生産している。人件費が安いだけでなく、部品の供給などが受けやすいからだ。

しかし大山社長は、その中国にも変化が現れ始めていると指摘。世界のもの作りは徐々に国内回帰が進むとみている。
大山社長
「中国の意味合いは変わってくると思います。もちろん、中国が世界の工場であることは変わらないと思いますが、今回のマスクのように自動化しやすく、生産性が高い商品については、それぞれの国に生産拠点が戻っていくのではないでしょうか。中国は毎年のように人件費などのコストが上がっています。今回のような政策の大きな変更があれば、輸出の規制が大きく変わってしまうリスクもあります。生産設備の効率が非常に上がっているので、中国で製造する意味が薄くなっています。日本やアメリカ、ヨーロッパなどの一大消費地に向けて工場が一部戻っていくと思います」

コロナ後の世界はどうなる?

コロナ危機のあとにどんな社会経済が待ち受けているか、今こうした議論が盛んになっている。コロナ後の世界にどんなビジネスチャンスを見いだしているのか聞いてみた。
大山社長
「東京への一極集中が地方に分散されるという流れまでは行かないと思います。ただ遠隔で働くことが習慣化されると思いますので、東京圏の郊外で働く人が増えていく、自宅や郊外のスモールオフィスで働くことが常態化すると思っています。そこに新しい需要が生まれますし、自宅で仕事をするという意味でも新たな事業が生まれると思います」

コロナ危機をどう乗り切ればいい?

最後に未曾有の危機を、経営者として、ビジネスマンとして、どう乗り切ればいいか。変化に対応するための心構えを聞いてみた。
大山社長
「ピンチはビッグチャンスと考えることです。経済危機で目先の需要は大きく減りますが需要は変化します。ただその変化した需要を捉える人はあまりいません。常に情報収集をして、何が変わったかを探して、その変化にどう対応するかを考える、そうしたことの積み重ねが役に立つのではないかと思います」
「失敗したらやめてしまうのが一番ダメだと思います。必ず失敗には原因があるので、その原因を分析し、どうやったら同じミスを繰り返さないかを、前向きに考えることが大事です。全社を挙げて1つの事業に集中特化することはありません。いろんなことを同時並行で進めれば成功するものも残ります。バスケットの中にすべての卵を入れない、これが大事だと思っています」
目下のコロナ危機と、収束後の社会経済。時代の流れを因数分解して、それを自らのビジネスに引きつけ、消費者の需要を探し続ける大山社長。

すさまじい変化の荒波の中にこそチャンスはある、その経営哲学のもとでどんな商品が生み出されるのか、今後もその展開を追い続けたい。
仙台放送局記者
高垣祐郷
平成26年入局
山口局、秋田局を経て去年から仙台局で経済担当