居場所失い路上生活3週間超「雪山で遭難したよう」新型コロナ

居場所失い路上生活3週間超「雪山で遭難したよう」新型コロナ
緊急事態宣言が延長される中、仕事や居場所を失い路上生活を余儀なくされている人たちの暮らしは、日々、深刻さを増しています。

57歳男性 路上生活3週間以上

今月1日、東京・渋谷区の公園で寝泊まりしていた57歳の男性です。

男性は20代で九州から上京し、フリーターや派遣社員として働いていましたが、5年前に家賃が払えなくなり、日雇いの仕事をしながらネットカフェで寝泊まりする生活を続けてきました。

しかし緊急事態宣言が出されたあと、これまでやっていた事業所の移転作業やイベント会場の設営などの日雇いの仕事が全く見つからなくなりました。

ネットカフェも休業になり、それから3週間余り、都内の公園を転々としながら路上での生活を続けているといいます。

「上京し30年 今が最悪」

男性は100円ショップで6枚切りの食パンを買って朝と夜に3枚ずつ食べ、昼はあめや氷砂糖を5、6粒なめて空腹をしのいでいますが、所持金はこの日、500円を切っていました。

また、男性の携帯電話はプリペイド式でインターネットを使うことができず、国や自治体の支援策などの情報も届かないといいます。仕事場での仲間とのつながりもなくなり、公園の片隅で孤立していました。

男性は「自分は今、雪山で遭難したようなものだと思っています。大型連休明けに緊急事態宣言が解除されれば、仕事を見つけて自分でなんとか生活できると思っていましたが、もう、生活保護などの支援を受けなければ生きていけなくなってしまいました。上京して30年、今が最悪の状態です」と話していました。

33歳男性 「もう限界」

「お話し聞いてもらえますか?」先月30日、記者の携帯電話に1通のメールが届きました。送り主は、その2週間前に都内で開かれた生活困窮者を支援するNPOの相談会で出会った33歳の男性でした。

収入も居場所もない

男性は都内の飲食店で働きながらネットカフェで寝泊まりする生活を3年ほど続けてきましたが、先月初め、飲食店のオーナーから「しばらく出勤しないでほしい」と告げられ、月に20万円近くあった収入がゼロになったといいます。

そして先月12日からは都の休業要請を受けてネットカフェも利用できなくなり、居場所も失っていました。

「3日間、食べていません」

今月1日、2週間ぶりに会った男性の顔は青白く、ほおはげっそりとこけていました。

JR池袋駅前の公園で寝泊まりしているという男性は「3日間、何も食べていません。所持金はゼロになり、もう限界が来ました」と話しました。

夜は公園のベンチなどに座ったまま2時間ほど浅く眠る生活がおよそ3週間続き、心身ともに追い込まれていて、「初めての路上生活で本当に精神的に追い詰められて、飛び降りて死ぬことも頭をよぎりました」と打ち明けました。

“支援”届かず…

男性は先月下旬、都がネットカフェの休業で居場所を失った人たちの一時宿泊施設として無料で提供しているビジネスホテルを利用しようと区役所を訪れましたが、担当者に「きょうは締め切りになった」と言われ、諦めたといいます。

両親の離婚などをきっかけに住民票を実家に残したまま家を出たため、10万円の給付金は受け取ることができず、融資を受けるのも難しい状況です。

携帯電話の料金も払えなくなり、無料のWi-Fi を使って記者にメールを送っていました。

男性は「情報がなく、どこに行ったら助けてもらえるのかが全く分かりませんでした。メールしたのは、話を聞いてほしかったからです。本当に助けてほしいという思いがありました」と話しました。

記者の案内でビジネスホテルへ

翌日、男性は記者の案内で都の相談窓口を訪れ、大型連休の期間中はビジネスホテルに宿泊できました。

そして生活困窮者を支援するNPOにも相談し、窓口が開く連休明けに生活保護を申請するよう勧められました。

男性は「緊急事態宣言が延長され、いつになったら店で働けるのかと絶望しました。まだ30代で働き盛りの年齢なので、生活保護を受けることに抵抗がありましたが、1人では本当にどうにもならないので、国の支援を頼ろうと思いました」と話していました。

“ネカフェ難民”約4000人 都の支援策は

東京都によりますと、ネットカフェなどで寝泊まりしながら生活する人は1日当たりおよそ4000人と推計されています。

緊急事態宣言に伴うネットカフェへの休業要請を受けて、都は、居場所を失った人たちの一時宿泊施設として、ビジネスホテルの部屋を無料で提供する取り組みを行っていて、今月6日の時点で延べ823人がホテルを利用しています。

内訳をみますと、各地の福祉事務所で生活保護を申請したり、生活困窮者自立支援制度の窓口で申し込んだりして、ホテルに宿泊している人が418人、「TOKYOチャレンジネット」と呼ばれる都の窓口で申し込み、順次、民間アパートなどに移って生活保護を受けずに自立した生活を目指す人などが405人となっています。

NPO法人 「困窮する人たちの姿が見えにくくなっている」

生活困窮者を支援する東京のNPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」は、緊急事態宣言が出される中、先月は週2回のペースで臨時の相談会を行いました。その結果、面談での相談件数は1か月で163件に上り、「所持金が数百円しかない」「住まいや居場所を失った」などと、生活保護を申請しなければ暮らしていけない緊急性の高い相談が多く寄せられたということです。

NPOの大西連理事長は、「これまで普通に働いていた人が、感染拡大の影響で急に仕事を失い、所持金がなくなり、どうしようもなくなった状態で相談に訪れるケースが非常に多い。これまで行政の支援制度を利用したことがない人も多く、申請する場所や方法などの情報が十分に届いていない。制度によって窓口が違う縦割りの弊害も現場で起きており、行政には周知を徹底してほしい」と話しています。

そのうえで「感染拡大の影響が社会全体に広がる中で、困窮する人たちが声を上げづらい状況があり、その姿が見えにくくなっている。自分の命を守るための手段として生活保護の制度を遠慮なく使ってほしいし、そのためにも、制度に対する社会の理解が進むことを願っている」と話していました。